PROFILE: ウェスリー・チュウ=オーセンティック・ブランズ・グループ APAC担当プレジデント

欧米のファッションおよび小売業界で台頭しているIP(知的財産)ビジネスをけん引する、オーセンティック・ブランズ・グループ(AUTHENTIC BRANDS GROUP以下、オーセンティック)。ブランド開発および運営管理、マーケティング、エンターテインメント事業などを手掛け、2025年の小売りベースの売上高はおよそ320億ドル(約5兆560億円)。圧倒的な規模を誇る同社は昨年6月、中国経済の回復が遅れる中、上海にアジア太平洋地域(APAC)本部を設立し“アジア重視”の姿勢を打ち出した。その背景や日本市場の位置付け、エンターテインメント事業の重要性、AI活用などについて、ウェスリー・チュウ(Wesley Chu)APAC担当プレジデントに聞いた。
APACは成長著しい市場
WWD:上海にアジア太平洋地域(APAC)本部をオープンした理由について。
ウェスリー・チュウ=オーセンティックAPAC担当プレジデント(以下、チュウ):ここ数年、確かに中国を含むアジア太平洋地域は厳しい局面が続いている。しかし、同地域は依然として当社における最も成長率が高い市場であり、中国はその中で最大の国だ。また、当社は短期的な目線ではなく長期的な戦略を策定して事業を行っている。中国政府の景気刺激策などによっていずれ景気が回復する将来を見据え、体制を整えておくべく、3年前に戦略的判断を下した。私が現職に就任した際、上海オフィスには数名の社員しかいなかったが、現在ではAPACで40人以上となった。これは中国だけでなく、APAC全体へのコミットメントを示している。
WWD:APAC本部では、独自のブランド買収を行っていくのか。それとも、米本社が買収したブランドのローカライズが主な業務となるのか。
チュウ:APAC本部の最大の役割は、保有するブランドのオーガニックな成長を促すことだ。さまざまなライセンスパートナーとともに、グローバル戦略を各市場に最適化している。アジア太平洋地域は極めて分断された市場で、日本、韓国、中国の東アジア、タイやインドネシアなどの東南アジア、そしてオーストラリアやニュージーランドはそれぞれ全く異なる性質を持つ。日本や韓国、オーストラリアなど中心的な市場には現地オフィスを置いているが、彼らをサポートし、現地オフィスがない国でもビジネスをスムーズに行うべく、法務やIT、マーケティングなどの本社機能をなるべく同じタイムゾーン内に置いておくべきだと考えた。
APAC事業は25年、前年比約30%の伸び率を記録し、全体的な売り上げの約10%を占めるまでに成長した。北米や欧州は成熟市場だが、APACは成長著しい市場なので、今後2~3年でこれを15%まで引き上げたい。
「2026年の最優先市場は日本」
WWD:今後、APACの中で特に注力する市場は?
チュウ:2026年は、日本を最優先市場と位置付けている。日本は中国に次ぐAPAC第2の市場で、長い歴史を持つブランドも多いし、ファッション感度の高い消費者がたくさんいる。これまでの2年間はAPAC本部の法務、マーケティング、バックオフィス機能などの基盤整備に注力してきた。その体制が整った今、日本での事業拡大に本腰を入れていく。
WWD:具体的にはどのような取り組みを進めるのか。
チュウ:23年に日本のチームを立ち上げているが、比較的小規模であるにもかかわらず、25年は約30%の成長となった。さらなる成長に向けて、まずは東京オフィスおよびショールーム機能の拡充と人材採用を進める。当社の成功は(買収してIPを獲得した)ブランドを運営するパートナー次第という面があるが、現地パートナーとのビジネスを円滑に進めるには、現地の言葉を話し、商習慣やカルチャーを深く理解している社員の存在が不可欠だからね。
WWD:日本市場で求めるパートナー像は?
