サステナビリティ
特集 パタゴニアのビジネスに見る新しい資本主義 第8回 / 全9回

「パタゴニア」が環境に負荷を与えても「作る」理由 メンズディレクターに問う

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マーク・リトル/メンズ・ライフ・アウトドア グローバル・プロダクト・ライン・ディレクター プロフィール

オハイオ州立大学でフランス文学とコミュニケーションの学士号を取得。「アバクロンビー&フィッチ」などさまざまなアパレルメーカーを経て2012年1月パタゴニアに入社。メンズ・スポーツウエアとサーフ・アパレルの製品ライン・マネージャーを務め、15年3月から現職。アパレル業界で23年以上の経験を持つ。パタゴニアのミッションと価値観を反映した高品質の衣類を作ることに情熱を注ぐ。また、変革的な農業や二次廃棄物の転用に焦点を当て、社会的責任の価値観と循環型経済を推進し、より良いビジネス慣行への挑戦を続ける。趣味はサーフィンとスキー

自然保護を目指すなら、新しくモノを作らないことが最も理にかなっている。では、なぜ「パタゴニア(PATAGONIA)」は貴重な資源を使ってまで製品を作り続けるのか。売り上げの約4分の1を担うマーク・リトル(Mark Little)=メンズ・ライフ・アウトドア グローバル・プロダクト・ライン・ディレクターに製品を作り続ける理由や製品作りの具体的なアプローチを聞く。(この記事は、無料会員登録で最後まで読めます。会員でない方は下の「0円」のボタンを押してください)

WWD:「アバクロンビー&フィッチ(ABERCROMBIE & FITCH)」などあなたが経験を積んだブランドとパタゴニアとは性質が異なる。なぜパタゴニアに?

マーク・リトル=メンズ・ライフ・アウトドア グローバル・プロダクト・ライン・ディレクター(以下、マーク):世界中に点在する工場を訪れたときに、ファストファッションの影響を目の当たりにしたからだ。もちろん良い工場もあったが、例えばバングラデシュで悪い環境を見たときは言葉にならなかった。

WWD:パタゴニアはこれまで経験したブランドとはモノ作りの方法が異なるのでは?

マーク:ええ。これまで学んだ専門知識を生かしながら、正しい方法による製品の作り方を学ぶ必要があった。パタゴニアに入社して驚いたのは、製品の形だけを作っているのではないということ。素材の変更やフェアトレードへの切り替えなど、大きな変化を起こしながら製品を作っている。

WWD:これまで手掛けた製品で誇りに思っているものは?

マーク:毎シーズン、成し遂げたことを誇りに思い、そのレベルは上がり続けている。だから非常に難しい質問だが、一つ選ぶとしたら2015年のキャンペーン「デニムは汚いビジネスだから」だろう。製品づくりのアプローチを変えるきっかけになったからだ。

デニムは不朽の名作ともいわれているが、産業で最も汚い(環境負荷が高い)製品の一つでもある。私たちは産業の針路を変えるべく、デニム産業の環境的・社会的悪影響に関する認識を広げたいと考えた。実は「パタゴニア」もこのキャンペーン以前は生地にオーガニックコットンを用いる程度だった。定番品であるデニムの生産で、最も責任のある方法は何かを再考した。生産工程全てを見直し、どれだけ環境負荷を削減できるかにフォーカスした。例えば染色はコットンに付着しやすい合成インディゴを使用し、(通常デニムは染色を何度も繰り返すが)染色工程を1回にすることで染料の使用量を削減した。全工程で水の使用量を84%、エネルギーの使用量を30%、二酸化炭素排出量を25%削減することができた。加えて、労働者の生活を向上させるためにフェアトレード認証も取得した。私たちは今後、(環境への負荷を考慮して)色落ちさせていないデニムしか作らないと約束した。

「貴重な資源を使ってまで作る製品は適切か」チームで検討を重ねる

WWD:製品作りはどのようなアプローチで行っているか。

マーク:大きく二つある。一つ目はすでにある製品ラインの評価だ。私たちのデザイン哲学は「適切かどうか」。なぜその製品が存在するのか?貴重な資源を使ってまで作る製品は適切かを機能的なニーズを理解したうえで検討し、シーズンごとの製品プランを考えている。

二つ目はイノベーションを推進するためのアプローチで、例えば、環境再生型有機農法への移行や、責任あるダウンの使用に向けたものなどだ。ダウンはサプライチェーンと連携して、追跡可能なものや、リサイクルダウンを活用する方法を確立した。

この数年で技術革新は急進しており、私たちもこれまで以上に何を作る必要があるかを厳しく議論するようになった。

WWD:素材やデザインについてはどうか。

マーク:持続可能性を高めるにはどうすればいいのかはインプットから始まる。リサイクルポリエステルは好例だ。多くのアパレルメーカーは原料にリサイクルペットボトルを使用しているが、私たちはポリエステルやナイロンといった(ケミカルリサイクルが可能な)合成繊維は、ポストコンシューマー素材の活用とそのインフラを整えることに全力を注いでいる。例えば、リサイクルナイロンの「ネットプラス」は、使用済みの魚網を原料にしている。

最高の製品を作るために、全てオーガニックでなければならない、全てリサイクルでなければならないと言うのは簡単だが、長寿命と耐久性を考えると、時には用いる素材のバランスを取る必要もある。

デザインやディテールについては、トレンドにとらわれないような、タイムレスなシルエットや色、テキスタイルなどを検討している。ネイビーなら20年後も着られるし、コレクターズアイテムのように20年後も通用するアイテムをイメージしている。製品寿命を迎えたときのリサイクルの可能性についても、解体して再利用するのか、繊維として再利用するのかといったことを検討している。

WWD:そもそも製品作りと自然保護は相反するものでもある。

マーク:私たちは製品を愛しているからこそ、素晴らしい製品を作るというロマンにとらわれることがある。その代償として環境への負担が大きいことも忘れてはならない。そのために本当に解決したい問題は何かを考え、評価することを大切にしている。例えば、収益を生んできた製品だとしても、必要性を感じなかったり、他のカテゴリーと重複したりしているようなものは、生産を中止することもある。

WWD:新しいものを作る楽しさとアパレル産業の矛盾の両方を感じながら取り組んでいると思うが、どのようにその矛盾に立ち向かっているか。

マーク:地球のことを思えばモノを作らないことがいいとは思うが、事業活動を停止することがいいとも思っていない。人々が消費することに変わりはないし、それを私が変えられるとは思っていない。ただ、私たちは人々が何をどのように消費するかについて、人々が消費する製品で使われる材料や製法について、影響を与えることができると考えている。現在分かっている最も責任ある最善の方法に取り組み学び続けること、そして、オープンであることが大切だと考えている。間違いを犯したときも正直にみんなに共有して将来に向けて対処すること。私たちは完璧ではない。

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