ファッション

日傘はセカンドスキン!?「繊維×ビューティ」で創造する新市場

猛暑の常態化によって、紫外線や暑熱から身体を守るアイテムの需要が急速に拡大している。とりわけ象徴的なのが日傘市場だ。かつては女性のファッション小物という位置付けだったが、近年は男性や子どもにも利用が広がり、「命を守るツール」としての認識が強まっている。一方でビューティ分野では、紫外線や大気汚染など環境要因が肌老化を引き起こすという「エクスポソーム(外的環境因子)」という概念が広がり、肌を取り巻く環境そのものを整えるアプローチが注目されている。繊維のリーディングカンパニーである東レでテキスタイル開発と生産を担うスペシャリストである喜多川恒光・東レ 繊維加工技術部 主席部員と吉光佐織テキスタイル・機能資材開発センター 第2開発室 室長の2人と、スキンケア成分ハンターである竹岡篤史ゼログラヴィティ主席顧問のスペシャル対談が実現。「繊維×ビューティ」による「サマーテック」の可能性について語り合った。

日傘市場が急拡大
猛暑対策は「オシャレ」から「インフラ」に

WWD:「長い夏・暑い夏」は、ファッションとビューティでどのような影響を?

喜多川恒光・東レ 繊維加工技術部 主席部員(以下、喜多川):象徴的なのが日傘市場の変化だ。以前は女性のファッションアイテムという側面が強かったが、ここ数年で完全に「身を守るための必需品」へと変わった。実際、日傘市場は猛烈な勢いで拡大しており、雨が降れば傘を差すのと同じ感覚で女性から男性、子どもまで、「日差しが強ければ日傘を使う」という行動が広がっている。

吉光佐織/東レ テキスタイル・機能資材開発センター 第2開発室 室長(以下、吉光):日傘素材のトップブランドである「サマーシールド」は10年前に、高機能ウエア向けのテキスタイル開発で培ったラミネート技術を応用して生まれた。特殊な3層構造により、紫外線、赤外線、可視光線を効率よくカットする。「サマーシールド」以前の日傘は、レースなどを用いたフェミニンでファッション性を重視したものか、あるいはUVカットを目的とした黒色の機能特化型のどちらかに偏っていた。「サマーシールド」では、3層それぞれが異なる光を分担して制御する構造を採用し、遮光性を保ちながら、デザインの自由度を大きく広げた。中でも特徴的な点は、中層に光を反射する「白い層」を挟み込む構造だ。これにより裏面は遮光に有利な「黒い層」を保ちつつ、表面には白や鮮やかな色、自由なデザインを施すことが可能になった。かつての「高機能日傘=黒」という常識を覆し、機能とファッション性を両立できた点は大きい。この「サマーシールド」の存在が、最近の「猛暑」を背景に、日傘市場の急激な成長を後押していると自負している。

東レ「サマーシールド」は
炎天下比だとマイナス20℃という衝撃(注)

WWD:温度低減効果などで評価されることが多い日傘だが、美容の観点からの評価は?

竹岡篤史スキンケア成分ハンター ゼログラヴィティ主席顧問(以下、竹岡):私が関わっている美容・医療の世界でも、ここ数年で「エクスポソーム(外的環境因子)」という概念が非常に重視されるようになってきた。これは紫外線、大気汚染、温度、ストレスなど、肌に影響を与える外的環境因子全体を指す。中でも、紫外線の影響は圧倒的で顔の見た目の老化サインの約80%はUV曝露が関与するとされている。つまり肌老化の主要因は私達が日々コントロールできる外的要因にある。だからこそ、今は「トラブルが起きてから対処する」のではなく、太陽光や熱を未然にマネジメントするという考え方が重要になってきている。「サマーシールド」は、具体的にどういった機能があるのでしょう?

吉光:直射日光を模した人工気象室での遮熱試験では、気温32度だと何も遮るものがないと頭頂部の温度は30分で59度まで上昇するが、「サマーシールド」で覆うと39度にとどまる(注)

竹岡:なるほど!美容的には皮膚温度が4度上がるとメラニンが強制誘導され、シミやシワの原因になるというデータがあるため、美容業界に当てはめると大きなインパクトがある。肌美容の観点だと、紫外線量の多い夏に日光を顔に当てないというのは重要で、顔全体をカバーできる日傘は、かなり有効なのではないか。また、ある企業の研究では、遮熱は脳が感じる「ストレス」も軽減できるというデータもある。今の話を聞いて、衣服を生体の機能を保護して補完してもともとある性質を強化する「セカンドスキン(第2の皮膚)」として捉えたら面白いのではないか、と感じた。そもそも肌も単なる壁ではなく、生体の中と外をうまくつなぎ、外部とコミュニケーションする役割がある。

