海外ファッション・ウイークを現地取材するWWDJAPANは毎シーズン、今後が楽しみな若手デザイナーに出会う。本連載では毎回、まだベールに包まれた新たな才能1組にフォーカス。10の質問を通して、ブランド設立の背景やクリエイションに対する考えから生い立ち、ファッションに目覚めたきっかけ、現在のライフスタイルといったパーソナルな部分までを掘り下げる。
今回は、ミラノを拠点に「インスティテューション(INSTITUTION)」を手掛けるガリブ・ガサノフ(Galib Gassanoff)をピックアップ。ヨーロッパとアジアの間に位置するジョージアの小さな村で生まれ育った彼は、18歳でミラノに移住し、ファッションの世界へと踏み出した。2016年にはルカ・リン(Luca Lin)と共に「アクト ヌメロウーノ(ACT N°1)」を立ち上げ、約10年にわたり二人三脚でブランドを手掛けた後、独立。24年に「インスティテューション」を始動した。
「ファッションの枠を超え、文化研究や芸術表現、クラフツマンシップ、ストーリーテリングが共存する、より広いフレームワーク」を目指す同ブランドは、イタリアを拠点にする若手デザイナーの支援プログラム「カメラ・モーダ・ファッション・トラスト(Camera Moda Fashion Trust)」に2025年から2年連続で選出されているほか、2026年にはコペンハーゲン・ファッション・ウイーク(CPHFW)で開催されている「ザランド・ビジョナリー・アワード(ZALANDO VISIONARY AWARD)」を受賞。9月4日にグランプリが発表となる今年度の「LVMHプライズ(LVMH Prize)」のファイナリストにも名を連ねている。また、5月には故郷トビリシのファッション・ウイークで展示を行い、8月にはCPHFWで新作となるコレクション6のショーを開催。毎シーズン参加しているミラノ・ファッション・ウイークでは、9月25日に全く別のストーリーとなるコレクション7を披露する予定だ。精力的な創作活動を通して、伝統技術を生かしながら文化的ストーリーを紡ぐガリブの素顔に迫る。
1:出身は?どんな幼少期や学生時代を過ごしましたか?
私は、アゼルバイジャン系のルーツをもつジョージア人です。首都トビリシ郊外のカラジャラルという小さな村の伝統的な家庭で生まれ育ちました。その環境は、さまざまな文化や言語、工芸、伝統が混在していて、大都市とは切り離された土地で過ごした幼少期は今もなお私の仕事に大きな影響を与え続けています。
学生時代、絵を描くことや服に興味を持つようになりました。余った布や工作用の粘土を使って、妹の人形の服を手作りしたりもしていました。そして高校在学中には、バスでトビリシまで通い、小さなデザインスクールでファッションを学びました。
2:ファッションに関心をもった原体験やデザイナーを志したきっかけは?
ファッション誌に触れる機会のない環境で育ったので、子供の頃はファッションが職業であるとは分かっていませんでした。私の故郷では最も心躍るイベントといえば結婚式で、その衣装に強く魅了されていました。家に帰ってからは、ウエディングドレスがどんなデザインや形になり得るかを思い描いていましたね。その後、「ファッションTV(FASHION TV)」という番組を知り、ジョン・ガリアーノ(John Galliano)による「ディオール(DIOR)」のショーを目にしました。それをきっかけに、もっと掘り下げ、ファッションが職業であり、創造的な表現手段になり得ることを理解しました。
3:自分のブランドを立ち上げようと決めた理由は?
ルカ・リンと「アクト ヌメロウーノ」を立ち上げて2人で手掛けてきた経験も含め、ファッション業界で10年近く過ごす中で、自分自身のビジョンを存分に表現できる場所を作りたいという思いが芽生えました。そんな新たな章として2024年に立ち上げたのが「インスティテューション」であり、ファッションの枠を超えて、文化研究や芸術的表現、クラフトマンシップ、ストーリーテリングが共存できる、より広いフレームワークを構築することを目指しています。
4:学生時代から過去に働いたブランドまで、これまでの経験で一番心に残っている教えや今に生かされている学びは?
最も重要な学びの一つは、モノを作る方法を知り、衣服の背景にあるプロセスを深く理解することの価値です。ミラノとイタリアでの経験を通じて、モノ作りを学び、ファッションシステムの重要性を理解するという点で、より広い視野を得ることができました。また「アクト ヌメロウーノ」での経験からは、個人の視点を表現する自由を持つことの大切さを学びました。今日、私はクリエイティブなアイデア、構造、責任、そして服作りに関わる人々の間にあるバランスを保つよう心掛けています。
5:デザイナーとしての自分の強みや、クリエイションにおいて大切にしていることは?
独自の視点をもたらしてくれた独自の文化的背景をもつ点と、紙のパターンから完成品のドレスまで1着を自らの手で作り上げる術を知っているという点で、私は恵まれていると思います。クリエイションにおいて大切にしているのは、オーセンティシティー(真正性)、構築性、そしてファッションにおける人間的な側面。私が取り組んでいる技術や伝統は、何世代にもわたって受け継がれてきた実在の人々と知識の蓄積を体現しています。それらをただの装飾的なリファレンスとして扱うのではなく、その実践を可視化することに強い関心を抱いています。
6:活動拠点として、今暮らしている街は?その中でお気に入りのスポットは?
拠点は、ミラノです。18歳の時にファッションを学ぶための奨学金を得て移住してから13年間、この街で暮らしています。お気に入りの場所は、街に点在する高い天井と荘厳なクーポラを備えた聖堂。その静寂に包まれた空間に惹かれます。
7:ファッション以外で興味のあることや趣味は?
特にエスノグラフィー(民族誌)や文化史、言語学に関心があります。そして多くの人に意外と言われるのは、航空産業にも熱い情熱を持っているということです。
8:理想の休日の過ごし方は?
街を離れて過ごすことが好きですね。山でも海でも、あるいは、どこか全く別の場所でも。静寂と内省こそが、私にとって最高の休日の過ごし方です。
9:自分にとっての1番の宝物は?
周りにいる人たちです。それ以上に大切な宝物はありませんし、これからもないと思います。
10:これから叶えたい夢は?
私にとって、未来は「自由」と結びついています。それは、自分のクリエイティブなビジョンを表現する自由、そして「インスティテューション」独自の価値観に基づいてブランドを育てていくという自由です。「インスティテューション」は、単に大きなファッションビジネスになることを目指してはいません。コミュニティーや職人たちとの協働を続け、伝統的な技術を守り、文化的な物語をより多く人々のもとへ届けながら、サステナブルに成長していくことが、私たちの目標です。