ファッション
連載 私が新入社員だったころ

就活人気ランキング1位、伊藤忠の敏腕キャリア女性を支えた「新人時代の一言」 【私が新入社員だったころ vol.5】

 「WWDJAPAN」は4月3日号で、ファッション&ビューティ業界の新入社員や若手社員に向けて、「プロになろうーー知っておくべき業界の今」と題した特集を企画した。それと連動し「WWDJAPAN.com」では、業界で活躍するアラフォー世代以下のリーダーたちに、自身が若手だったころに心掛けていたことや、それが今の仕事にどうつながっているかを取材。連載形式でお届けする。今回は女性総合職が少ないと言われてきた総合商社で、商い道に邁進する伊藤忠商事の森梨絵さんに話を聞いた。

WWD:なぜ女性総合職の割合の低い総合商社を?

森梨絵・伊藤忠商事 ブランドマーケティング第一部ブランドマーケティング第5課(以下、森):父も総合商社で働いていて、海外赴任時にパリで過ごしたこともあって、小さいころから漠然とグローバルなビジネスをしたいと思っていました。私が就活していた当時、伊藤忠には行きたい部門を選んで入社試験を受けられる枠があって、私は「繊維カンパニー」枠を選んで受けました。幅広い事業を展開しているのが総合商社の特徴ではありますが、私自身は「グローバルなビジネス」「ブランドビジネス」という2つをやりたいという思いが強かったからです。

WWD:就職が決まったときのご両親の反応は?

森:自分もそうだったからか、父は激務のことを心配していましたね。

WWD:入ってみてどうでしたか?

森:繊維カンパニーの場合、新入社員は最初の数年間、商社業務の基礎となる「受け渡し」と呼ばれる貿易物流の支援を行うのですが、私の配属されたブランドマーケティングは、OEM(相手先ブランド生産)のように数量を競うビジネスではないので、そういった部署の同期と比べると忙しくなかったかもしれません。

 ただ、学生時代はP/L(損益計算書)やB/S(賃借対照表)のことなど全く知らなかったわけで、いきなりビジネスの最前線に放り込まれるようなものなので、挨拶の仕方からメールの文面、業務レポートの書き方、服装の注意まで、とにかく毎日のように怒られていました。言い方は厳しかったですが、ビジネスの基礎を文字通り叩き込まれました。ただ、当時はその先の不安の方が大きかったです。

WWD:不安とは?

森:ライセンスビジネスを例に取ると、市場調査などをした上で戦略を策定し、かつ十数社あるライセンサーの利害の調整をしながら、実行していかなければならない。しかもライセンサーとして仕事のパートナーになるのは、自分よりも年齢も実績も仕事能力もずっと上のアパレル会社の役員や社長クラスなわけです。自分で本当にできるのか、そのことがずっと不安でした。

転機は「ディーン&デルーカ」への出向

WWD:転機は?

森:2009年〜11年まで出向したディーン&デルーカジャパンです。もともと、学生時代の留学先のニューヨークで知った「ディーン&デルーカ(DEAN&DELUCA)」を好きになって、日本に持ち込んだ伊藤忠を志望したようなところもあったのですが、バックグラウンドもキャリアも多彩な人たちと一緒に横川正紀社長(当時)の下で、東京ミッドタウン店のオープニングに関わったり、店頭に立ったり、MDや広報を担当したり、小さな企業なのでとにかくなんでもやりました。「ディーン&デルーカ」の濃い理念を、日本流にどうアレンジして展開するか。つまり「ブランドとは何か?」について、走りながら考えて実行する毎日でした。大変だったけど楽しかったですね。

 それに当時の同僚に言われたことで「はっ」としたのが、「仕事の進め方がきれいだね」という一言でした。右も左もわからない当時なので、そのくらいしか褒めるところがなかったのかもしれませんが(笑)、段取りの仕方や書類の作り方、社内外に出すレポートなど基礎があれば少なくともプロとしてのスタートラインには立てるんだ。そう実感もしましたし、伊藤忠商事のそういった環境にも感謝しました。

2013年に1人目、16年に2人目を出産。仕事との両立は?

