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アディダスが海洋廃棄品から作ったシューズ LAの海でキーマンが語る開発秘話

 6月8日のワールドオーシャンズデー(WORLD OCEANS DAY)に伴い、アディダス(ADIDAS)と海洋保護団体のパーレイ・フォー・ジ・オーシャンズ(PARLEY FOT THE OCEANS)は、2018年のコラボレーション商品の発売を記念したイベント「ラン フォー ジ オーシャンズ(Run For The Oceans)」を米ロサンゼルスで開催した。

 パーレイ・フォー・ジ・オーシャンズは、デザイナーから海洋保護活動家に転身したシリル・グッチ(Cyrill Gutsch)によって12年に創設され、アディダスと15年からパートナーシップを結んでいる。アディダス独本社のマティアス・アム(Matthias Amm)=プロダクト・カテゴリー・ディレクターは、「アディダスは、“世界をよりよい場所にすることと、スポーツが人々の人生を変える力がある”という経営理念を掲げている。だからこそ、パーレイとコラボレーションすることは私たちにとって自然な決断だった。海から回収したプラスチック廃棄物を使って新素材を開発し、シューズを作ってみたところ反響がとてもよかったため、16年から本格的に取り組むようになった」と語る。

 6月7日は、アディダスとパーレイの粋な計らいで、ロサンゼルスのロングビーチの港から船で1時間ほど離れた、豊かな自然環境と多様な海洋生物が生息していることで知られるカタリナ島で、海洋汚染と海洋保護についてのワークショップが開催された。カタリナ島に向かう船の中で、世界中から集まったジャーナリストたちは波に揺られながら、長年海洋保護と啓蒙活動に身を捧げてきたマイク・ロング=パーレイ運営部長のレクチャーに真剣に聞き入った。「海は人間に食料、空気、天候を与えてくれます。私は世界中の美しい海を数々見てきたが、どの海の海岸に行っても、大量のプラスチックのゴミを見ないことはない。一度捨てられたプラスチックのゴミは永遠に分解されることがなく、海に流れると細かい破片が魚や鳥のエサになってしまい、生態系のバランスが崩れてしまう。地球上の酸素のほとんどは海から作られており、海が汚染されると、直接人間の健康に影響を及ぼすので、海洋保護は人間を守るためにも必要な活動だ。また国連の研究結果によると、このまま魚の乱獲と海の水質汚染が進むと、2048年までには漁業の対象となる魚介類のほとんどが絶滅してしまうと言われている。これを防ぐためにパーレイが掲げているのが、A.I.R.戦略。“A”は“Avoid”(プラスチックの使用を回避)、“I”は“Intercept”(プラスチック廃棄物を回収)、そして“R”は”Redesign”(再設計)」。     

 毎年800万トンのプラスチック廃棄物が海に流出しているといわれているが、パーレイは海の汚染を防ぐために、この大量のプラスチックのゴミに着目し、新しいテキスタイルの開発に使用することを思いついた。「われわれは、どんな危機的状況もチャンスだと捉えている。海の危機的状況を救うには、ただプラスチックのゴミをリサイクルするのではなく、エコイノベーションが必要だと強く信じている。そこで思いついたのが、プラスチックのゴミから新素材を開発することだった。アディダスのような会社は、環境保護団体よりも影響力がある。アディダスと共にわれわれは新素材の開発に成功し、この新素材を使った商品を世界中の消費者に届けることで、地球の未来をよりよくできる。つまり海を守ることをビジネスモデルにすることで、海を救うことができるのだ」。

