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ウィメンズを復活 進化する創業150周年のフレンチラグジュアリー「エス・テー・デュポン」

 創業150周年を迎えた「エス・テー・デュポン(S.T. DUPONT)」は、今でこそライターやペンを扱うラグジュアリーブランドとして名をはせているが、その原点はトランクやバッグなどのレザーアイテムだった。ナポレオン3世に始まりジャクリーン・ケネディやレオナルド・ディカプリオなどそうそうたるセレブリティーに愛されてきた「エス・テー・デュポン」は、その長い歴史からヒントを得て、さらに進化する。

「誰でも手に入れられるようでは
ラグジュアリーとは言えない」

WWD:創業者のシモン・ティソ・デュポンは、ナポレオン3世のカメラマンから転身して「エス・テー・デュポン」を立ち上げた。創業当初はレザーグッズブランドだったが、どういった経緯で現在の主力アイテムであるライターやペンを扱うようになったのか。

アラン・クルヴェ=エス・テー・デュポン社長(Alain Crevet以下、クルヴェ):シモンは、1870年に勃発した普仏戦争でスタジオが燃え、仕事を失うも、村でレザーを生産していたことからレザーケースやトランクをデザインするようになった。彼のトランクは、皇帝や皇后をはじめとする上流階級に気に入られて成功した。ライターを取り扱うようになったのは、1941年にパリを訪れたパティアラのマハラジャから、100人の妻のために100個のクラッチバッグと、バッグに合うゴールド製のライター100個の製作を依頼されたことがきっかけだった。また、73年には、ジャクリーン・ケネディからの依頼で彼女が愛用している特注ライターに合うペンを製作した。ライターもペンもそれまで扱ったことはなかったが、顧客の要望に応えた結果、現在の主力アイテムが生まれ、ビジネスが拡大した。

WWD:「エス・テー・デュポン」が大切にしていることは。

クルヴェ:皇帝や皇后のためにレザーグッズを作り始めたのがこのブランドの原点であり、その後もオードリー・ヘップバーンやパブロ・ピカソ、アンディ・ウォーホル、レオナルド・ディカプリオなど、特別な才能とチャレンジングな精神を持つ多くのセレブリティーの期待に応えてきた。だからこそ、“特別な人のために特別なものを”というのがわが社のモットーだ。

WWD:クルヴェ社長の考える“ラグジュアリー”とは。

クルヴェ:1シーズンで消費してしまうようなものは真のラグジュアリーではないと考えている。私にとってのラグジュアリーとは、“永続性”であり、“万人が手にできないもの”だ。例えば「エス・テー・デュポン」のペンは、金やプラチナなどの貴金属を使用し、ラッカー塗装を施している。60時間かけて全て手作業で作っているこのペンは、少々火であぶっても燃えないし、少しの高さから落としても壊れず、50年100年と使い続けることができる。「エス・テー・デュポン」こそ、真のラグジュアリーだ。

WWD:昨今は“インクルーシブ”であることがブランドに求められがちだが、“エクスクルーシブ”であることがラグジュアリーの条件だと考える?

クルヴェ:私は人が好きだし、インクルーシブという考え方も重要だと思う。しかし、ラグジュアリーとは、他人とは異なるものを求める人のためにある。ラグジュアリーブランドがインクルーシブであるかのように振る舞うのは必ずしも正解ではないし、高級ライターは万人のためのものではないと恐れずに言うべきだ。

原点からヒントを得た
「ウィメンズの復活」

 
WWD:150周年を迎えて、記念アイテムやイベントが目白押しだ。

クルヴェ:創業150周年を記念したアイテムは、喜びにあふれた150年の歴史をその色や形で表現している。「エス・テー・デュポン」のライターの特徴である点火するときの“クリングサウンド”も、幸せや喜びを体現する音色だ。アニバーサリーイヤーの締めくくりとして、フランスの工房に眠っていたアーカイブの展示と販売を行う。東京では2023年2月に同イベントを開催する予定だ。展示・販売するビンテージライターの中には80年以上昔に作られたものもあるが、その全てが今でも使用できる状態のものだ。

WWD:今後の戦略や目標は。

クルヴェ:これまでの歴史に立ち返り、ヘリテージを守っていくことも大切だが、未来について考えることも重要だ。これらを両立すべく、ウィメンズカテゴリーの復活と新規出店を行う。さらに、売上高を5年以内に倍増させるつもりだ。

WWD:ウィメンズカテゴリーの復活とは。

クルヴェ:皇后のトランクを作ったのがブランドの原点であり、1950年代にはオードリー・ヘプバーン、70年代にはジャクリーン・ケネディが顧客だったように、かつての「エス・テー・デュポン」には女性の顧客が多くいたが、現在のメインの顧客層は男性だ。今後は原点に立ち返り、ウィメンズカテゴリーを復活させ、女性が欲しいと思うアイテムも展開していく。ヒントはアーカイブに残されているから、そのエッセンスを入れながらも新しい「エス・テー・デュポン」のウィメンズを作りたい。ウィメンズカテゴリーは女性だけのものではなく、男性も使えるようにユニセックスなデザインを目指している。23年秋にはお披露目したい。

WWD:誰がデザインを担当している?

クルヴェ:少人数の特別チームを作り、女性が使用することを念頭に置いてレザーグッズやクラッチバッグのデザインを練っているところだ。チームのメンバーはほぼ全員が女性で、インハウスの若いデザイナーに加え、外部からもデザイナーを招聘した。中には複数のラグジュアリーブランドで経験を積んだ者もいる。

WWD:ウィメンズの展開に合わせて新規出店を行う?

クルヴェ:現在は男性の顧客が多いため、必然的にメンズセクションに出店しているが、このプロジェクトを効果的に展開できるよう、女性客が多く集まる場所にも出店したいと考えている。「エス・テー・デュポン」にとって、日本はフランスに次いで2番目に大きいマーケット。メンズもウィメンズも展開できる規模の店舗を出店することを目指し、日本への投資を継続する。

HOTEL PARTICULIER Collection

 創業150周年を記念し、パリの本店をモチーフにしたボールペンとライターのコレクション“ホテル パルティキュリエ”を発売する。かつては皮革から貴金属、エナメル、彫刻まで、18種類もの職人がここで商品を作っていた。ライターはおよそ70個ものパーツで構成し、600におよぶ工程を経て製作。美しいクリング音が特徴の“ライン2 クリング”タイプ。プラチナとゴールドプレートシルバー製。ライターは税込58万4100円。万年筆・ボールペンセットは税込44万9900円。

MONTECRISTO Collection

 創業150周年記念の“モンテクリスト”コレクションは、ハバナ・シガーの有名ブランド「モンテクリスト」とのコラボーションだ。「モンテクリスト」のロゴが描かれたライターとシガーカッター、万年筆をそろえる。夕焼け空を思わせるグラデーションラッカーは、アレクサンドル・デュマ作「モンテ・クリスト伯」がインスピレーション源。ライターは税込21万2300円、シガーカッターは税込3万800円、万年筆は税込23万3200円。

TEXT : YU HIRAKAWA
問い合わせ先
エス・テー・デュポン ジャポン
03-5549-7420