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サステナビリティなしに未来はない

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 ここ1カ月、毎号のように伝えてきたので耳タコかもしれないがあらためてお伝えしたい。2020年春夏ファッションウィークの一番の話題は“サステナビリティ(持続可能性)”であった。ショー会場でこれほどこの言葉が飛び交ったことはなく、半年前とも比較にならないほどで急速なサステナビリティへの意識の高まりを実感した。そのスケールはさまざまで、会場の演出を通じて環境保全への取り組みをアピールするケリングとLVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトンの2大コングロマリットから、地球温暖化への警鐘をクリエイションの核に据えた若手デザイナーまで、それぞれの立場でサステナビリティに対する現時点の姿勢を示している。これを一時のトレンドだとか、ましてや企業の「建前」ととらえては時流を見誤る。多くは「本気」であり、掲げたビジョンを文字通り持続しようとしている。なぜなら、そうしないと生き残れないから。これらはブランディングではなく、企業や社会の未来を見据えた利益を生むために必要な戦略なのだ。(この記事はWWDジャパン2019年11月4日号からの抜粋です)

 なぜこれほどサステナビリティへの意識が高まり、行動へ移す企業が増えているのだろうか?サステナビリティという言葉自体がまだ浸透していない日本では「急激」と受け取る人も多いだろう。しかし「急激」と感じるのであればなお一層、静観している時間はない。今すぐ、サステナビリティの考え方を経営の軸の一つに据え、ビジネスの仕組みを作り直す覚悟で取り組むべきだ。

 アクションを起こす企業が増えている背景には、「地球環境を自分たちの手でなんとかしなければ」という前向きなビジョンだけがあるわけではない。むしろ危機感を持った人や団体からは1990年代から繰り返し地球の未来に関する危機的状況が伝えられてきたのに、16歳の活動家グレタ・トゥーンベリさんが言うとおり「科学が示す事実は極めて明確だったのに目を背け続け、(大人は)お金のことや、永遠に続く経済成長というおとぎ話ばかり」を紡いできた。ここにきて行動に移す個人や企業が多いのは、高まる外圧に生活やビジネスが影響を受けるケースが増えているから、が実情だろう。

 外圧と影響とは例えば、「台風や酷暑などで実害を受けて気候変動を体感(今年は日本だけではなくフランスやインド、イランでも冠水による大災害が起きている)」や「2017年からの中国廃棄物輸入規制で行き場を失う大量の売れ残りが在庫を圧迫(廃棄物の山を前にしたメーカーの悩みは深刻)」そして「政治からの要請」や「ESG投資の広がり」などだ。3つ目の「政治からの要請」はフランスが顕著であり、フランス政府は今年、23年までに売れ残りの洋服や非飲食品の廃棄処分を禁止する法律を施行すると発表した。また、エマニュエル・マクロン仏大統領がフランソワ・アンリ・ピノー=ケリング会長兼最高経営責任者に依頼し、今年8月に「ファッション協定」が発表されている。これは気候、生物多様性、海洋の3分野において企業の枠を超えて協力し実践的な目標を達成するためのもので、現段階で主要企業56社が署名している。ファッションショーを通じたサステナビリティへの取り組みが目立つ背景にはこういった理由もあるのだ。

 「ESG投資」については、経営やCSRに携わっていなければ耳馴染みがないかもしれないが、最近は学生が就職活動の際に企業研究の一つの指標にしていると聞くから、経営者ならずとも知っておきたい言葉だ。ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の頭文字を合わせたもので、企業の投資価値を測る一つの評価項目とされている。評価の指標は、再生可能エネルギーを活用しているかや、二酸化炭素の排出を減らす取り組みを行っているかなどで、加えて人権問題への対応なども評価につながる。ESG投資と利益は両立するのか、という疑問にはすでに各種のデータが「両立する」との答えを示している。消費者がESGに配慮している企業を支持する傾向にあり、ESGに配慮している企業は価値が下がりにくく投資のリスクが低いと考えられているからだ。若い世代は経済の低成長が常態化した中に生まれ育ち、環境問題について学校教育を受けてきたことで、親世代よりも「無駄なモノを買わない」とか、「環境を大切にする」といった意識が高い。ESG投資を無視することは極論すれば、企業の成長に必要な資金だけではなく優秀な人材、ひいては技術が集まらない未来を招く。

 サステナビリティへの取り組みについて最大の課題は「知らない」ことだと思う。自分を含め、義務教育で環境教育をさほど受けてこなかった世代は一層「知らない」から現実逃避さえしたくなる。実際、学び始めると「目の前の課題に追われる中で、新しいことをこんなに学ばないといけないのか」と途方にくれもする。同時に衝撃的な現実に後戻りはできなくなる。そして「サステナブルである」という制約はむしろ新しいクリエイションの原石であることを知る。言うまでもなく無知は罪で、知だけは空虚。私たちが今手掛けている事業を未来に残したいと本気で思うならばきれいごとではなく、今すぐ腰を上げて学び、アクションを起こす以外に道はない。

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