千葉県市川市にある、三陽商会の東日本商品センター。広大な2階フロアの一角に、リユース品のハンガーラックが整然と並ぶ。色、形、素材、時代がバラバラの服が、「三陽商会が作った服」という共通項で集まっている。同社は、2024年6月にリユース事業「RE: SANYO」の商品販売を開始し、2年連続で営業利益の黒字化を達成した。リセール事業単体での収益性を公表するアパレル企業は限られており、稀有な存在である。同センターを取材すると、短期間で黒字化を実現したいくつかの理由が見えてきた。その根底を支えているのは、仕分け台に立つ「個」の目だ。
黒字化を支える構造、内製化という選択
「RE: SANYO」は衣料回収を2024年3月に開始し、回収点数は24年度は約5万7000点、25年度は約9万2000点、累計約14万9000点となった。全国約750の売り場(EC・アウトレットを除く)で常時回収を実施している。一方リセール品の販売実績は24年度が計画対比約120%、25年度が110%。営業利益は2年連続で黒字を確保した。黒字化を可能にした背景には、主に3つの要因があると分析できる。
第一に、徹底した内製化。回収、仕分け、検品、店舗配分のほぼ全工程を自社で担い、クリーニングのみを提携先のロン・リバイスに委託する。外部業者への委託型や、プラットフォーム活用型と比べて、中間マージンが発生しない。
第二に、既存リソースの転用。物流拠点は新品と同じ東日本商品センター、販売拠点は自社アウトレット店舗(サンヨーG&Bアウトレット落合店・潮見店、サンヨー・アウトレットストア湘南平塚店)と、新規投資を抑えた設計である。
第三に、人材の最適配置。仕分けの主力は同社の再雇用社員や元社員のアルバイトスタッフだ。営業やMDとして長年現場を経験してきた人材が、定年・退職後に知識を生かす形で業務に就いている。
これらの仕組み作りに役立ったのが、家電など他産業からの学びだ。手法そのものよりも「自社が主体的に取り組むべきだ」という発想がここで生かされているという。自社で活用できるリソース、営業・MD経験者、物流インフラ、店舗網、ブランドの知識がすでに揃っていたことも、内製化の判断を後押しした。
ケースを開けるまで中身がわからない。新品物流とは真逆の戦い
「RE: SANYO」のフローは以下の通りである。全国約750売り場で回収された衣料・雑貨は、毎日ケース単位で東日本商品センターに集約される。倉庫内で自社スタッフが一着ずつ仕分けし、再販可能と判断したものを提携先のロン・リバイスへ搬出する。ロン・リバイスでクリーニング、アイロン仕上げ、下げ札の取り付けなどを経て、センターに戻る。ここで再検品を行い、店舗別に品揃えを組んで週1回のペースで出荷する。マーケティング&デジタル戦略本部の森野保則物流部長が「物流は生き物」と表現するのは、このフローが日々変動し、最適化を要求し続けるからだ。24年3月の回収開始以降、実際にオペレーションを変えた項目は複数あるという。最も大きな変更は、クリーニング後の再検品工程の追加だった。
事業開始当初、クリーニング後に店頭に出した商品が返品として戻ってくるケースが発生した。ニットの裏側の毛玉、匂いの残留、素材の劣化、洗浄による色落ちなど、クリーニングだけでは取り切れない課題だ。そこで「なぜ返品になったか」を研究し、クリーニング後の物流部による再検品を標準工程に組み込んだ。
基準の見直しも重ねてきた。たとえば水洗いによって大きく縮んでしまったニットは、着用状態では問題なくとも、販売するサイズ表記との乖離が生じれば商品として成立しない。こうしたグレーゾーンは、販売現場からの返品と、現物の確認を重ねながら仕分け基準に反映してきた。
物流全体を管轄する森野部長は、新品物流とリユース物流には決定的な違いがあると説明する。新品の物流では、工場側にデータがある。何点入荷するか、どのサイズがいくつ、どのブランドの何番がいつ到着するかなど、すべて事前情報としてシステムに入り、物はきれいな形でパッキングされて倉庫に着く。
「内製化」という選択に伴う、現場の試行錯誤
