
サイバー攻撃による顧客情報流出などの被害が急増する昨今、ファッション・小売業界にも危機が迫っている。
警察庁によると、2026年1〜6月に同庁が設置した観測用のセンサーで検知した、システムの弱点を探るような不審なアクセスは1日・1IPアドレス当たり1万3687件で、前年同期比51%増と急増した。ランサムウエア(身代金要求型ウイルス)の被害報告も123件と、半期として過去最多を更新した。
特に小売業で対策が急がれるのが、百貨店だ。富裕層を中心とする良質な顧客基盤を持つがゆえに、その情報はハッカーにとって“宝の山”となる。攻撃の多くは、弱点のあるシステムを無差別に探して侵入する手口だが、ひとたび入り込まれたときには、失うものが大きい。何より顧客情報の流出ともなれば、百貨店の最も重要な財産である“信頼”の失墜をも招きかねない。各社に対策を聞いた。
J.フロントは外部から責任者を招聘、「突破され得る」前提で被害極小化へ
大丸松坂屋百貨店やパルコを運営するJ.フロント リテイリングは、25年8月末時点でのグループID客数が約448万人に上る。同社は、グループのセキュリティー事故対応の専門組織であるJFR-CSIRT(Computer Security Incident Response Team)を有しているが、このほどIT・デジタルの責任者を新たに外部から招聘し、さらに対策を厚くした。小野圭一社長は、「(人材招聘は)まさにセキュリティー強化という目的の下であったということは事実。現状この方が大丸松坂屋とパルコのセキュリティー強化を兼務し、グループを挙げて基盤を強化する取り組みを進めている」と話す。
ただし、加速度的に発達するAIによってサイバー攻撃も高度化・巧妙化する昨今において、「ITセキュリティーについては、最大限の防御努力はしたとしても『突破され得る』という前提に立って、さまざまな設計をしていかなければならない」との考えを述べる。小野社長は「グループ内での情報連携と対策を強化してきているが、引き続きあらゆる観点で防御の強化と、有事の際の対応、ダメージの極小化を進めていきたい」と話す。
松屋はプロ人材を役員に登用、委託先を含めた防衛網と社員教育に投資
銀座に本店を構え、百貨店の中でも富裕層の支持基盤が厚い松屋。同社は事業戦略として、外商カード、クレジットカード、ポイントカードなどを保有する「ID顧客」の拡大に力を入れている。26年2月期は、ID顧客の売上高が前期比7.8%増の261億円。買い上げ客数も外商顧客が同10%増、松屋カードが同14%増、ポイントカードが同49%増と伸びている。ID会員増に伴い、情報流出防止の重要性はますます高まることになる。
取締役専務執行役員の森田一則氏は、「セキュリティー強化および人的エラーをなくす教育にコストをかけていく」と述べた。同社はこの9月に、システム担当の役員としてプロ人材を招へいした。今後は、当該人材を中心に対策を練っていく方針だ。「セキュリティー強化のための投資は、第三者の評価を受けたり、脆弱性を発見したりして強化していく。グループ会社や委託先も侵入されないよう、取り組みは急務であると認識している。顧客名簿は百貨店の最大の財産であり、一番に守っていく」。
高島屋は金融事業の拡大を見据え、「開発と防御」の2軸で常時監視
高島屋の村田善郎社長は、「システム部で開発と防御の2軸で対策を進めており、どこにシステムの脆弱性があるかを常に監視している」と話す。同社のカード会員数は約240万人(25年2月末時点)に上る。
また同社は、金融関連子会社を束ねる中間持ち株会社として高島屋ファイナンシャル・ホールディングスを27年3月に設立する。子会社の一体運営により、クレジットカードなど金融事業の拡大につなげるとともに、事業運営で求められるリスク管理・対応も一層強化する方針を示す。村田社長は「グループとして金融事業を強化している中で、(サイバー攻撃対策は)経営の重要事項と捉えている」と述べた。
ファッション関連企業ではジュンやアバハウスが被害公表
なお、ファッション関連企業では8月に古着チェーンのカインドオル(顧客情報13万6464人分が流出)、10月にアバハウスインターナショナル(全会員の個人情報が流出した可能性)、シチズン時計(顧客情報約10万人分が流出した可能性)、ジュン(顧客のメールアドレスの一部が流出した可能性)が不正アクセスによる被害を相次いで公表した。シチズン時計とジュンは、いずれも業務委託先のシステムが狙われた。