WWD:かつては「企業戦士」の代名詞だった総合商社も徐々に変わりつつある。森さんから見て「働き方」はどう変わった?

森:今は、朝は5時半に起床して出社は7時40分ごろ。17時に退社して子どもを学童に迎えに行って帰宅。場合によって夜に自宅で海外とのテレカン(ウェブ会議)が入ることもあります。プライベートでは2013年に1人目、16年に2人目を出産しました。この間に産休も育休も取るので、どう復帰して、どう働くのかを必然的に考えました。特に一人目を生んだ2013年は、保育園が全然見つからない時期でした。

WWD:「保育園落ちた日本死ね!!!」が話題になって待機児童対策が本格化したのは2016年でしたね。

森:はい。見つけられず復帰できない人も多い中で、当社の社内託児所の存在は復帰の後押しになりました。それに一人目を生んでからの復帰のときには、正直戸惑いました。以前と同じは無理だけど、それならどういったスタンスで働こうか、と。これは自分で決めて伝えていくしかない。だから「海外も含め、出張は行きます」と宣言しました。出張に限らずですが、出張時には実家の母が手伝ってくれました。

WWD:コロナ禍の影響は?

森:コロナ禍は大変でしたが、働き方改革の観点で見れば、小さい子どもと過ごすという貴重な時間も取れましたし、悪いことばかりではなかったと思っています。総合商社は時差のある海外の取引先とのテレカンも多く、昔は「上司が帰るまでは帰れない」「テレカンはオフィスで」といったようなこともありましたが、コロナ禍で在宅勤務が導入されたり、オンラインミーティングも当たり前になりました。より合理的になったと思います。今は17時に退社して子どもを保育園に迎えに行った後に、自宅で海外の取引先とテレカンする、ということが当たり前になりましたが、かつては海外とのテレカンのために夜にわざわざオフィスに戻ることが普通でした。それに先ほど17時退社と言いましたが、伊藤忠は朝型勤務が可能なので、時短勤務じゃないんですよ。もちろんフレキシブルになった分、パフォーマンスや結果へのプレッシャーは強くなったとは思います。

WWD:最後に新入社員の皆さんにメッセージをお願いします。

森:失敗を恐れず積極的に「挑戦」してほしい。この歳になると、やっぱり失敗や挑戦ができるのは、若さの特権だとしみじみ思います。新入社員の立場だと「こんなこと言っていいのかな」とか、逆に「もっとこうした方がいいのでは?」「これをやりたい」みたいなことがたくさん出てくると思いますが、そういったときは臆せずどんどん言ったり発信したりした方がいいと思います。自分ごととして捉えているから、そういった考えになるわけで。こうしたことは、おそらく自分が思っている以上に周りの先輩や上司もよく見ていて、言い続けると「この子は面白いからちょっと話を聞いてみよう」とか「一緒に仕事しないか?」みたいな誘いにもつながるはずです。

 子どもができてからは、取引先とのタフでシビアな契約のネゴシーエションも、子どもの翌日の漢字テストのことも、どっちも同じくらい大変な「悩み」であって、そしてそういったことは毎日毎日、しかも次から次へといろんなことが同時多発的に起こったりもします。

 これまで働いてきて思うのは、「どんなに大変でもやるしかない。そして、いずれは終わらせられる」ということです。先ほど「キャリアも実績もずっと上の歴戦のプロが相手」と言いましたが、私だってこの5〜6年でようやく私も自分の言葉で話せるようになったという感じです。ビジネスは本当に難しい。でもライセンスビジネスのような契約書ありきの仕事であっても、やはり最後は人と人。言い方一つ、聞き方一つで、最終的な成果は良くも悪くも変わります。一つ一つ、一生懸命に取り組むことで、次のステップが見えてくる。

 あ、あとは仕事を楽しんでほしいです。つらくて目の前の仕事から逃げ出したいみたいなことは今でもよくあります(笑)。けど、会社を辞めたいと思ったことはありません。もともとブランドビジネスをやりたいと思って入った会社ですし、「商い」自体、大変さをふっとばすくらいの面白さと奥深さがありますよ。

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