ファッション

4シーズン目を迎える「E5 アイヴァン」 デザイナー・中川浩孝が語るブランドの未来

2021年にローンチしたアイウエアブランド「E5 アイヴァン(E5 EYEVAN)」は、機能性を追求した“アイウエアの原点”ともいえるコレクションがそろう。ステートメントには機能的な工業製品を作るために「実用的であること」「機能が必然であること」「安心して扱えること」「フレシキブルであること」「長く使えること」を掲げ、ミニマルで美しいデザインのアイウエアを発表している。今回はデザイナーの中川浩孝に、アイウエア本来の必要な機能を追求する「E5 アイヴァン」を立ち上げた経緯と未来の展望を聞く。

全ての構造やデザインを
言葉で説明できること

「E5 アイヴァン」は「形態は役割。目的に従う」という生物学の思想に基づき、アイウエアの原点ともいえる“機能性”を最も重視するもの作りを目指す。デザイン性を優先するアイウエアも多い中、掛け心地や修理のしやすさといった、ユーザーの千差万別な“安心”を追求する希少な存在だ。中川がコロナ禍での自粛中に、テレビで医療従事者のアイウエアがガムテープで巻かれた姿を見たことがブランド立ち上げのきっかけとなった。

「今まで、壊れにくさや修理のしやすさを考えてきたものの、さらに切実な状況を目の当たりにした瞬間でした。壊れたら眼鏡店で直せば良いといっても、コロナ禍では簡単に外出できなかったですから。そもそも店舗も閉店している。そんなときに、今の世界に必要なアイウエアは何なのか。これまで以上にもの作りについて深く考えさられました」。

アイウエアの見た目の美しさではなく、徹底的に機能性と掛け心地を考えたときに必然と根源的な問題と対峙した。「なぜ、ネジが緩むのか?」という機械要素までを追求して完成したアイウエアは「全ての構造やデザインに対し、しっかりと言葉で説明ができる」という。

機能を積み重ねて完成させる
唯一無二の新作

今季の新作には、“機能性”と“美しさ”を両立させながらも、ビンテージを思わせる、絶妙なバランス感を持ち合わせたモデルがそろう。太セルの“p15”は、軽さを求めフロントテンプルに異素材のプラスチックを採用。さらに高度な削りの技術を掛け合わせることで、より軽量化を実現し、「太セルは重い」という概念を覆した。掛け心地の良さと、オプティシャンの調整のしやすさを検証して作られたL字型の特殊な丁番は、中川が設計し特許を取得したものだ。

“m8”は、フロントに厚みのあるレンズにも対応できる軽いチタン製のリムを、テンプルには優れた柔軟性と強度を持つBSチタンを使用。チタンをシャーリングしただけのカラー、STに関しては「メッキをしていないので、傷も経年変化として楽しめます。テンプルはとても細く軽いのですが、テンプルエンドには滑り止めのシリコン樹脂加工を何重にも施しているので滑りにくく、しっかりとフィットする。機能性だけを追求した、ここまで無駄のない、潔いデザインはなかなか作れないのではないかと思うほどです」と語る。

目指していたものが
ようやく形になった

そもそも自身のミリタリーウエアへの憧れがデザインの起点になったという。「以前から、体を動かしやすいとか、作業しやすいとか、戦地の気候や状況に合っているとか、“機能”からデザインされているミリタリーウエアが好きでした。ブランドができた後、祖父が軍服を作る職人だったことを偶然に知ることになり、すごく合点がいきました。経験は継承するように、僕は親族のDNAのおかげでこの仕事やブランドをやらせてもらえているんじゃないかと思っています」。

必要な機能を積み上げて作られる「E5 アイヴァン」は、生物学的なアプローチでもの作りを行う。「機能的な必要性から形が決まっていくという、ある意味、力学的な自然界の法則に身を任せているような作業なので、従来の能動的なデザイン作業とは異なります。そこにある種の物足りなさみたいなものを感じることはありました。でも、完成したプロダクトを実際に掛けてみたときに、すごく良いプロダクトだなとか、自分がデザインしたのに、客観的に感じられるというのは新鮮な感覚でした。4シーズンを経て、今までの『E5 アイヴァン』もコレクションごとに機能的な進歩という意味で、納得のいくものだけをリリースしてきた自負があります。今季は特に自分の中でのミリタリーウエアへの憧れをアイウエアとして形にすることができた、特別なシーズンになったと思います」。

どのような時代の
ニーズにも対応できる
“生活に必要な道具”

コロナ禍で抑圧された生活をしていた反動で、アイウエアのトレンドもファッションと同様にデザイン性の高いものに向かう傾向がある。その現状について中川は、「機能性や心地よさなど、快適な生活を送るための道具という現実的なデザインよりも、華やかで刺激的なファッション性の高さに引かれるというのは、自然な心の動きだと思います。ただ、さまざまな分野のもの作りに関わる方々と話すのですが、1940〜50年代に作られた衣類や食器、家具などは、いまだに多くの人々に愛されている。それは世界的な物資不足であらゆる供給が逼迫する中、最低限の材料で無駄を省いて作られた、生活に必要な道具だからです。くしくも『E5 アイヴァン』は、世界大恐慌以来の危機であるコロナ禍に“本当に必要な機能とは何か?”を考えて作ったブランドなので、前述した時代の製品と同様に、どのような時代のニーズにも対応できる “生活に必要な道具”という要素を持ち合わせていると思います」と締めくくった。

PHOTO:SHUHEI SHINE
TEXT:KEI WATABE
問い合わせ先
アイヴァン PR
03-6450-5300