フォーカス

安藤忠雄展の実物大「光の教会」を“本気”で体験するために

 国立新美術館で開館10周年を記念した展覧会「安藤忠雄展ー挑戦ー」がスタートした。安藤忠雄の展覧会として過去最大級の規模で、「水の教会」や「住吉の長屋」「表参道ヒルズ」などの代表作品を含む国内外の建築作品の写真やスケッチ、模型など、200点以上を展示している。会期は12月18日まで。

 会場内は大きく5つのセクションに分かれている。安藤忠雄建築を象徴する100以上の住宅を紹介する“原点/住まい”、光や風といった自然要素を無機質なコンクリートに取り入れるというアプローチをまとめた“光”、「表参道ヒルズ」「東急東横線 渋谷駅」などの都市開発で安藤忠雄が意識した“余白の空間”、30年以上におよぶ「直島プロジェクト」に代表される周辺環境との共生を見せる“場所を読む”、未完の計画を含む安藤の挑戦にフォーカスをした“あるものを生かしてないものをつくる”の5つ。安藤を理解する上で欠かせないキーワードを分かりやすく系統立てたシンプルな構成だ。ちなみに、会場でレンタルできる音声ガイドも、安藤自身が語る必聴モノとなっている。

 開幕前日にはオープニングレセプションが行われ、美術館の周年イベントであることとも相まって、開会式からものすごい人の数だった。高円宮妃久子様をはじめ、小泉純一郎・元首相やノーベル賞受賞者の山中伸弥・教授らも出席する、なんとも豪華な会だ。開会式でスピーチをした小泉元首相は、「安藤さんとは同い年。古いものを生かして新しいものを作ろうという意欲のある作品が多いように感じる。これからも作品を作り続けてほしい。私はよく変人と言われるが、安藤さんは超人。奇跡の人だ」と評価したのが印象的だった。

 展示における最大の魅力は何といっても原寸大「光の教会」だろう。今回の展覧会の目玉として、大阪にある同教会と同じ施設を安藤忠雄建築研究所が直々に作り上げたものだ。概要説明会で安藤は、「『光の教会』は宗教施設なので、普段はあまり観光客が訪れることができない。建築は体験が重要だと思うので、見れないものを見てもらいたかった。手触りも重さも、本当の素材でないと意味がない」と語っていた。ちなみに本物では叶わなかった、“風を感じるために十字架のガラスを外す”ことも、今回は実現したという。

 以前の概要説明会で安藤が何度も強調したのが、建築を知る上での“体験の重要さ”だった。安藤自身、国内を旅しているうちに日本建築に興味を持ったという。一部実現はしなかったが、「いくら写真を撮ってくれてもいいし、展示品に触ってもらいたい。よく美術館には規制ロープが張ってあるが、ああいうのもやめたい。誰かが蹴飛ばして壊れても、作ったのが僕らなんだから、僕らが直せばいい」と話していたのが印象に残る。青木保・国立新美術館長も開会式で、「せっかくできた“光の教会”で誰かに結婚式を挙げてほしい」と話していた。これこそ、実現すればここでしかできない“体験”だろう。

 でも、どうしても違和感を感じたのが、「光の教会」での体験だった。もちろん、本物と同じ素材、同じ大きさで再現された「光の教会」は圧倒的なインパクトを持っている。ただ、来場者も撮影可能とあって、並んでは中に入り、写真を撮って外に出るという流れ作業が発生しているように感じた。入り口につながる誘導通路もなんだかアトラクションのように見えてくる。いくら建物がフォトジェニックとはいえ、これではせっかくの建築を“体験”できないのではないか。

 東京で「光の教会」を体験できるのは本当にすごいことだ。ぜひ五感をフル活用して壁の質感や中に入った時の光の変化、十字架から吹き抜ける風の動きなんかを感じてほしい。どうか写真を撮ることで満足をせず、“本気”で体験をしてほしい。ちなみに、本物の「光の教会」は建物の方角が違っている。だから、入る光も違う。もし、東京での原寸大体験に感動したら、その土地でしかできない体験を求めて、大阪を訪れてみても良いだろう。

■安藤忠雄展ー挑戦ー
日時:9月27日〜12月18日
時間:10:00〜18:00(金・土曜は〜20:00)
定休日:火曜日
場所:国立新美術館(企画展示室1E、野外展示場)
住所:東京都港区六本木7丁目22−2
入場料:一般当日券1500円 / 大学生1200円 / 高校生800円