喜多川:それは面白い。これまで当社をはじめとした繊維メーカーは、機能やスペックを競うようなところがあった。ただ技術や機能を競う開発はいまや行き着くところまで行って限界を感じる部分もある。体を覆う衣服やテキスタイルを、「セカンドスキン」と捉え、発想の角度を変えることで、新たな商品開発につながる可能性は高い。実際、最近の当社のヒット素材の中で、画期的な「汗じみ防止」というものがあるが、これはもともと全く別の用途や機能のために開発していたテキスタイルがたまたま「汗じみ」という観点で見直してみたら、画期的なレベルでの効果を発見したという例だった。

注:試験内容:集会用テントを想定し、試験開始5分経過時より30分間人工太陽を照射。頭部温度変化を測定。
測定場所:東レ 瀬田工場内人工気象室・テクノラマ® 測定条件:32℃×60%RH。
本試験は2013年当時に実施されたものであり、現在では試験手法が当時と異なっている。

「セカンドスキン」という視点導入で、
広がるテキスタイル開発

WWD:例えば「セカンドスキン」という観点にすることで、何が変わるのか?

竹岡:肌バリアという観点だと、汗の塩分を防いだり、皮膚表面のpHバランスを整えるというのは重要だ。肌にとって理想的な湿度や乾燥の速度などの表面環境をコントロールするテキスタイルを開発できれば、それはいわば「着るスキンケア」のような役割になる。ほかにもニキビができにくいマスク、肌バリア機能が未発達な赤ちゃんのためのベビー服など、応用範囲は無限にありそう。

吉光:テキスタイルの機能素材は、「吸水速乾」「透湿防水」のように、性能を数値で示し、どこまで高められるかが重視されてきた。また、身体と衣服の間の「衣服内環境」も快適といわれる範囲を満たしているかどうかが主な評価軸だった。以前に「サマーシールド」のUPF(紫外線保護指数)を計測した際も、数値面ではすでに十分すぎるレベルに到達していた。ただ、それでも「肌にとっての理想的な環境」、あるいは「着るスキンケア」といった用途や環境を設定した上でテキスタイルを開発する、ということには繋がってこなかった。肌目線に立ち、これまでとは違う角度からテキスタイルを捉えることで、新しい特性を与えることができる。単一の機能を追求するのではなく、機能と価値を同時に成立させることが、次のテキスタイル開発におけるブレークスルーになる。

喜多川:実際、ものづくりの現場でも変化は起きている。日本のテキスタイルは、実は中東の民族衣装用の素材として人気が高い。日本では日常的に顔全体を布で覆う文化は一般的ではないが、中東の民族衣装ならば、さっき竹岡さんが指摘した「着るスキンケア」といった美容切り口も自然に受け入れられる可能性は高い。日本だけではなく世界に目を向ければ、ほかにもそうした発想の新しい商品開発につながりそうだ。

吉光:そうした考えでいうと、スポーツ分野でも徐々に浸透しているのが、「炎天下では半袖より長袖の方が涼しく、体にも優しい」という考え方だ。直射日光を遮ることで、体感温度が下がると考えられているからだ。ただ、実はそれを証明するための脳波のデータは信頼性のある形で計測するのが難しいという課題がある。

竹岡:美容業界は、実は計測という観点でみるとかなりチャレンジングで、新しい計測法やツールをどんどん導入する業界だと感じている。私はもともと免疫学を専門としていたが、ビューティ業界に関わったとき、非常に柔軟で、新しい技術や発想にも貪欲なことが非常に魅力的に感じたことを覚えている。その姿勢は、これまで数値を武器にしてきた繊維&ファッションのものづくりにとっても、次の開発を考えるヒントになるはずだ。今回の対談で、日本の繊維メーカーの技術力の高さは、実用化・商品化に対する精緻さ・真剣さに支えられてきたことを改めて実感した。その強みに、美容業界が培ってきた柔軟な発想や計測への探求心が重なれば、繊維&ファッションとビューティ業界を横断したこれまでにない価値創出につながるはず。ぜひ一緒に新しい取り組みに挑戦していきましょう!

「酷暑」の夏の命綱、
東レの「サマーシールド」とは?

東レの「サマーシールド」は、高い遮熱性、遮光性、UVカット性を同時に兼ね備え、真夏の炎天下における熱中症リスクを低減するテキスタイル。その高い性能は日傘や帽子などを中心に採用が広がり、数値で示される機能性と、体感としての快適性の両立によって磨かれてきた。「サマーシールド」は、酷暑時代における健康・美容・快適性を支える基盤技術として、繊維×ビューティの新たな市場創造を牽引していく存在といえるだろう。

PHOTO:HIRONORI SAKUNAGA
問い合わせ先
東レ 繊維事業本部 新流通開拓室
ptj.toray.mb@mail.toray