 アム=プロダクト・カテゴリー・ディレクターによると、プラスチックのゴミを回収してテキスタイルに加工するまでのシステムを作り出すのに苦労をしたそうだが、やりがいがあったという。「現在は主にモルディブ諸島で回収したプラスチックのゴミを原材料として使用している。パーレイはモルディブなどの小さい島国とパートナーシップを結んでおり、今後はスリランカや、その他の島国と提携することで、より多くの廃棄物を回収できる。プラスチックのゴミやペットボトルは台湾に運んでペットボトルを細かく砕き繊維を作る。その繊維をアジアの工場に発送してテキスタイルを作る。それが「アディダス」のスニーカー“ウルトラ ブースト(ULTRA BOOST)”に使用されているプライムニット素材に変身するわけだ。“ウルトラ ブースト”のシューズだけではなく、トラックスーツなどニット素材で作られる商品だったら、このパーレイ素材を使うことができる。17年は100万足のパーレイ素材を使ったスニーカーを製造しており、18年は500万足を目指している。ゴミの回収から素材を作るシステムを確立できたため、より多くの商品をパーレイ素材で作ることができるようになった」と話す。

 海洋プラスチックをリサイクルした素材を使っても、機能性を犠牲にしないことが最も重要だったという。「われわれにとって第一に重要だったのは、スニーカーのパフォーマンスで妥協をしないことだった。昨年、ウェイド・バンニーキルク(Wayde Van Niekerk、南アフリカの陸上選手)が世界陸上選手権の400m走で、パーレイの素材を使ったプライムニットのシューズを履いて優勝した。リサイクル素材の機能性が証明されたので、今後はアディダス × パーレイモデル以外のプライムニット商品も全てリサイクル素材で作ることを決断した」。

 今回発表された限定モデル“アディダス × パーレイ ウルトラ ブースト リミテッドエディション”は、「ホワイトとライトブルーを基調としているが、デザインのインスピレーションはずばり海だった」とアム=プロダクト・カテゴリー・ディレクターは語る。「今回のコンセプトは、“ディープ・オーシャン・ブルー”。1万1000キロの深さがあるマリアナ海溝にインスパイアされ、エコイノベーションに深くコミットする決意から生まれた。先に発表された限定の“ウルトラ ブースト リミテッドエディション“モデルは、ホワイトとライトブルーを基調としており、これは海の表面を象徴したカラー。6月末に発表されるダークブルーの“ウルトラ ブースト パーレイ”は、深海を象徴している。これらのモデルのヒール部分に施された波のデザインは、このシリーズのシンボルだ」。

 ホワイトとライトブルーの“ウルトラ ブースト リミテッドエディション(ULTRA BOOST LIMITED EDITION)”のデザインとカラーコンビネーションは、環境保護に対する関心が薄いスニーカーマニアでも、つい手に取りたくなるほど絶妙だ。「1足の“ウルトラブースト パーレイ”は、約11本分のペットボトルをリサイクルして作られている。そんなことを知らないスニーカーファンは、アディダス × パーレイのスニーカーを入手することで、そこから海洋汚染に興味を持つかもしれない。それはまさに私たちが望んでいることだ」。

 6月8日にロサンゼルスのテメスカル・パークで開催されたランニング・イベント「ラン フォー ジ オーシャンズ」では、世界中のランナーが海洋保護の啓蒙活動のために走った。そしてアフターパーティーには人気ラッパーのアンダーソン・パーク(Anderson Paak)がサプライズ出演し、ランナーたちを大いに喜ばせた。

 最後にアム=プロダクト・カテゴリー・ディレクターはこのようなメッセージを残してくれた。「海洋汚染を軽減するために、誰でもアクションを起こすことができる。最高のランニングシューズを買うことで、世界を変えて、海洋汚染と闘うことができる。これは誰でも参加できるムーブメントなのだから」。

 “ウルトラ ブースト リミテッドエディション”は6月28日に発売する。また、7月8日までランタスティック(RUNTASTIC)というアプリを使って走ると、走った距離に応じて1キロあたり1ドル寄付できるキャンペーンを実施している。日本においては“アディダス ランナーズ オブ トウキョウ (ADIDAS RUNNERS OF TOKYO)” のコミュニティーでもこの活動に参加できるセッションがある。

問い合わせ先
アディダスジャパン広報事務局(株式会社イニシャル内)
03-6862-6688