ファッション

就任初年度に黒字化を達成 婦人靴の卑弥呼社長が語る、歴史あるブランドの刷新術【ネクストリーダー2021】

 婦人靴のSPA「オリエンタルトラフィック(ORIENTAL TRAFFIC)」をファッションビル中心に出店するダブルエーが、百貨店向け婦人靴メーカーの卑弥呼を傘下に収めたのは2020年5月のこと。そのタイミングで卑弥呼社長に就任したのが新井康代氏だ。ダブルエー最古参メンバーの1人としてその成長を支えてきた新井社長は、卑弥呼社員の声にしっかり耳を傾けつつ、ダブルエーのノウハウを注入。初年度(21年1月期)で黒字化を達成し、その実績から「WWD NEXT LEADERS 2021」に選ばれた。

WWDジャパン(以下、WWD):卑弥呼の2021年1月期の売上高は20億2700万円、純利益は7200万円。就任初年度で黒字化を達成した原動力は何か。

新井康代社長(以下、新井):売れる商品を企画し、在庫の奥行きを持って仕掛けたことで売れ筋を作ることができた。そこに一番手応えを感じている。スニーカーの定着や外出自粛の中でパンプスは全般的に厳しいが、ローファーなどのトレンド商品や、バレエシューズなどソフトな履き心地の商品を増やしたことも実績につながった。とは言え、ベーシックなブラックパンプスの売り上げも悪くはない。仕事用途などでブラックパンプスを探している方には「『卑弥呼』がいい」と思っていただけている。靴はサイズがあるので、ECの在庫を厚くしてオムニチャネル強化を図ったことも奏功した。これは親会社のオリエンタルトラフィックの手法を活用したものだ。20年8月~21年1月のEC売上高は、前年同期比62%増となった。

WWD:新井社長はダブルエーの最古参メンバーの一人だ。

新井:靴デザインを学ぶ専門学校生だったころ、「オリエンタルトラフィック」1号店にアルバイトとして入社し、4~5人だった社員が500人規模に育つのを見てきた。販売、物流、生産などの部門を経験・勉強した上で商品企画全体を担当するようになり、ブランディングを固めていくことができた。その時期に売り上げも大きく伸びたという手応えがある。どんなデザインの商品が、いつ、どれだけ必要なのかが分かるようになったのは、商品企画だけでなくさまざまな部門を担当したからこそ。数字を扱うことがすごく好きだったわけではないが、「どうしてこの商品が売れるのか」「もっと売るにはどうしたらいいか」といったことを分析するのは昔から大好きだ。

大事なのは「一人一人が何を考えているか知ること」

WWD:ダブルエーの肖俊偉社長からは、どういった点を見込まれて卑弥呼社長に抜擢されたと思うか。

新井:ダブルエーでずっと働いてきたことで、会社の“イズム”を理解している点だと思う。ダブルエーは現場で実績を重ねて上がっていくリーダーが多い。店頭アルバイト出身の私もその一人だ。現場を知っているからこそ、店はチームワークによって成り立つということを知っている。自分一人の力で売れるわけではない。ただし、販売員のころから、売り上げに対する思いは人一倍強かったと思う。昨日よりも売りたい、前進したいという思いでやってきた。

WWD:自身はどんなタイプのリーダーか。

新井:あまり前に出たいとは思わないし、社長という自覚も薄い。その方が社員との距離感が縮まっていいと思っている。なるべく社員とはフラットに接したい。調整能力はある方だと思うので、自分は調整型のリーダー。ダブルエーの取締役も兼任しているので毎日卑弥呼とダブルエーの両方に出社しているが、心掛けているのはフロアを歩き回って自分から社員に話しかけること。1人1人がどんなことを考えているのか普段から知っておくことが大切だと思う。その中で業務上の問題点はつかんでいるので、トップダウンで何かを決めることはあっても、無理を通すようなことにはならない。何かやってみてダメな場合も固執はせず、「それならこっち」と切り替えるタイプだ。オフィスのメンバーだけでなく、売り場に行って販売員とも話すし、店頭のマネジャーとも毎日電話などで話している。

WWD:具体的に、社員とはどのようなやり取りをしているのか。

新井:卑弥呼は1973年の創業。歴史があるので、デザインにしろカタログの作り方にしろ、積み上げてきた成功体験や習慣がたくさんある。ただ、それが今の時代に合ってないと感じる場合も多い。「これは今お客さまが求めていることなのか」「業務として当たり前に行われているが、本当に必要なことなのか」と疑問に思うことについては、私自身が卑弥呼を理解するためにも遠慮せずに毎日のように社員に聞いている。もちろん、そこで明確な答えが返ってくるならそれで問題ない。外部から来た私だからこそ気付ける部分もあると思うし、方向性を示すのが私の役目だ。

キャリアアップを恐れず「やってみたらできる」

WWD:ファッション業界はまだまだ女性トップが少ない。

新井:私自身、ここまで上の立場になるとは思ってもいなかったし、自分は社長の器ではないと思っていた。でも、やってみると楽しいことがあって、自分が成長している実感もある。(役職の打診を受けて)もし挑戦するか迷っているなら、やってみたら自分が思っているよりもできるという人は多いと思う。これまでも経験上、女性は(役職などを提示すると)「私なんて無理です」と断るケースが非常に多かったが、実際やってみたらできたというケースがほとんどだ。

WWD:私生活では母親でもある。

新井:ダブルエー社員の中で育休取得者第2号だったと記憶している。ありがたいことに保育園もすんなり決まり、出産後あまり間を置かずに職場に復帰した。働くことを優先したわけだが、これは夫や両親など家族の協力があってこそ。なぜ私が働くのか、働きたいのかを家族にしっかり伝えた。私生活においても、大切なのはやはりみんなの意見を調整していくことだと思う。

WWD:会社と自身の10年後の理想像は。

新井:女性が活躍する時代なので、足元から女性を後押しする会社でありたい。私自身は自信の持てる経営者になれるように、日々実績を積んでいきたい。

WWD:ファッションやビューティの世界で働こうと思っている若い世代に、自身の経験からメッセージを。

新井:私が学生時代に下北沢で「オリエンタルトラフィック」1号店に出合ったときは、「この価格でこういった商品を出す業態は他にない」「絶対伸びる」と感じた。それでアルバイトを始めて今がある。自分がいいと思う業態やブランド、会社で、世の中にまだその価値が伝わっていないと感じるものがあれば、規模を問わず飛び込んでみるのがいいと思う。

【推薦理由】
ダブルエーの成長を支えてきた人なのに、「これをやった」「あれもやった」と実績をひけらかすことがない。「チームワークの成果であって、自分1人の力ではない」という考えだ。ただし、単に控えめというのではなく、心の中に非常に熱いものを持っている。「販売員時代から昨日よりも売りたい、日々前進したいと思ってやってきた」という言葉にそれが表れている。コミュニケーションを大切にし、対話の中で問題点を見付けていくしなやかで柔軟なリーダーだ。硬く尖っている人よりも、こういう人の方が実は強いんじゃないかと思う。

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