ファッション

「ザ・ノース・フェイス」はなぜ「ロイカEF」を選んだのか 担当者が語る妥協なきこだわり

 環境負荷軽減を目指すファッション業界でサステナブルな素材に注目が集まる中、旭化成のリサイクルストレッチファイバー「ロイカEF」に多くの企業が熱視線を送っている。アウトドアブランド「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」を日本で運営するゴールドウインもそのうちの一社だ。同社はサステナビリティに関する長期ビジョン“プレイ アース 2030(PLAY EARTH 2030)”を5月に発表し、2030年までに環境に配慮した素材の使用率を現在の28%から90%へ引き上げを目標とし推進している。「ザ・ノース・フェイス」でも人気商品“バーブライトパンツ”を20年春夏シーズンから「ロイカEF」を使った環境配慮型の生地に切り替え、ほかの定番品も環境に配慮した素材に徐々にシフトしている。数あるサステナブルな素材の中で、なぜ「ロイカEF」を選んだのか。同ブランドの千葉弥生アウトドアアパレル企画担当に、その理由や背景を聞いた。

伸縮性や汎用性など
機能面のバランスが秀逸

 「ザ・ノース・フェイス」の万能パンツとして、登山やさまざまなスポーツに対応する定番品が“バーブパンツ”だ。2016年には、薄さと軽さにこだわった“ライト版”としてメンズ向けの“バーブライトパンツ”とウィメンズ向けの“バーブライトスリムパンツ”が登場。日常使いできるシンプルなデザインと、夏場のトレッキングや激しい運動にも対応する機能性で、多くの顧客から支持を集めている。そんな人気商品が、「ロイカEF」を用いた環境配慮型のストレッチ生地に昨年リニューアル。「定番品を徐々に環境に配慮した素材に切り替えており、“バーブライト”も変えたいと、『ザ・ノース・フェイス』から生地を取り扱う旭化成アドバンスに相談した」と、千葉は経緯を語る。

 リサイクル素材への切り替えは、従来の生地より光沢が強かったり、伸縮性が下がったりと品質の壁もある。しかし、千葉は「ロイカEF」を使った素材に「安心してシフトできた」と話す。「環境配慮型のストレッチ生地に変更しても、従来の“バーブライトパンツ”が持つ伸縮性や汎用性といった機能性は保ちたかった。しっかり伸びて表面が滑らかなもの、不要な光沢感もないもの、テクニカルなパンツ然としないもの——。妥協したくない部分がいろいろあった。『ロイカEF』は全体のバランスが優れていて、その全てをかなえてくれた」。

 機能性に加え、「ロイカEF」はデザイン面でもブランドのこだわりに貢献している。「“バーブライト”の一番の強みは、いい意味で見た目が“普通”なこと。通常トレッキングや激しい動きを想定したパンツは、膝部分にダーツや切り替えが入っているものが多い。でも“バーブライト”は、膝の切り替えがなく、ポケットの仕様も含めてシンプルでベーシックなデザインをとことん追求している。『ロイカEF』を使った素材は、そんなデザインの邪魔をすることもないし、機能性の高さも維持してくれた」。千葉自身も同パンツの愛用者で、“バーブライトスリムパンツ”を着用して3泊4日の登山を敢行したところ、「細いシルエットに見えるかもしれないが、はくと全くストレスを感じない。伸縮性が高いので動いても突っ張らず、登山靴やブーツにかぶせても、裾が上がってこなかった」という。

サステナブルな
ストレッチファイバー
「ロイカEF」とは?

 旭化成が開発した「ロイカEF」は、工場内で発生する残糸や未出荷品といった、従来は廃棄していた糸を原料として再利用し、新しい糸に生まれ変わらせたサステナブルなストレッチファイバーだ。環境への配慮はもちろん、優れたストレッチ性とキックバック性も兼ね備え、通常のスパンデックスと同様に扱うことができるため、汎用性も高い。国内外のアウトドアメーカーをはじめ、スポーツブランドや環境意識の高いファッションブランドが取り入れ、アウターからインナーまでさまざまなアイテムに採用されている。

女性の体の構造に合わせて、
不便に感じる部分は改善

 「ザ・ノース・フェイス」がシンプルなデザインと機能性を実現させる「ロイカEF」を選んだのには、市場の変化も関係している。現在、“バーブライトパンツ”と“バーブライトスリムパンツ”の購入目的は、アクティビティーとタウンユースでほぼ半々に分かれるという。「コロナ禍でワンマイルウエアと呼ばれるイージーパンツが売れているが、キャンプ人気の後押しでアクティブウエアの売り上げもここ1年半でぐっと伸びている。最近では、キャンプから始まり、ちょっと歩いてみよう、走ってみようと運動を始める人も増えている。そのため当社もアクティビティーと日常生活の境界線を越えて行き来できることを念頭に置き、日帰り登山での本格的な登山ウエアには足踏みしてしまうような方でも手に取りやすいデザインを増やしているところだ」。

 また女性層の増加も顕著で、「コロナ禍で女性客の売り上げも増加している。“バーブライトスリムパンツ”のような、汎用性が高い商品からまずは購入した方が多い印象だ。コロナ禍で初めて『ザ・ノース・フェイス』の製品を買ったという方も増えている。こうした中、企画メンバーの半数は女性なので、女性の体の構造に合わせて自分たちが不便に感じる部分はどんどん改善している。例えば、“バーブライトスリムパンツ”の前ポケットは、ファスナーを下から上に開ける仕様にしている。これは女性の腰骨が出ているため、バックのヒップハーネスを締めたときにファスナーが重なりやすく、長期縦走などをした際にあざになりやすいため、できるだけ重なりが少なくなるように改善した」。

 「ロイカEF」を用いた新商品の可能性については、「『ロイカEF』 を使用した生地の薄さと高い伸縮性は、登山やその他のアウトドアアクティビティー用のウエアにマッチする。全面に使うだけでなく、テクニカルなウエアの袖口や、ディテールなど、アイテムの機能性を向上させるためにポイント使いする可能性も考えられそうだ」と期待した。

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パフォーマンスプロダクツ事業本部 ロイカ事業部 ロイカ営業部 テキスタイル担当
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