
気候変動による気温や湿気の上昇、急な雨といった現象は、生活者の美容行動に着実な変化をもたらしている。「自宅で整える」「自宅から持っていく」といった“当たり前”から「外出先で立て直す」という認識への変化を捉え、そこに商機を見い出したヘアアイロンや日傘、パウダールームといったシェアサービスが着実に支持を集めている。
髪の乱れを外出先で直す
「リキュート」
代表的なサービスが、ヘアアイロンのシェアリングサービス「リキュート(ReCute)」だ。同サービスはNTTドコモグループの新規事業創出プログラム「docomo STARTUP」から生まれ、2024年7月にスピンアウトした。商業施設やオフィスビル、駅構内、イベント会場などの化粧室にヘアアイロンの貸出スポットを設置し、利用者は専用アプリでレンタルする。ポータブルヘアアイロンを持ち歩く負担や、メイクラウンジまで移動する手間を解消するサービスとして始まった。利用料金は都度払いが10分385円で、以降1分ごとに33円。月額プランは1650円で、1回15分まで何度でも利用できる。
26年5月時点で、アプリ累計ダウンロード数は10万を突破した。渋谷ヒカリエ、ルミネ有楽町、東急プラザ渋谷、ルクア大阪などに130台以上を設置しており、商業施設にとってはパウダールームの付加価値化や来館動機の創出にもつながっている。
雨傘から日傘へ広がる
「アイカサ」
傘のシェアリングサービス「アイカサ」も、雨対策から暑熱対策へと役割を広げている。運営するNature Innovation Groupは、18年12月にサービス提供を開始した。急な雨のたびにビニール傘を購入する行動を減らし、「雨の日を快適にハッピーに」「使い捨て傘をゼロに」することを掲げてきた。26年7月時点で、アプリ会員数は92万人超、展開エリアは12都道府県、スポット数は2500カ所以上に広がっている。料金は都度利用で1時間未満140円から、24時間未満は210円。
近年は、晴雨兼用傘のシェアリングにも乗り出した。25年7月には、首都圏の鉄道事業者などと連携し、日傘シェアリングプロジェクト「クールムーブトーキョー(COOL MOVE TOKYO)」として、晴雨兼用折りたたみ傘「アイカサmini」を山手線全駅ほか都内約150カ所に展開した。規模は3000本に上る。さらに26年7月には、関西の鉄道事業者8社などと連携した「クールムーブオオサカ(COOL MOVE OSAKA)」を始動し、関西圏の約270駅で1130本の日傘シェアを展開する。日傘は紫外線対策や美容小物にとどまらず、熱中症対策や都市の暑熱適応の手段にもなっている。
外出先で“整え直す”場も
「フリモア」
外出先で身だしなみを整える場も増えている。成人式振袖レンタルなどを手掛ける「ふりそでMODE」を展開するウェディングボックスホールディングスは、2022年12月に学生限定の無料メイクアップルーム「フリモア(FURI MORE)」を開始した。会員登録により、1回30分までメイクルームやヘアアイロンなどを利用でき、ヘアアイロンやヘアスプレーなども無料でレンタルできる。気候変動を直接打ち出しているわけではないが、外出先で髪やメイクを“整え直す”場として、同じ潮流にあるサービスと捉えられる。
コンビニも身支度の拠点に
「ラブン」
さらに、美容インフラはコンビニにも広がり始めた。セブン‐イレブン・ジャパンは2025年12月から、一部店舗でパウダースペース「ラブン(loven)」を開始した。2026年2月発表時点で、九段南大妻通り店、町田玉川学園5丁目店、深草西浦5丁目店の3店舗に設置している。利用料は無料で、調光付きライトミラーをそろえ、スペース内には有料のヘアアイロンレンタルスポット「リキュート」も設置している。
猛暑や湿気、急な雨は、美容サービスの提供場所と使われ方に変化を及ぼし始めている。これまで個人が持ち歩いて対応してきたものを必要な時に必要な場所で借りる。髪、肌、メイク、暑熱対策を横断する“シェア美容”は、都市生活の不便を受け止める新たなサービス領域になりつつある。気候が厳しさを増すほど、この領域で新たなサービスが生まれる余地は広がりそうだ。