結婚式の形式や価値観は多様化し、花嫁の要望も細分化する中、ブライダルヘアメイクの現場では、会場、衣装、装花、写真映え、家族からの印象まで含めた総合的な提案力が重要になっている。サロンワークを軸にしながらブライダルヘアメイクにも携わる、東京・表参道と中目黒のヘアサロン「うね(une)」「ほうね(houne)」のオーナー・英香さんに、今の花嫁像と現場で求められる技術について聞いた。
PROFILE: 英香/ヘアスタイリスト

「盛りたい」より「いつもの自分に近く」
WWD:ここ数年で花嫁のヘアメイクのオーダーに変化はある?
英香ヘアスタイリスト(以下、英香):かなりナチュラル寄りになっていると思います。むしろ参列のヘアセットの方がデコラティブなこともあるくらい。ブライダルのお客さまは「あまりやられたくない」という方が多い印象です。アイラインもしっかり引きすぎると古く見えてしまうことがあるので、「あまり引かないでほしい」「いつもの自分に少し足すくらいがいい」という方が多いです。
もちろん、お客さまやサロンによって違いますからかけ離れた自分になりたい方もいると思う。でも、うちに来る方は「いつもの自分に少しプラス」くらいの感覚が多いです。メイクもこてこてにしたくない。肌もテカテカの艶ではなくソフトマットに少し艶が混ざっているような質感を求める方が多いですね。
WWD:ナチュラルでありながら特別感も欲しい。
英香:花嫁さんはやはりきれいでいたいし、かわいくいたい。当日に向けて食事管理やボディメンテナンスを徹底する方もいますし、そのまま出る方もいますが、皆さんやはり当日は特別でいたい気持ちはあると思います。
私は別人にするのではなく、その人のまま、ちゃんと特別にすることを意識しています。ボディーにラメをのせたり、マッサージをしたり、「今日は何もしなくていいですよ、お姫さまなので」というような形で、1番の主役として扱う。そういった気持ちの部分も大事にしています。
今っぽい「ひと癖」の作り方
WWD:今求められる“今っぽさ”はどういう部分にある?
英香:うちのお客さまに関しては、ラブリーすぎるものよりナチュラルだけど少し違うバランスを求めている気がします。「ひと癖ほしい」と言われることが多いです。でも、ひと癖って難しいですよね。言葉だけではわからないのでかなりカウンセリングに時間をかけています。
会場づくりはどうするのか。装花は何色なのか。ガーデンならアイシャドウに少しグリーンを入れてもいいし、ミントグリーンやコーラルで会場をつくる方ならメイクにもその空気を少し拾う。同じ会場でも装花や装飾で全く違う会場に見えるんです。だから先に「会場づくりはどうしますか」と聞くことが多いです。
WWD:「やりたいこと」だけでなく、「やられたくないこと」も聞く。
英香:NGはかなり聞きます。前髪を上げるのが嫌、ここの後れ毛は絶対に欲しい、ひっつめは嫌、黒のアイラインはNG、まつ毛を上げすぎたくない、など。 頼んでくれている時点である程度の信頼関係はありますが、やられたくないことを聞いておかないと不安が残ります。特に目元はこだわりが強い方が多い印象です。
「お任せ」と言う方も、何もないわけではありません。柔らかく見せたいのか、ピシッと見せたいのか。抽象的な方向性は必ずあるので、それをすくい上げて過去のアーカイブを見せたり図に描いたりしながら形にしていきます。
“自分らしさ”は段階に合わせて
WWD:その人らしさを引き出すうえで、結婚式ならではの難しさは?
英香:結婚式は本人たちのものですが、当日はご家族やご親族も一緒に過ごす場です。相手のご家族もいますし、ご両家が見る場でもある。だから、最初のスタイルでは本人らしさを大切にしながらも、誰が見ても「きれい」「かわいい」と思えるバランスを意識することがあります。ご両家から見て「この人と結婚できてよかったね」と思ってもらえるような多幸感のある仕上がりに、少しだけ本人らしさを入れています。
そのうえで、2パターン目、3パターン目に向けて、少しずつ趣味や遊びを足していくことがあります。最初から振り切るより、時間の流れに合わせて変化をつけた方がその人らしさが自然に見えることもあるので。もちろん、最初から飛ばしたい方は飛ばします。お客さまの式なので。ただ、一応「ご家族の会でもありますよ」ということは意識しています。
WWD:本人の好みだけで決めきれないこともある。
英香:そうですね。本人の好み、相手の家族、会場、衣装、写真、全部を考慮します。たとえば、タトゥーを相手のご家族に言っていないので隠したいという方もいます。ボディーペイントで消したり、汗で取れないように途中で直す時間を取ったり。ブライダルは本人が「こうしたい」と思う気持ちを大事にしながら、当日を皆で気持ちよく過ごせるように整えていく仕事でもあると思います。
結婚式の多様化とヘアメイクの変化
WWD:昨今はフォトウエディングを選択する人も多い印象だ。
英香:フォトウェディングの方が自由度は高いです。親族がいないことも多いので、本人たちの趣味嗜好がぎゅっと出やすい。博物館で撮りたい、浅草で撮りたい、よくデートしていた場所を巡りたい、といった方もいます。
そもそも背景がウェディング会場ではないので、ヘアメイクももう少しラフにできます。「いつも通りのダウンスタイルに、ベールだけつけたい」という方もいますし、デニムを合わせるようなスタイルもフォトなら成立しやすい。フォトウェディングと結婚式場は同じブライダルでも別ジャンルに近い感覚があります。
WWD:結婚式そのものの形も変わっていますか。
英香:変わっていると思います。最近は必ずしもケーキ入刀をしない方もいますし、両親への手紙を出席者の前で読まないケースもあります。ただ、ウェディング業界は変わりつつもまだ古い部分もある。より自由に選択できてお客様が満足できるスタイルが浸透したらいいなと思います。
「信頼している人に頼みたい」
広がる持ち込みヘアメイクの相談
WWD:会場提携ではなく、ヘアメイクは自分が信頼している人に頼みたい人も増えている?
