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フランス発の人気スニーカー「ヴェジャ」が透明性にこだわるワケ

 フランスのスニーカーブランド「ヴェジャ(VEJA)」は、そのデザイン性の高さから欧米を中心に支持を集めている。創業は2004年。05年にファーストコレクションを発表し、これまでに累計450万足を販売し、現在は英国の有力百貨店セルフリッジ(SELFREDIGES)で最も売れるスニーカーの一つだ。20年春夏には「リック オウエンス(RICK OWENS)」とコラボレートした。人気の理由はミニマルなデザインと気の利いた色遣い、そして環境や人に配慮した“透明”なビジネスでも注目を集めている。

 創業者のフランソワ・ギラン・モリィヨン(Francois Ghislain Morillion)とセバスチャン・コップ(Sebastien Kopp)にはファッション業界でのキャリアはなく、もともとITベンチャーの立ち上げを目指していたというが、なぜ、「ヴェジャ」を始めることになったのか。2人にメールインタビューを行った。

 きっかけは2003年。彼らが25歳のときだった。ファッションブランドの監査で訪れた中国の工場で目にしたものが、彼らの方向性を大きく変えることになる。

「工場は清潔に整えられているのに働く人の顔色は悪く、疲れた様子だった。工場長に居住スペースを見せてほしいと交渉して見せてもらうと、25平方メートルほどの部屋に5段ベッドが置かれ、一部屋に32人が折り重なるように寝泊まりしていた。部屋の中央には穴が一つ空いていて、そこが彼らのシャワーとトイレだった。グローバリゼーションが世界を悪い方向に向かわせているのではないか、何かがひどく間違っているのではないかないかと感じた。私たちが着ている多くは彼らが作った服……」。彼らが“ヴェジャストーリー”として語っている。生産者と消費者が公平な関係を保つ仕組みの中でモノ作りをしたいと考えるようになった。

 スニーカーを選んだのは「私たち世代の消耗品の象徴だったから」だ。“VEJA”とはポルトガル語で“見る”という意味だが、自分たちの課題を「透明性の限界を押し上げ、革新的な素材を見つけること」として、環境汚染を減らすためのモノ作りや生産者の労働環境に注意しながら日々取り組んでいるという。「私たちが伝えたいのはスニーカーを通じてその背景まで見ることだ」。

 「ヴェジャ」の生産拠点はブラジルにある。中国を訪れたのと同時期に訪れたブラジルの生産者の労働環境は守られていたし、同地には原料の天然ゴムやオーガニックコットンがあった。原料調達と物流は、就労困難な失業者の社会復帰を支援するNGOと共同で運営管理している。

「地球と人に敬意を表するスニーカー」

 「地球と人に敬意を表するスニーカーを作りたかった」。まずはスニーカーを分解して何が原料かを自問し、それを段階的に替えることから始めた。「ブラジルにはゴムの木と共存しながら生ゴムを作っている採取人がいて、隣国のペルーも含めてコットンの自然栽培に取り組む生産者がいた」。そうした生産者と直接取引を行い、原材料から店舗までのサプライチェーンを既存のものとは異なるものに変えていった。結果的に無駄な経費を削減して生産者たちへの支払い額も増やすことができた。

 ゼロベースだからこそシンプルでエシカルなサプライチェーンを築けたといえるかもしれないが、それでも人と環境に配慮したサプライチェーンを築くのは相当大変だったはずだ。「現場に行き、生産者や団体、NGOなどで一緒に働いている人と会うことが大切だ。そして製造のすべてを追跡できれば問題はない」。工場から数キロのところに従業員30人のオフィスがある。「彼らは農家を訪れてアドバイスするし、工場にも『ヴェジャ』のスタッフがいて毎日欠かすことなく労働状況を確認している。オフィスには素材開発を行うスタッフもいる。時間はかかるし大変だが、それだけの価値はある。現地に足を踏み入れることこそがわれわれの透明性と持続可能性を保つ秘訣だ」。

 18年からは公式サイト上に生産者との契約や化学テストの結果、その年に購入したオーガニックコットンの価格など多くの情報を開示している。
素材は天然ゴムや自然栽培のコットンに加え、再生ペットボトル(スニーカーのアッパーなど)、トウゴマ油(同ヒールサポートインサート)、バナナ油やサトウキビを配合したミッドソール、クロムフリーで水利用に配慮したレザーなどを用いている。100%配合のものからそうでないものまでさまざまだが、環境に配慮した素材とは何かを日々問いながら開発している。

 彼らは、サプライチェーンの透明化はもちろん、企業としての透明化にも取り組む。メインバンクを、脱税天国と呼ばれる国に支店を持たない銀行に変更し、電力は再生可能エネルギーを供給する会社を選択している。また、09年からは「(課題などの)会社のマイナスなこと」も公式サイトで公開し、透明性を追求する。

 「スニーカーは経済レベルでも最も興味深い製品の一つだ」という。その理由は「経費の大半が広告費だからね。大手メーカーでは7割が広告費で、3割が原材料と生産に費やされている。私たちはそうした広告やコミュニケーションの予算を削減することによって有機原料、生産、従業員、農家に投資する。私たちのスニーカーの価格は、(従来の常識に従えば)競合他社の5~7倍だが、広告活動を行っていないから大手ブランドと同等の価格で販売している。広告費用をなくすことで競合他社よりも小さいマージンで十分に収益性を高めている」。

 「ヴェジャ」は前述したように徹底して環境と人に配慮しながら“透明性”の高いビジネスをしているが、人気ブランドになった理由はそのデザイン性が大きい。「人々を教育するのではなく、自らが必要だと感じたら(私たちが公式サイトで公開しているプロジェクトなどの)情報を検索してもらいたいと思っている。私たちは人々や他のブランドを批判する立場にはない。私たちは“変われること”を示すために最善を尽くすのみだ」。