ファッション

いつから「ジーンズ」よりも「デニム」になったのか? Googleトレンド20年のデータで読む

Googleのトレンドワード調査サービス「Googleトレンド」が、正式ローンチ(2006年5月)から今年で20年。同サービスでは、今現在Googleで検索されているホットワードだけでなく、特定の語句に関する過去から現在までの検索数の推移を調べることができる。

言葉は時代の写し鏡だ。本連載では、このGoogleトレンドを用いて、さまざまなファッション用語の過去20年にわたる検索数の推移から、その背景にあるトレンドや価値観の変化を読み解く。

今回のテーマは「デニム」と「ジーンズ」。混同されがちなこの2語だが、デニムとはタテ糸をインディゴなどで染めた綾織りの「生地」を指し、ジーンズはその素材で作られた「パンツ(服種)」を指す。ところが、単なる素材を意味するはずの「デニム」は、いつしか最終製品である「ジーンズ」の代名詞のようになり、それに留まらず一つの「スタイル」や「世界観」へとその概念を拡張させている。それぞれ2006年以降の検索数の推移を相対的に比較してみると、00年代後半まで「ジーンズ」が優位に立っていたが、12〜13年を境に「デニム」が逆転し、その差は現在も広がり続けている。

プレミアムジーンズがけん引した00年代の「ジーンズ」天下

ジーンズが日本に上陸したのは1945年のこと。終戦直後の米兵が持ち込み、60年代の米国製生地の輸入解禁を経て国内での製造が進んだ。65年には国産初のジーンズブランド「キャントン(CANTON)」が誕生し、岡山の児島を中心に国内生産の基盤が築かれていく。70年代には学生運動やヒッピーカルチャーと結びついて若者文化の象徴となり、「リーバイス(LEVI’S)」「リー(LEE)」「ラングラー(WRANGLER)」といったアメリカンブランドとともに日本の日常着へと定着した。

2000年代前半にはブーツカットが主流となり、CanCamブームの「エビちゃんOL」スタイルにも組み込まれるなど、ジーンズは先端ファッションとして大衆言語に深く根付いた。そして00年代後半のジーンズトレンドを象徴するのがプレミアムジーンズのブーム(05〜07年)である。「セブン・フォー・オール・マンカインド」「トゥルーレリジョン」「AG」「シチズンズ・オブ・ヒューマニティー」などのブランドに代表されるプレミアムジーンズは、脚を美しく見せるシルエットに加えて、バックポケットのステッチやロゴがステータスシンボルとなり、1本数万円にも関わらず飛ぶように売れた。

Googleトレンドのデータが始まる2006年当時の「ジーンズ」と「デニム」の検索ボリュームをグラフに基づいて比較すると、その差は明白だ。Googleの検索ボリュームのスコアはデニムが約17(調査期間中の最大値を100としたときの相対値)であったのに対し、ジーンズは約40前後で推移し、2倍以上の差をつけている。

ところがこの構図は、10年代前半にかけて徐々に崩れ始める。2013年には年間平均スコアでデニム(37.4)がジーンズ(36.6)を逆転し、16〜17年には年平均74〜75に達して、ジーンズの約1.7倍までになった。「デニム」が日本の大衆の間で市民権を獲得していった背景には、いくつかの要因が考えられる。

エディの影響とデニムコーデの浸透

「ジーンズ」ではなく「デニム」と呼ぶと、何となくカッコいいイメージがあるのではないだろうか。では、その空気感を作ったのは誰なのか。2000年から07年まで「ディオール オム(DIOR HOMME)」を率い、ロックで極細なジーンズルックで世界に衝撃を与えたエディ・スリマンは、その一人だったはずだ。極細のジーンズを主軸にしたスタイルは、作業着発祥のカジュアル素材である「デニム」をモードの文脈で再定義し、日本でも「スキニーデニム」を合言葉として百貨店、セレクトショップに波及していった。

日本のマス層においても、ジーンズに限らない多様なデニムアイテムを取り入れたコーディネートが広がっていった。ここに一役買ったのが、素材・製造技術の進展だ。10年代に入ると、はき心地を追求したジャージー素材や、夏場でも快適な接触冷感機能など、テクニカルなデニム生地が登場。これにより、着心地を求める女性にもデニムが受け入れられるようになり、ジャケット、シャツ、スカート、ドレスなど幅広いアイテムに展開されるようになった。

ジーンズという言葉では括れないアイテムが増え、言葉の主役が「ジーンズ」から「デニム」へとシフトしていく。これに連動したのが、ECの普及だ。同時期に台頭した「ゾゾタウン(ZOZOTOWN)」をはじめとするECモールにおいて消費者は「デニム」というハッシュタグやカテゴリーを日常的に目にするようになり、語句検索で使う機会も増えていった。

26年は「デニム」検索が過去最大に
Y2Kとともに広がるデニムのスタイルコード

「デニム」の検索スコアが最大値であるスコア100を記録したのは26年3月。この勢いをけん引したのが、Z世代を中心とする昨今の「Y2K(2000年代初頭)ブーム」である。「ミュウミュウ(MIU MIU)」をはじめとするハイブランドのランウエイや、それを着用するK-POPアーティストたちの影響により、クロップドトップスとの合わせやデニムオンデニムが新鮮なスタイルとして再評価。若い世代の間では、軽やかで自由なスタイルコードとしてデニムを纏う感覚が広がっている。

一方、主役の座を譲った「ジーンズ」も検索スコアは40前後で横ばいをキープし、底堅く推移している。「リーバイス」の大戦モデルなどに代表されるビンテージを掘り下げるフリークや、アメカジのコアなファンの間では、「ジーンズ」は一種のアイデンティティーの表現であり、カルチャーへの敬意、矜持を示す言葉として生き続けている。

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