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宮沢りえ、映画「しびれ」で母・亜樹を演じて得た変化——「親からもらった人生ではなく、自分の人生が始まる気がした」

PROFILE: 宮沢りえ/俳優

PROFILE: (みやざわ・りえ)1973年生まれ、東京都出身。88年には「ぼくらの七日間戦争」で主演・映画デビューを果たし、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。時代劇「たそがれ清兵衛」(03)、「紙の月」(14)、「湯を沸かすほどの熱い愛」(16)で3 度日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞。2018年には、読売演劇大賞の大賞・最優秀主演女優を受賞。近年の主な出演作品に、舞台「メアリー・ステュアート」(26)、「リア王」「昭和から騒ぎ」(25)、映画「ラストマン -FIRST LOVE-」(25)、「月」(23)、NHK 放送100年特集ドラマ「火星の女王」、PrimeVideo シリーズ「人間標本」、Netflix「阿修羅のごとく」(25)、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(22/NHK)などがある。

映画「佐々木、イン、マイマイン」(2020)で国内の主要な新人監督賞を総なめにした内山拓也監督の最新作「しびれ」が9月25日に公開された。内山監督の故郷・新潟の冬を舞台に、一人の少年・大地が居場所を求めて彷徨い、生き抜く20年間を描く。原案、脚本も内山監督が手がける自伝的作品だ。

その大地を女手一つで育てる母親・亜樹を演じるのは、石井裕也監督、中野量太監督、是枝裕和監督ら名匠たちからのラブコールが絶えない俳優・宮沢りえ。本作でも、大地を守るために、生きるために、時に間違った選択をしてしまう亜樹の20年間を、スクリーンに刻みつけた。このインタビューでは、内山監督への想い、北村匠海をはじめとする4人の俳優が演じた大地と向き合った時間、この「しびれ」という作品によって彼女の中で起きた大きな変化について聞いた。

「しびれ」への出演を決めた理由

——内山監督は、「主人公の母・亜樹役には宮沢さんしか考えられなかった」という思いからオファーしたそうですが、宮沢さんが「しびれ」への出演を決めた理由からお聞かせください。

宮沢りえ(以下、宮沢):私は内山監督の「佐々木、イン、マイマイン」が大好きで、「内山監督と仕事がしたい」と思っていたので、お引き受けすることを前提に脚本を読みました。そこから最終稿になるまでに、シチュエーション、亜樹(が登場するシーン)のボリューム、大地(亜樹の一人息子)の描き方などが変わっていきました。皆さんが通る道だと思うけれども、監督も作品を生み出すためにもがき、何かを掴もうとしているように見えました。監督のこの旅がどこで最終地点を迎えたとしても、私には「その世界の中できちんと生きたい」という気持ちだけがありました。

——つまり、内山監督だから引き受けられたのですね。普段はどのように出演作を決めるのですか?

宮沢:(少し考えて)……やっぱり“監督”、ですね。あとは脚本を読ませていただいて、心が揺れる何か、想いが伝わる何かがあれば、「何でもやります」という感じです(笑)。

——「しびれ」はまさに、内山監督の想いが詰まった作品でした。その想いについて、直接お話しされましたか?

宮沢:はい。私は「佐々木、イン、マイマイン」という作品が、監督の一部だと思うんです。自分が好きな映画を作った監督の生み出すセンスに共感したし、憧れもあります。そういう意味で、すでに監督への信頼感がある状態でお話ししました。作品についてというよりも、この脚本を書いたときの監督の気持ちや、自分たちの母親について話したと記憶しています。

——「しびれ」には内山監督の自伝的な要素が含まれているそうですが、その辺りもお話しされたということでしょうか。

宮沢:それは企画書の段階で、ディレクターズノートのような文章ですでにいただいていました。ただ、そういうご自身の自伝的なものを作品にするのって、とってもエネルギーが必要だと思うんですよね。それを自分で脚本に起こして撮影に挑むにあたり、作品と自分との距離感や、周りから向けられる視線など、いろんなハードルがあったと思います。

監督はみんなに本当に愛されていました。現場ではスタッフたちも、もちろん北村匠海さんも、監督の想いというものを通りながら、一つの作品に向かっていました。監督の想いに賛同し、いい作品を作ろうという熱量があって、スタッフみんなが全うしていた現場だったんです。それは撮る人もそうだし、明かりを当てる人もそうだし。大地と亜樹、そして父親という、そこに生きる人たちに対してみんながとても真摯でした。冬の新潟はすごく寒かったので、結構過酷だったけれど、過酷であればあるほど繋がっていく感じもあったし(笑)。酷なシーンも含めて、ワンシーンワンシーン、真実を撮ろうとする感覚がありましたね。肉体的にはつらいこともあったけれど、「かけがえのないシーンが撮れているんじゃないかな」という興奮を、現場にいるみんなで共有できた撮影でした。

母親・亜樹を演じる上で考えたこと

——寒々しい景色の中を一人で彷徨う大地を見ていると心が締め付けられ、「これ以上つらい目に遭わないでほしい」と祈りながら見届ける映画体験でした。宮沢さんは母親の亜樹として、年齢ごとに異なる4人が演じる大地と向き合いました。エンドロールの「母に捧ぐ」というメッセージの通り、亜樹というキャラクターは監督の母親と重なる存在ですよね?

