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初開催の「Future Frequencies Festival」をリポート ジョイ・オービソンやノウワー、セイバーズ・オブ・パラダイスなどが出演 確かな個性と可能性を示す

高輪ゲートウェイ駅に直結した新施設「MoN Takanawa」を舞台に、7月11日と12日の2日間、新しいフェスティバルが誕生した。その名も「Future Frequencies Festival(フューチャー・フリークエンシーズ・フェスティバル)」(以下、「FFF」)。仕掛けたのは、世界で活躍するメディアアーティスト/音楽家の真鍋大度と、長年にわたり国内外の先鋭的な音楽を紹介しつづけてきた「ビートインク(beatink)」だ。DJあり、ライブあり、アーティストのトークセッションあり、パネルディスカッションあり、映像上映あり――掲げられたテーマの通り、音楽/アート/テクノロジーを横断するプログラムが展開された。

会場の使い方も贅沢だった。地下1階から地下3階までを貫く1000人収容のメイン会場「Box1000」、2階の300人規模の「Box300」、4階の畳敷きの空間「Tatami」を中心に、チルアウトスペースや飲食エリア、足湯テラス、屋上庭園まで、施設のほぼ全体が開放された。本稿では「Box1000」のパフォーマンスを中心に、「Box300」の模様も交えつつ、この2日間を振り返りたい。

Day1

Keigo Yoshida

初日の「Box1000」は、Keigo Yoshidaのパフォーマンスで幕を開けた。真鍋大度が経済産業省と共同主催した若手育成プログラム「Flying Tokyo 2024」に採択され、ソナーなどにも出演している気鋭のアーティストである。モノクロームの照明が明滅する中、金属質なアンビエンスが広大な空間を満たしていく。その響きはノイジーでありながら、陶酔的で心地よい。サウンドは流動的に姿を変え、強烈なサブベースや激しいビートが割り込むと、フロアがカオティックな高揚に呑み込まれる瞬間もあった。

ロレイン・ジェイムス

続いてはロレイン・ジェイムス(Loraine James)。メランコリックなシンセサウンドと、IDM譲りの複雑なビートを接合させる作風で知られるアーティストだ。前半は、最新作「Detached From The Rest Of You」のムードをそのまま体現するような、意識の深いところへと沈み込んでいくディープな音世界。緻密に組み上げられたビートは複雑性を帯びながら、どこか白昼夢のなかで鳴り響いているようでもある。しかし、セットが進むにつれて音はじわじわと攻撃性を増していく。ビートが複雑骨折したかのように、激しい音を立てながら予想外の方向へ折れ曲がるたび、フロアの観客も必死に食らいつくように身体を揺らす。最後は再びボーカルトラックへと着地し、美しい円環を描いてみせた。

ノサッジ・シング × 真鍋大度

次にステージへ上がったのは、長年にわたってタッグを組み、オーディオビジュアルライブを展開してきたノサッジ・シング×真鍋大度(Nosaj Thing x Daito Manabe)。ステージ中央で向かい合いながら機材を操作する2人の姿は、それだけでも絵になる。硬質かつタイトに引き締まった音像のなかで、テクノ、ブレイクビーツ、ビートミュージックなどを横断するトラックが変幻自在に繰り出される。映像にはCGグラフィックやコンテンポラリーダンスを思わせるイメージも使われていたが、なにより刺激的だったのは、パフォーマンスする2人をカメラで捉え、その映像をリアルタイムで加工していく演出だ。ステージ前面を覆う巨大なLEDスクリーンは「Box1000」の大きな特徴だが、画面いっぱいに映像を広げたかと思えば、あえて小さな領域に凝縮するなど、その使い方にも大胆な緩急がある。音と映像が一体となっているだけでなく、映像そのものからも即興性とライブ感が伝わってくる。音と映像の融合という点では、2日間を通して飛び抜けた完成度のパフォーマンスだった。

原摩利彦

ここで後ろ髪を引かれながらも、ステージを途中で離れて「Box300」へと移動。原摩利彦の演奏を途中から観る。フロアに入ると、光を反射してきらめく水面のような、幻想的なアンビエンスとフィールドレコーディングの音が広がっていた。やがてビートの輪郭が強まると、サウンドはインダストリアルで不穏な表情へと変貌する。かと思えば、フィールドレコーディングと静謐なピアノが溶け合う、原らしい繊細な音世界も聴かれた。観られた時間は短かったものの、その限られた時間の中でも、多彩な表情と精緻な美しさが詰まっていた。

