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「サステナビリティは“エリート”じゃなくて良い」 デトロイトで活動する黒人女性デザイナーの取り組み

 アメリカ・デトロイトを拠点とするデザイナーのトレイシー・リース(Tracy Reese)は、自身のブランド「ホープ オブ フラワー(Hope of Flower)」の最新コレクションを通してサステナビリティに取り組んでいる。同コレクションは“イントゥー フォール(Into Fall)”と題し、秋の雰囲気を表現したスカートやドレスを中心に10アイテムをそろえた。アイテムの素材には、環境負担が少ないとされるリヨセル・テンセルや、オーガニックコットンとリネンを使用する。

 トレイシー・リースは自身の名を冠したブランドを1998年に設立。当時まだ大きな動きでなかった包括性や多様性を表現し、プリントデザインが特徴のエレガントなスタイルで人気を獲得した。18年からはコレクション活動を休止しているが、19年にサステナビリティーを中心に据えたブランド「ホープ オブ フラワー」を始動。サステナブルな素材の使用やエシカルな生産、手作りであることに重きをおいている。

 「新しいコレクションを制作する時に大切なことはこれまでのやり方に戻らないことだ」とリースは語る。「私たちの業界はあまりに未来や結果にフォーカスしすぎている。その道中に目を向けられていない。責任を持ってよりサステナブルなアイテムを作ることは、一日でできるものではない。今までやっていたことを全て学び直さなければいけない。サステナビリティはエリート志向で、みんなが行いやすいものではないと感じることが多い。それらを解体してもっとシンプルなものをそろえたい」。

 「ホープ オブ フラワー」は主に中国で生産しているが、3月からは地元コミュニティーとのパートナーシップ確保に取り組んでいる。デトロイト産を推進する背景には同地域の黒人の経済状況が大きく関係している。「デトロイトの街の振興プロジェクトが実施される中、同地域に住む黒人が公平に扱われていないということを実感した。デトロイトを新しい視点で見るようになり、取り組みの中で資金提供が最も必要とされる場所に行き届かないことに気がついた」という。

 また、「こういった取り組みに気がつくのは白人で教養のある人ということが多い。その人たちは助成金申請をして、何枚もの応募書類を作成することができるが、黒人コミュニティーはこれらの機会が存在することに気がつくのに時間がかかる。素晴らしい裁縫師で工芸家であった私の母や彼女の友人は、その才能を生かして経済的自立ができるということに気がついていなかったと思う」と語った。

 リースは地元支援のため、職人と材料をつないでクラフトマンシップを守り、経済的自立を促進するメーカーズ・ユナイテッド(Makers United)の非営利団体のネスト(NEST)と協業する。同団体はほかにも職場の多様性と包括性の向上を促進しながら事業拡大を支援する取り組みを行う。

 ネストを2006年に立ち上げたレベッカ・ファン・ベルヘン(Rebecca van Bergen)=エグゼクティブ・ディレクターは、「デトロイトは圧倒的に黒人が多く、移民人口も多い。そしてそれぞれのコミュニティーがそれぞれのクラフトやアート、芸術による社会活動などを次代へと引き継いでいる。しかし原材料がメーカーの手に正しく届かないことが多々ある。特に有色人種や移民の間でのやりとりでは」と言う。

 リースは取り組みを通して「有色人種の人々が実際に恩恵を受ける支援の一部になりたい。それがデトロイトでのネストの使命だ。私たちは同じ認識を共有しており、同じ対象にリーチしたいと考えている。黒人をはじめとする有色人種や先住民の声に焦点を当て、移民を支援したい」と語った。

 「ホープ オブ フラワー」はほかにも6月に立ち上げた公式ウェブサイトを通じて、若者たちへのアートの授業を無料で提供したり、大人向けワークショップを開催する。また今年中にアメリカのインテリアブランド「ポッタリーバーン(POTTERY BARN))とのコラボ予定もあるが、詳細は未定だ。

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