宮沢:はい。

——その人物を演じるにあたり、実際の(監督の)母親に寄せた部分はありますか? 逆に自分自身から出てくるものを重視したのでしょうか。

宮沢:自分とお母さまの間に、線を引くようなことはあまりしませんでした。監督と重ねたコミュニケーションの中で、自分の中にお母さまのイメージが蓄積していくと同時に、自分の思う亜樹という人も蓄積されていったので、結果的にいろんなことがミックスされた役作りになったと思います。監督は、お母さまの真似をしてほしいわけではないだろうなとも感じましたし。

現場では、彼らが生きている場所や生活している空気など、空間の中にきちんと自分が溶け込むことに集中しました。あてがわれた服を着てあてがわれた場所にいるのではなく、すべてが昔からそこにあったものだというふうに自分のマインドを持っていく。言葉にすると軽くなってしまうのですが、どこか瞑想みたいなものというか……。

撮影が始まる前に、監督と、大地を演じた加藤庵次(かとう・あんじ)君、榎本司(えのもと・つかさ)君と待ち合わせをして、横浜の遊園地に電車で行ったんです。何かを話すというわけではなくて、一緒に遊んで、ご飯を食べて、私の大嫌いなジェットコースターに乗りました。「乗りたくない」って言ったら、「えー! 乗って!」と言ってくれたことがまず嬉しくて。私に対して遠慮があったら、「怖いんだったら乗らなくていいよ」って言ってくれるじゃないですか。でも、「えー、一緒に乗ろう!」「乗ろう乗ろう乗ろう!」って。あの日にああいう空気感や関係性を作ることができて、子どもたちのためのお出かけだったかもしれないけれど、誰よりも私にとってすごく助けになりました。

もう一つの大きな助けが、自分が子どもの頃に母親に向けていた意識と、母親として年頃の娘に対する気持ち、その両方を私自身が経験できていることです。「あの時に、違う選択をしていたら」と思うことは、人間誰でもあるじゃないですか。100%正しい道しか選ばなかった人なんていないですよね。亜樹は過酷な道を選んでいってしまったけれど、それでも最後まで諦めずに、息子のために「生きる」という選択をし続けたことがとても偉大ですし、強い人だと思います。その状況の中で、母と息子の関係性が積み重ねられていって、映画の最後にはとても希望がある。お互いにいろんなものを浄化して、大地が自分の道を進める力になったんじゃないかなと思います。

大地を演じた4人
それぞれの印象

——大地を演じた4人それぞれの印象をお聞きしたいです。

宮沢:穐本陽月(あきもと・はると)君はまだ6歳で、役柄と現実との境目が揺らいじゃうときがあるぐらいの純粋な子でした。本当に大変なシーンだったので、監督とスタッフ全員でものすごく一生懸命ケアをして、フォローに徹して。良いシーンを撮るという想いと同じぐらい、彼の純粋さを守ろうとする組の想いが感じられて、すごく信じられる現場だなあって思いました。

一緒にいる時間としては、庵次君が一番長かったかな。2人で暮らすプレハブの部屋でのシーンが多かったので、メイクを終えて現場に入ったら、できるだけ庵次君と一緒に現場にいました。本当に2人で生活をしているような空気の中で、グラデーションのように、どこからが芝居で、どこからが現実の2人の関係なのか分からないぐらいの時間を過ごしていました。お風呂に一緒に入るシーンでは、もちろんインティマシーコーディネーターの方がいらっしゃって、配慮の行き届いた撮影がされていました。親子だとはいえ、お風呂ではある程度の距離を取らなければいけないなと思っていたら、「ずっと入っていたいね!」「(お風呂から)出たくないよ!」と言っていたのがすごく印象に残ってます。彼は私のいないシーンも多かったので、日数を空けて現場に行くたびに、明らかに彼に変化が見えました。純粋であることってすごく強いな、モノを吸収していってるんだなぁと、感動したのを覚えています。

司君は一番お兄さんなんですけど、やっぱりとても純粋な子でした。亜樹が交際している男性(奥野瑛太)につらいことをされるシーンで、カットがかかった瞬間に、司君の涙が止まらなくなってしまったんです。芝居中ではなくて、カットがかかってから「お母さんがつらいのを見たくない」「つらい」と言って泣いていて……。 そんな子たちと一緒に時間を過ごしていると、お芝居で何かしようとか、こうしようとか、余計なことはいらなくなるんですよね。与えられたシチュエーションの中で、大地をきちんと感じながらセリフを言えば、監督はそれでオッケーという現場でした。

——宮沢さんの「演技の枠を超えてしまうような瞬間があって」という公式のコメントに繋がります。北村匠海さんはいかがでしたか?