チュウ:当社のモットーの一つに、“グローバルに考え、ローカルに行動”という言葉がある。日本は流通形態が非常に多様で、路面店、百貨店、セレクトショップ、総合スーパーマーケットなど、幅広いチャネルに対応できなければならない。そのため、販売網、資金力、サプライチェーンはもちろんのこと、日本の消費者の好みに合わせてサイズやフィット感などをうまく調整できるデザイン力や企画力などを兼ね備えた、優れたパートナーと提携したいと考えている。
アジア発のグローバルIPの可能性も
WWD:オーセンティックはスポーツ、メディア、ライフスタイルブランドに加えて、エンターテインメント分野にも進出している。
チュウ:売り上げの中核は依然としてその3分野だが、最も成長しているのはエンターテインメント関連のIPビジネスだ。エンタメは消費者の関心が非常に高い分野なので、ファッションやライフスタイル事業を後押ししてくれるエンジンでもある。当社はこうした戦略を、グローバルに影響力のあるセレブリティーと提携することでさらに推進。最近ではケヴィン・ハート(Kevin Hart)とパートナーシップを結んでいるが、これはエンタメ、カルチャー、コマースの交差点にあるブランドを長期的に保有し、成長を促すという当社のアプローチを反映したものだ。また日本のカルチャーなど、アジア発のグローバルIPの可能性にも注目したい。
オーセンティック・スタジオ(AUTHENTIC STUDIOS)ではプレミアムなコンテンツ制作を行い、オーセンティック・ライブ(AUTHENTIC LIVE)ではそれを現実世界へと拡張。F1のシンガポールグランプリなど、スポーツを含む最先端のカルチャーを象徴する体験を世界最大級のステージで提供している。
WWD:経営破綻したブランドを買収することが多いという印象だ。
チュウ:当社が買収の際に重視しているのは、ブランドの認知度やヘリテージだ。世界的に知られている存在なのに、運営会社に問題があって本領を発揮できていないブランドに可能性を見いだして獲得している。
WWD:デジタルおよびAI施策について。
チュウ:グーグル(GOOGLE)と提携し、同社のAI「ジェミニ(Gemini)」を採用した当社独自のAIプラットフォーム「オーセンティック・インテリジェンス(Authentic Intelligence、オーセンティックAI)」を構築した。事業開発、ブランド管理、クリエイティブ、ライセンス業務など多岐にわたって活用しているが、AIは人間の代わりとなるのではなく、その能力を拡張するものだと思う。当社は年商320億ドル(約5兆560億円)に迫る勢いだが、社員はグローバルで500人超と少数精鋭の効率的なチームだ。AIはより少ないリソースで、より高い成果を上げるためのツールと捉えている。
WWD:APAC本部における26年の展望や戦略について。
チュウ:大きく分けて3つの柱がある。1つめは日本をはじめとするアジア太平洋地域におけるインフラと人材への投資、2つめは各市場に根差したマーケティングの強化、3つめはアジアでも人気の高いグローバルIPの継続的な獲得。今後もオーセンティックの方針である“グローバルに考え、ローカルに行動”にのっとり、アジアの消費者に本当にフィットする形でブランドを育てていきたい。
【IPビジネスとは】
ブランドの資産をのれんやECを含む知的財産(IP)と店舗などの有形資産に分け、IPを獲得。運営会社と提携し、ライセンスビジネスとしてブランドをグローバルに展開することで、長期的な価値を最大化する手法。
2010年の設立。「バーニーズ ニューヨーク(BARNEYS NEW YORK)」「フォーエバー21(FOREVER 21)」、「ブルックス ブラザーズ(BROOKS BROTHERS)」「リーボック(REEBOK)」「スパイダー(SPYDER)」「テッドベーカー(TED BAKER)」「クイックシルバー(QUIKSILVER)」「ビラボン(BILLABONG)」「ハンター(HUNTER)」「チャンピオン(CHAMPION)」「ゲス(GUESS)」など50以上のブランドのほか、シャキール・オニール(Shaquille O'Neal)、デビッド・ベッカム(David Beckham)、ケヴィン・ハートらセレブリティーの知的財産も保有している。
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