セイバーズ・オブ・パラダイス

再び「Box1000」に戻ると、再結成を果たした90年代の伝説的ユニット、セイバーズ・オブ・パラダイス(The Sabres Of Paradise)のライブが始まる。ダークで妖しげなイントロに導かれ、フロアは瞬く間にダビーな暗闇へと引きずり込まれていく。ニューオリンズジャズがダブレゲエへと転生したかのような、「Willmott」の勇壮で妖しい響き。ホラー映画のサウンドトラックを思わせる「Duke of Earlsfield」では、印象的なキーボードのフレーズが生で演奏され、会場を大いに沸かせた。現代の先端を走るアーティストが集結した「FFF」において、彼らはある意味、異端とも言えるオールドスクールな存在だ。なにしろその音はラップトップ一台で完結するような作りではなく、太く重たいアナログの響きが空間を震わせるのである。だが、これは90年代における未来志向のUKクラブサウンドであり、彼らが切り開いた地平の先にロレイン・ジェイムスやジョイ・オービソン(Joy Orbison)もいる。歴史の連なりを一晩で体感できるのも、また贅沢な話だろう。終盤はサイケデリックなアシッドハウス「Still Fighting」を経て、感動的な名曲「Smokebelch II」のリミックスへ。「Smokebelch II」が鳴り響く中、背後のスクリーンに映し出されたのは、ユニットの中心人物だった故アンドリュー・ウェザオールの姿だった。盟友へのドラマティックな追悼を捧げ、約30年ぶりの復活ライブは美しく幕を閉じた。

ジョイ・オービソン

初日の最後を飾ったのは、ヘッドライナーのジョイ・オービソン。セイバーズ・オブ・パラダイスの終演から間髪を入れずに始まったDJセットは、UKガラージ、テクノ、ベースミュージックを自在に横断していく。BPM130前後からスタートするアップリフティングな内容でありながら、前半は適度に抑制が利いていて、クールでスタイリッシュな印象を与える。中盤に入ると選曲の幅はさらに広がり、セットの起伏も大きくなっていく。BPM130台を保ちながら、低音に合わせれば半分のテンポでも身体を揺らせるベースミュージックを挟み、ハードコアなヒップホップバンド、デス・グリップスの「Guillotine」までも投下するのだから恐れ入る。ジャンルの境界を飛び越えているうちに、気づけばテンポはBPM140近くまで上昇していた。終盤は自身のフロアアンセム「flight fm」を筆頭に、フレッド・アゲインが同曲とリル・ヨッティの「Flex Up」を組み合わせたマッシュアップ「flex fm(freddit)」、オーヴァーモノ、クウェンフェイスとのコラボ曲「freedom 2」といった人気曲を続けざまに繰り出し、フロアの熱気を極限まで引き上げる。そして最後に選ばれた一曲こそ、デビュー曲にして永遠のアンセム「Hyph Mngo」だった。あのソウルフルな旋律が会場を満たし、初日のフィナーレを感動的に彩る。現在のUKベースミュージックを代表する存在として、数々の大舞台を熱狂させてきたオービソンが、ジャンルを横断する大胆な選曲、緻密に計算された構成、そして大きな空間を掌握する確かな手腕を改めて見せつけたセットだった。

Day2

長谷川白紙


2日目の「Box1000」の幕開けは長谷川白紙。これまで発表してきた楽曲を大胆に解体し、ほとんどハードコアやデスメタルにも接近するほど強烈なサウンドへと再構築してみせる。過剰で暴力的な音の奔流にときおりジャジーなフレーズが差し込まれ、エフェクトによってアンドロジナスな質感を帯びたボーカルがその上を舞う。カオスの濁流に呑み込まれ、酩酊しかけたところへ降り注ぐ、奇妙なほどポップな歌。この鮮烈なコントラストのまま45分間を一気に駆け抜け、最後は「終わり!」というひと言で演奏をぴたりと止めた。濃霧が突然晴れ、現実へ引き戻されたような感覚を残す、見事な幕切れだった。