宮沢:北村さんは、みんなと同じ、純粋で強い目をしていました。こんなに長く仕事されているのに、それってとっても稀有な人だなと驚かされました。

本作に出演が過去を振り返るきっかけに

——もしも宮沢さん以外の人が亜樹を演じていたら、こんなにも愛情深い人にはならなかったのではないかと感じました。亜樹は言葉で説明するといわゆる毒母としても演じることができますが、宮沢さんの亜樹は、言動や表情の端々から大地への愛情が滲んでいました。

宮沢:それが、内山監督が描こうとした亜樹なんだと思います。

——「阿修羅のごとく」、「湯を沸かすほどの熱い愛」、「紙の月」といった他の作品でも、宮沢さんが演じる人物からは愛情深さを感じます。その人が何かを間違ってしまったとしても、その根っこに愛情があるから、断罪できない。それは宮沢さんが演じるからそうなっているように思えるのですが。

宮沢:ありがとうございます。でも、私はそこを自覚したことはなくて、「監督から求められたことにただ応えたい」という想いで演じた結果なのかもしれません。ただ、「生きる」という意思がある人は、愛情も深いんじゃないかなって思います。

——「この作品に出会ってよかった」とコメントされていますが、その理由をお聞かせください。

宮沢:見た映画、出会った人、演じた役、そういうものにきっかけをもらって、価値観が形成されて、自分という精神があると思っています。その価値観というものは、多分死ぬまで蠢(うごめ)きながら豊かになってくだろうし、豊かにしていきたいな、それが人生なんだな、と最近考えられるようになったんです。それはこの「しびれ」という映画に携わり、この息子を持つ母親役を演じたからだと思っています。

ある程度成人するまでは、子どもにとって親はとても偉大な存在だし、親との時間によって価値観が形成されていきますよね。そういうことを、監督とたくさん話し合いました。監督がそれを「しびれ」という一つの芸術作品にして世に放つことで、彼自身の中で浄化したものがあるだろうな、という気がします。私も自分自身に目を向けてみると、抱えきれなかったり消化しきれなかったことを、そのままにして大人になってきていることもあるなと気づいたんです。どちらかというと“今”と“未来”に重きがあって、“今まで”というものをどんどん箱に入れていた感じがする(笑)。振り返るなんてあまりしたことがなかったから。でも今回、箱を一つ一つ開けて、中身をもう一度見つめ直して、それについて考えて、浄化するという時間を持ちました。そうすることで、「こういうことをこれからもやらないと、本当の意味での大人になれないな」と思ったんです。もしかして、今まで全然大人じゃなかったのかもしれません(笑)。

例えば、今の自分はどういうことが嫌なのか、なぜそれが嫌なのかを辿っていくと、その原因が過去にそのままにしたものの中にあったりするんですよね。そういうカウンセリングもありますが、自分自身でできることだなと思います。いくら今の自分を整理しようとしても、今まで自分が生きてきた時間を見つめないと、わかったフリになっちゃうんじゃないかと思うようになりました。時間がある時に自分を振り返ったり、何かにぶつかったときに立ち止まって、感じて、考える。そしてまた前に進むというのは、私にとってとても良かったと思います。こういうプロセスを通じて、自分自身の精神や考え方というものを自分のものとして捉え直した時に、親からもらった人生ではなくて、大人としての自分の人生が初めて始まる気がします。

PHOTOS:NA JINKYUNG(TRON)
STYLING:KEIKO SASAKI(AGENCE HRATA)
HAIR&MAKEUP:KEIZO KURODA

ワンピース 57万9700円/ボッテガ・ヴェネタ

映画「しびれ」

◾️映画「しびれ」
9月25日からTOHO シネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほか全国公開
出演:北村匠海 宮沢りえ
榎本 司 加藤庵次 穐本陽⽉
奥野瑛太 ⾚堀雅秋 ⾚間⿇⾥⼦ / 永瀬正敏
監督・原案・脚本:内⼭拓也
企画・プロデュース:永井拓郎 宮前泰志
プロデューサー:堀慎太郎 ⼤崎真緒 佐藤菜穂美
共同プロデューサー:本間綾⼀郎
企画・制作:カラーバード
製作幹事・制作プロダクション:RIKI
プロジェクト 配給:NAKACHIKA
2025年/⽇本/118分/カラー/ヨーロピアンビスタ/5.1ch ©2025「しびれ」製作委員会
https://shibire.jp

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