英香:増えていると思います。ただ、持ち込みには料金がかかることが多いです。ヘアメイクの持ち込みでプラス5万円、カメラマンでプラス5万円、場合によっては持ち込み自体が難しい会場もあります。
「本当はお願いしたいけれど会場がダメだった」と相談されることもあります。その時は「無理に私にしてください」とは言いません。会場をメインで選びたいのか、自分のヘアメイクを優先したいのか。お客さまの選択に委ねます。
WWD:ヘアメイクの相談を超えて結婚式全体の相談にまで及ぶこともある?
英香:あります。一度対面していただいた方であれば基本的にはお受けしており、ウェディング相談プランという1時間しっかりと相談するメニューを取ってもらっています。その後も、DMやLINEでこまめにコミュニケーションをとっています。お花はどこで用意したらいいか、プランナーをつけるのか、当日は同行するのか、サロンで仕上げて送り出すのか。プランナーをつけていない方もいる中で、自分1人ではわからないことが想定以上に出てくるんです。ヘアメイクだけではなく、当日まで密に連携をとって不安がない形で当日を迎えられるようにしています。
15分、20分で印象を変える
ブライダルならではの事前準備
WWD:ブライダルの現場で、技術的に特殊だと感じるところはありますか。
英香:時間ですね。1パターン目は1時間以上取れることもありますが、2パターン目は15分、20分の世界です。ヘアもメイクもトータルでその時間内に変えないといけない。だから、事前準備がとても大事です。私はつけ毛やウィッグ、装飾を事前に制作することが多いです。ボブの方に三つ編みのウィッグをつけて、装飾をつけて、ガラッと雰囲気を変える。事前に作っていけば時短にもなります。
WWD:ナチュラル志向でも、チェンジでは変化が欲しい。
英香:ナチュラルだけれど、チェンジではガラッと変えたい方もいます。同行する場合は、その場でかなり変えられますし、髪を切る方もいます。ただ、会場によっては切るのがNGだったり、床が汚れるのがNGだったりします。フォトの場合は、スタジオに確認してシートを敷き、掃除する前提でできることもありますが、結婚式場では難しいことも多いです。会場によっては、専属カメラマン以外は撮れない、スマホ撮影NGという場所もあります。本当に、会場によって必要な対応が大きく変わります。
WWD:美容師がブライダルに入るなら技術だけでは足りない。
英香:慣れていない美容師さんが単発で入ると、会場側に「流れがわかっていない」と思われることもあります。これからブライダルをやりたいなら、最初はアシスタントとして入ることをおすすめします。技術だけではなく、現場の空気や流れを知ることが大事です。
近くにいるからこそ、距離感を大切に
WWD:花嫁にとってヘアメイクはどんな存在だと思いますか。
英香:一番近い存在だと思います。お水を出したり、暑くないか聞いたり、撮影中に大丈夫か声をかけたり。「可愛いですよ」「大丈夫ですよ」と伝えることも安心につながります。
ブライダルに限らず、ヘアメイクって技術だけではなく精神的な安心感を与える仕事でもあると思います。緊張している方も多いので、そばにいる人がどういう空気を出すかは大事です。
WWD:距離感で意識していることはありますか。
英香:親密になりすぎないことです。昔から来てくれているお客様でも基本的には敬語です。もちろん、すごく長い付き合いで友達のような距離感になっている方もいますが、基本的には仕事として依頼していただいているので。フランクに盛り上げるスタイルのスタッフもいますし、それはその人の良さだと思います。でも私はある程度の礼儀と距離感を大事にしたい。親密だけれど、崩しすぎない。そこが安心感につながると思っています。
WWD:ブライダルのヘアメイク現場で印象に残っている場面はありますか。
英香:ほとんどは感動して涙をこらえるのが大変です。最近は、披露宴中に手紙を読むのではなく、式が始まる前にご両親と顔合わせをして、そこで手紙を読むことがあります。花嫁さんが綺麗な状態で育ててくれたご両親に手紙を読む。その後ろに泣いたら直せるように立っているんです。
ご両親も泣いているし、花嫁さんも泣いている。こちらも泣きそうになります。でも、泣いてしまうと仕事ではなくなってしまう。そっちに気を取られてしまうので、なるべく泣かないようにしています。感動にもっていかれすぎずに、邪魔しないように支える。それも仕事だと思っています。
◼︎「うね(une)」
時間:火曜〜金曜 11:00〜20:00/ 土曜 10:00〜20:00/ 日曜、祝日 10:00〜19:00
住所:東京都港区南青山4-11-14 3F
インスタグラム:@une.houne
◼︎「ほうね(HOUNE)」
時間:火曜〜金曜 11:00〜20:00/ 土曜 10:00〜20:00/ 日曜、祝日 10:00〜19:00
住所:東京都目黒区上目黒3-10-8 1F
インスタグラム:@une.houne