内製化には当然コストがかかる。回収量が伸びるなかで、作業場所と一時保管スペースを拡張してきた。特に26年3月に実施した「回収ポイントプラスキャンペーン」は、想定を超える回収量を生んだ。全国の売り場から集中的に物が流入する期間は、現場のより柔軟な対応が求められる。「物流は、常に変化する生き物」という森野部長の言葉は、内製化を選んだ企業が向き合う現実と言えるだろう。
24年度に回収した約5万7000点のうち、自社リユースへ回したものが37%、協業先であるエコミットを通じたリユース・リサイクルが62%以上。廃棄に回ったのは1%未満である。
25年度は自社リユース率が24%に低下した。回収経路にファミリーセールを追加した影響が大きい。戻ってきた衣料の中には、三陽商会が現在ライセンスを保有していないブランドの製品が多く含まれていた。再販には権利上の制約があり、これらはリユースに回すことが難しい。ライセンスブランドのリセールは、多くのアパレル企業が直面する実務課題であり、この事例は内製で回収経路を広げることのジレンマを教えてくれる。
「タグを見ずともブランドがわかる」。仕分け台に立つレジェンドの眼力
仕分けのキーマンである関田和宏氏は1982年に新卒で三陽商会に入社し、婦人服営業に配属されて以降、定年を迎える2019年までの37年間、婦人服のブランド畑を歩み続けた。「ビル・ブラス(BILL BLASS)」と「K・オブ・クリツィア(K OF KRIZIA)」の商品チーフ、「トランスワーク(TRANS WORK)」課長、「トゥー ビー シック(TO BE CHIC)」の店舗運営などを経て、ポール・スチュアート(PAUL STUART)」課長、「ザ・スコッチハウス(THE SCOTCH HOUSE)」販売エリア長、「エポカ(EPOCA)」販売統括長、そして「マッキントッシュ フィロソフィー(MACKINTOSH PHILOSOPHY)」DIV長など、三陽商会が展開してきた主要な婦人服ブランドのほぼ全てを経験し、内側で見てきた人物である。19年に定年を迎え、再雇用後は物流部物流課で関連業務を担当することになった。
1日1000点、箱を開けるところから仕事は始まる
現在、東日本商品センターのリユース関連業務に従事するのは4名。仕分けの仕事は毎朝、全国の売り場で回収された衣料・雑貨を開封するところから始まる。
仕分けの判断は、大きく2つの層に分かれる。第一層は、品質の判断である。破れ、穴あき、ほつれ、変色、日焼け、カビ、匂いの残留、素材の劣化。衿ぐり、身頃、わきの下、袖口・裾、ポケット、裏地、品質表示タグ。部位ごとに確認項目が定められており、マニュアル化されている。
第二層は、「売れるか否か」の判断だ。こちらはマニュアル化できない。関田氏の頭の中には、ブランドごとの顧客反応のマップがある。ある種のブランドは、出せば完売する。しかし同時に、そうしたブランドを安価なリセールとして出し続けることは、本来のブランドエクイティへの影響を伴う。何度も正規店に足を運ぶ顧客からは「こんなものまでリセールに出しているのか」という印象を持たれかねないから、新品購買への干渉も考えなければならない。出していいブランド、慎重に出すべきブランド、出さないブランド——その判断は、販売現場を40年見てきた記憶と、現在のブランディング戦略の両方を踏まえて下される。仕分けはブランド管理の最前線でもあるのだ。
過去の記憶と、2026年の感覚が合流する
「売れるか否か」の判断には、もう一つ不可欠な要素がある。現在の感覚である。関田氏は言う。「クロップドパンツが16年前に流行って、そのあとテーパードが来て、今はワイドになっている。その流れが、同じパンツを50点も見ているとパッとわかる。“お、これは90年代だな”という感じで。今でも待ちゆく人たちの着こなしがついつい目に入り、その積み重ねで今売れるデザインがわかる。仕事人間ですね」。
事業立ち上げ時、社内でリユースブランディングを検討した際に置かれた言葉がある。「厳選された、認定されたリユース品として出す」。この言葉を肝に置いたと関田氏は振り返る。「厳選を実現するには、当たり前だけど厳選しなきゃいけない」。「RE: SANYO」というブランド名と、「三陽商会認定リユース品」というタグライン。商品下げ札に記されるこの定義が、仕分け台の判断基準を規定している。
