
2016年創業のフットウエアブランド「オールバーズ(ALLBIRDS)」は2020年1月10日、日本に初上陸する。元プロサッカー選手のティム・ブラウン(Tim Brown)が再生可能エネルギーの専門家、ジョーイ・ズウィリンガー(Joey Zwillinger)とサンフランシスコで立ち上げたブランドで、履き心地のよさとミニマルなデザイン、そしてサステナブルなモノ作りに注目が集まり、シリコンバレーで人気に火が付いた。クラウドファンディングで12万ドル(約1296万円)を集め起業した、今最も勢いのあるフットウエアスタートアップの魅力に迫る。
「オールバーズ」は、創業者の一人、ティム・ブラウンがプロサッカー選手時代に感じた“違和感”から生まれたブランドだ。ニュージーランド代表としてキャプテンを務めたこともあるティムには、大手のスポーツブランドがスポンサーに付いていたため、彼が身に着けるフットウエアには大きなブランドロゴがあしらわれ、派手な色使いのものも多く、大学時代にデザインを専攻していたティムの美学とは合致しなかったという。選手引退後に通ったビジネススクール在学中、ニュージーランド出身ということも手伝い、ティムの中に“メリノウールでミニマルなデザインの靴を作る”というアイデアが生まれた。そこでクラウドファンディングを通じて資金を集め「オールバーズ」を起業し、アッパーにメリノウールを使用した“ウールランナー”を発表した。定番アイテムとなったこのフットウエアは、発売から3年間で約30回も改良され、タイム誌に「世界で最も快適な靴」と称されるまでになった。
看板商品“ウールランナー”と
“ツリーランナー”
1 / 4
代表作の“ウールランナー”に使用されるメリノウールは、ニュージーランド産のZQ認証を取得したメリノウールを使用している。ZQ認証を取得したメリノウールは生産農家から製造業者までトレースすることができる。
“ウールランナー”と人気を二分する“ツリー”シリーズは、森林管理協議会(SFC)が認証した南アフリカ産のユーカリの木の繊維を使用し、生産時に使用する水を95%削減することに成功した。
従来のスニーカーのソールは石油由来だが、「オールバーズ」は、ブラジルのグリーンエネルギー企業のブラスケム社と共同で、サトウキビを用いたカーボンネガティブ(生産と利用の過程で二酸化炭素を実質的に減らすことができる)なグリーンEVAソール“スイートフォーム”を開発した。
注目すべきは“スイートフォーム”の技術をあえて自社だけで抱え込まず、オープンソースとしている点。「オールバーズ」の創業者たちが自社の利益を優先するのではなく、より良い社会になるような企業活動を目指していることがこうした面からもうかがえる。技術が解放されたことで、現在ではフットウエアメーカー約100社がこの技術を基に素材開発を行っている。
100%カーボンニュートラルを
達成
1 / 5
「オールバーズ」の魅力は大きく分けて1.履き心地のよさ、2.ミニマルなデザイン、3.サステナブルなモノ作りの3つに分類できる。その中でも特に“サステナブルなモノ作り”が注目されているが、これは企業の目標である“社会にとってよい行いをする”ことの一環だという。
同社は19年4月、100%“カーボンニュートラル(二酸化炭素の排出量と吸収量を同じにすること)”の達成を宣言した。生産や流通の過程で発生する二酸化炭素量だけでなく、オフィスの稼働や従業員の移動まで含めた全企業活動のカーボンフットプリントを詳細に調査。それと同等のカーボンオフセットを行うことで、今年から100%カーボンニュートラルを達成しているという。
人気の火付け役はシリコンバレーの起業家たちだ。ティムが追及したミニマルなデザインがシリコンバレーの起業家にヒットしたことで、シリコンバレーのテック企業に投資する投資家たちにまで「オールバーズ」の名が広まった。さらにそこからニューヨークのベンチャーキャピタルコミュニティーへ飛び火して、今ではマス市場でも人気を誇るフットウエアブランドへと成長を遂げた。
2018年にはシリーズCで5000万ドル(約54億円)を調達し、累計調達額は7500万ドル(約81億円)以上となった。個人投資家には俳優のレオナルド・ディカプリオやハワード・シュルツ前スターバックス会長兼CEOらが名を連ねる。
サンフランシスコの店舗では、靴を着脱しやすいイスを設けている他、壁一面に靴のストックを収納することで待ち時間を短縮する工夫が施されている。
2020年1月に日本初上陸
その勝算は?
「オールバーズ」は現在アメリカ、ヨーロッパ、アジア太平洋地域に14店舗を構えている。日本初上陸に向けて、日本法人を立ち上げてチームビルディングを進めており、出店場所はJR原宿駅の目の前の商業施設を選んだ。原宿の都会的でトレンドに敏感でクールな点がブランドイメージと共通する。また、グローバルな場所でもあり感度の高い消費者が世界中からやってくる場所でもある。
カラフルで大きなロゴのスニーカーを好む日本人が一定数いることも否定できないが、本来、ミニマルで洗練されたデザインを好む。だからこそシンプルな「オールバーズ」のスニーカーは日本の消費者にも受け入れられると考えている。
また、現在はまだサステナビリティが購入動機として働くことは少ないが、環境への配慮を意識する消費者は増えているし、自分が着るものや履くものが何で作られているか、どう作られているかを意識するようになっている。この意識は日本の、特に若い日本人の消費者の中でも高まっているため、ブランドにとって追い風だと考える。
オールバーズ