松丸契

続いて「Box300」へ移動し、松丸契のステージを観る。フロアに足を踏み入れると、「ソロのサックス奏者」という言葉からはおよそ想像がつかない、不穏なノイズが場内を満たしている。よく見ると、サックスを抱える松丸の前には無数のエフェクターが並んでいる。サックスから発した音をリアルタイムで加工し、幾重にもループさせながら、演奏全体を組み上げているようだ。そこでは、にわかにはサックスの音とは判別できない響きがいくつも重なり、ノイズの反復からリズムまでも生み出されていく。ノイズ、アヴァンギャルド、フリージャズといった既存の概念だけでは、とても捉えきれない。サックスという楽器に人々が持つ固定観念に揺さぶりをかけるような、刺激的なパフォーマンスだった。

カッサ・オーヴァーオール

再び「Box1000」に戻ると、カッサ・オーヴァーオール(Kassa Overall)の演奏が始まっていた。編成はキーボード、ベース、サックス兼マルチ奏者、そしてドラムを叩くカッサの4人。ドラムセットはステージ中央の最前方に置かれ、カッサこそがこのバンドの中心であることを視覚的にもはっきりと示している。長谷川白紙、松丸契と前衛的なパフォーマンスを続けて観たあとだけに、オーセンティックなジャズの系譜も感じさせるカッサの演奏は、ある種の安心感さえある。バンドの音はしなやかで、コクがあり、どこまでもシルキー。ゆったりと流れるグルーヴに、心地よく身を委ねることができた。もちろん、この音楽にはヒップホップ以降の感性が深く血肉化されている。これ見よがしに現代性を主張する意匠こそないが、その演奏は瑞々しく響く。終盤には、ヒップホップの名曲をジャズの語彙で再解釈した最新作「CREAM」から、ア・トライブ・コールド・クエストの「Check The Rhime」、ディゲブル・プラネッツの「Rebirth of Slick(Cool Like Dat)」を披露。演奏は一気に熱を帯び、それに呼応するようにオーディエンスからは大きな歓声が上がった。穏やかなグルーヴから高揚へと、鮮やかに導いてみせた美しいフィナーレだった。

ノウワー

そして2日目の最後を飾ったのは、ヘッドライナーのノウワー(Knower)である。ミラーボールのように輝く銀色の衣装をまとい、コケティッシュな声で徹底的にキャッチーなメロディを歌うジェネヴィーヴ・アルターディの姿は、ほとんどアイドルポップのようにも見える。だが、ドラム、ベース、ギター、2台のキーボードから繰り出されるのは、異様なまでに卓越した個々の演奏と高度なアンサンブルなのだ。この奇妙なコントラストこそが、ノウワーの魅力にほかならない。中でも圧巻なのはルイス・コールのドラムである。正確無比かつ高速でありながら、一打一打はボクサーの拳のように重く力強い。そのプレイがアンサンブルの重心となり、各メンバーの卓越した技量を存分に引き出していく。演奏は極めて複雑で高度だが、決して高尚ぶることはなく、あくまでポップ。そのいびつで奇妙な佇まいは、背後のスクリーンに流れ続ける宇宙空間のような映像とも相まって、遠い惑星から届いた異世界のポップミュージックのように響いていた。

2日間を終えて

初日はテクノやハウスをはじめとするクラブミュージック、2日目は現行ジャズを中心に、それぞれ明確な軸を設けながら、現在のシーンを切り開くアーティストたちを凝縮して提示した「FFF」。音楽だけでなく、映像演出やトークセッションまで含めてフェスティバルの個性を打ち出した点にも、このイベントならではの意義があった。円安の影響や海外フェスとの出演者獲得競争によって、大型フェスのブッキングが年々難しくなる中で、「FFF」のような中規模でキャラクターの明確なフェスティバルの価値は、今後ますます高まっていくに違いない。初開催にして既に確かな個性と可能性を示し、終了直後には来年の開催が早くも発表された。回を重ねながらさらに磨きをかけ、長く定着するフェスとなることを期待したい。

PHOTOS:HIRONORI SAKUNAGA

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