
PROFILE: 徳井義実/お笑い芸人
チュートリアル・徳井義実が、自身のユーチューブチャンネル「徳井Video」のオリジナルプロダクトストア「トクイ ビデオ ストア(TOKUI VIDEO STORE)」を4月に「ミスティファイ(MYSTIFY)」として刷新した。直訳すれば「困惑させる」「けむに巻く」といった、ブランドとしてはやや異質な響きを持つ言葉。だがその“違和感”こそが徳井のものづくりの原点だ。
笑いを生業としながら、今は1人のクリエイターとして自らが商品を企画し、工場を探し、何度もサンプルを作り直しながら、バッグやキャンプギア、調理器具に命を吹き込む。「ミスティファイ」は、徳井が裏方として、そして表現者として歩むもう一つの舞台。その静かで真摯な創作の裏側を、本人の言葉でひもとく。
WWD:4月に「トクイ ビデオ ストア」を「ミスティファイ」としてリニューアルされました。タイミングの理由とブランド名に込めた思いを教えてください
徳井義実(以下、徳井):「ミスティファイ」には「困惑させる」「けむに巻く」という意味があります。今の時代はなんでも白黒つけようとしますが、僕はその中間にある曖昧なもの、不可思議なものに引かれるんですよね。「なんやろうこれ?」って一瞬立ち止まってもらうように、その違和感から始まる出合いが面白いと思っていて。お客さんを困惑させたい気持ちもあります。漫才でも場の空気を変にするのが好きで、物事をきっちり整えすぎずに楽しむ感覚があるんですよね。都会の騒がしさから少し離れて、日常を俯瞰するような時間も大切にしています。そんな感覚とも重なって、「ミスティファイ」という名前がしっくりきました。
WWD:ブランド名から自身の名前を外されたのはなぜでしょう?
徳井:タレントグッズという枠に収めたくなかった。知名度ではなく、ものそのものの力で評価されるプロダクトにしたいんです。もちろん、ファンの方が買ってくれるのはうれしいけれど、理想は僕がやっていると知らずに、純粋に手に取ってもらえること。そのためにもゆくゆくは裏方に徹して、商品をお客さんに届けたいですね。
WWD:キャンプギアからアパレルまで、現在約40種類という幅広いラインアップですが、アイテムの企画はどのように行っていますか?
徳井:アイテムの企画から工場探し、製作ディレクションまで、1人で進めていることが多いです。検索魔なので(笑)、工場を探すときは、まずネット検索ですね。会社のホームページを見ながら、「この会社はどんな“性格”なんやろ」「小ロットでもやってくれるのか」などを読み取っていく作業があって。サイトに書かれている内容以上に、なんとなく伝わってくる空気を感じ取るようにしています。今までなんでも検索してきた経験が、こういうところで生きている気がしますね。
YouTube:徳井Video/OmOWWD:ものづくりにおいて、大切にしている誠実さとは?
徳井:バッグや調理器具など、それぞれの分野に専門用語や工程があって、なかなか思うように伝わらないこともあります。職人のもとへ足を運び、打ち合わせを重ねても、サンプルを何度も作り直すこともしばしば。頭の中にあるイメージをそのまま共有するのは、本当に難しいなと感じています。でも、それでもちゃんと向き合いたい。自分が心から「これ、いいですよ」と言えないものは、やっぱり届けたくないので。また商品価格にも影響するので、今は運営体制をコンパクトにしています。なるべく経費を使わずに、お客さんが手に取りやすい価格を守るのも誠実さの一つですね。
WWD:「ミスティファイ」のインスタグラムで公開したキャンペーンビジュアルも印象的でした
徳井:初めてアートディレクターを起用しました。ブランドのイメージを言葉やビジュアルでざっくりと伝え、若いスタッフの感性に任せるというスタンスをとりましたね。僕が全部やると“徳井っぽさ”が前に出すぎるから。彼らのフィルターを通して、少し距離を置いた方が面白くなるんじゃないかと思いました。
現場で学ぶ、リアルな声と発見
WWD:各地でポップアップを精力的に開催し、店頭では徳井さん自らも接客されていますね。リアルな場での展開にはどんな魅力がありますか?
徳井:お客さんの顔が見えるのが一番大きいです。地域によって売れるアイテムも違うんですよね。例えば北海道ではキャンプギアが、東京・中目黒ではバッグが好評でした。実際に接客して、お金を出して買ってくれる人を目の前にすると、自信を持って商品の良さを言えないとダメだなと自戒しています。お笑いだと、今このネタを聞いているお客さんがどう感じていて、ここでオチをつけたら笑ってくれるだろうなってある程度分かるんですが、ものづくりの場合はそうはいかない。だからこそ、現場での気づきや発見がすごく勉強になるし、お客さんの感覚や趣向を知る機会にもなっています。
WWD:店頭で接客してみて、意外だったお客さんの反応はありましたか?
徳井:僕に全く気づかず、純粋に商品だけ見て帰る人もいました。むしろうれしかったです。「この人、ほんまにものにしか興味ないんやな」って(笑)。
WWD:空間演出や雰囲気づくりで意識していることは?
徳井:正直なところ、ポップアップの空間づくりはまだまだ思い通りにできていないんです。会場の広さや周囲の環境によって制限があるので、毎回見せ方も変わってしまう。だから、どうしても世界観がバラバラになってしまうことがあって。その中でも「今回は何を見せたいか」という軸は、毎回ブレないように考えています。まだ理想の形とは言えませんが、試行錯誤しながら少しずつ積み上げていきたいですね。
ネタを組み立てるように
プロダクトも“仕掛け”をつくる
WWD:芸人としての活動と「ミスティファイ」でのものづくりに共鳴する部分とは?
徳井:自分の中ではどっちも近い感覚です。漫才のように、ネタをつくって披露した時に評価される喜びは、ものづくりでも同じ。商品はある意味で“ネタ”なんです。お客さんの予想をいい意味で裏切ったり、驚かせたり。そういう仕掛けを詰め込む感覚は、僕にとってお笑いもものづくりもすごく似ていますね。
WWD:発売するだけでなく、お客さんに届けるところまで行うことで、ものづくりとの向き合い方にも変化はありましたか?
徳井:「つくって、売って終わり」ではなく、まずは見つけてもらうところからものづくりは始まると考えています。「こんなのあるんや」「これ何だろう」と興味をもって調べてくれたり、ユーチューブの動画を見て製作工程を知ってもらったり。そういう“発見のプロセス”からすでに楽しんでもらいたいです。購入してから「あと2日で届く」「箱を開けたらどんな感じだろう」みたいなワクワク感も含めて、「買い物って体験やな」と改めて思っていて。どんなふうに手に取ってもらい、どう使われていくかというストーリーまで含めて設計しています。僕自身、誠実にものづくりをしているメーカーに引かれるので、「ミスティファイ」もそういう存在でありたいですね。
WWD:今後挑戦してみたいことはありますか?
徳井:例えば青森の八戸のような地域でポップアップをやってみたいです。人とものが自然に出合うような、そういう場所でできたらいいなと。プロダクトでは、アルミコンテナやキャンプ用シューズにも挑戦したいと思っているんですけど、コスト面や生産ロットの問題もあって、工場探しがなかなか大変で……今販売しているカバンや調理器具も、もっとラインアップを増やしていきたいですね。「ミスティファイ」を通して、日本のものづくりを発信していけるブランドになれたらうれしいです。ありがたいことに、出会う職人や工場の方々がほんまにいい人ばかりで。そういう縁を大事にしながら、ゆっくりでも認知を広げていきたいです。