店舗への出荷は週1回、3店舗合計で約1000点を振り分ける。店舗それぞれの立地特性と顧客層を踏まえて、商品バランスを調整する。この作業も、新品物流のシステムでは自動化しにくい。サイズ、色、シーズン、ブランドなど各店舗の在庫状況と売れ行きを見ながら、1点ずつ割り当てていく判断が必要だ。ここでも、販売現場を知る人材の経験がものを言う。
再雇用×リセール。業界共通の人材課題への示唆
仕分けの仕事に必要な資質について、物流部は明確な像を持っている。アパレルや衣料が好きで、商品知識が豊富であること。衣料を次の人に繋ぐ意義に共感していること。1着ずつ丁寧に向き合う忍耐力があること。そして、自社の製品を気に入っていること。三陽商会の再雇用社員やアルバイトスタッフは、この要件に最も近い人材層である。長年ブランドの販売・営業・MDに携わった人材が、定年後にそのまま現場に入る。知識と経験が断絶せずに仕事に継承される構造だ。
ただし、関田氏がリユース関連業務を担当するようになったのは、偶然ではない。声をかけた人物がいる。事業本部本社販売部G&B店舗運営・販売課の高村仁氏だ。企画畑を歩んできた高村氏は関田氏の後輩で、ブランドを越えて継続的にやり取りを重ねてきた間柄である。高村氏が声をかけた動機は「もう少し一緒にやりたいと思った」から。リユース事業の仕分けという新しい職域に適任者が就いたのは偶然ではなく、企業と職業人の歩みの先に生まれた必然だった。
アパレル業界は今後10年、ベテラン人材の大量定年を迎える。販売員、MD、バイヤーといったキャリアの蓄積をどう活かすかは、業界共通の課題である。ベテランの目利きが、事業として換算されることを証明している三陽商会の内製化モデルは、この課題に対する一つの解を示している。
いい服を作ってきたから、リセールができる
自社リユース率の数字以上に、現場が実感しているのは、回収される衣料の状態の良さである。クリーニング店のタグにホチキスの跡が残っていたり、型崩れを防ぐ形でハンガーに掛けられていたりといった痕跡から、古くても大切に着用されていたことがうかがえる。結果、婦人服の中でも、セレモニーアイテムやコート類は特にリユース率が高い。
この「綺麗な状態」は偶然ではない。森野部長は、「良い服作りがリユースの起点になっている」と指摘する。三陽商会の代表的なコートが「100年コート」と名付けられ、リペア室を備えているように、長く着用される前提で設計された服だから、長く残る。回収品のリユース可能率が高いという事実は、長年のものづくりの方向性が結果として正しかったことの裏付けでもある。
物流部は現在、アーカイブ的な価値を持つ商品を選別して記録に残す取り組みを始めている。過去のブランドの代表作が、今のものづくりの参考資料として残される可能性がある。リセール事業が単なる販売チャネルではなく、企業の商品設計にフィードバックする情報基盤となりうるのだ。
2031年度までに、回収割合10%へ
同社は26年度から、サーキュラーエコノミー領域における新たなKPIを設定している。「回収対象品の前年度生産着数に対する回収割合10%(2031年度)」である。長期ビジョンは20%に設定した。KPIの指標設計そのものに、経営思想が表れている。多くの企業が採用している「リユース率」「リサイクル率」は、回収した後の再活用率を測る指標だ。一方、三陽商会の新KPIは「自社が作ったもののうち何%が戻ってくるか」を問う。作り手としての責任範囲を数字で定義する設計である。
KPIを達成するのは現場である。10%という数字の背後には、全国約750売り場での日々の回収、東日本商品センターでの毎日の仕分け、3店舗での販売、そして一着ずつの判断がある。「作った分だけ責任を持つ」という思想を数字に落とすのがサステナビリティ推進室の仕事だとすれば、その数字を物理的に動かすのは物流部門と販売現場の仕事だ。経営思想と現場の距離が近いこと、これも内製化モデルの重要な特質だろう。
リセール市場は拡大しており、参入する企業は増えていく。数字としての回収量、販売量、リユース率は競争指標として可視化されていくだろう。しかし、その数字の根にあるのは、過去数十年のものづくりの質と、現場で一着ずつを判断する個の目である。今作っている服が、40年後にどう戻ってくるか。その問いに向き合えているかが、これからのものづくりを決める。