
奈良県南部、天川村の豊かな森の山あいで、デッカーズジャパンの社員たちが汗を流し、土を掘り、苗木を植えていく。「UGGの森」プロジェクトは、“多様性のある森づくりを継続的に支援し、森林だけでなく地域コミュニティも育む”ことを目指す植林活動だ。音楽家・坂本龍一が創設した森林保全団体「モア・トゥリーズ(more trees)」とのパートナーシップを通じて、2021年8月から活動を開始し、今年で5年目を迎えた。これまでに延べ120人を超える社員が参加し、約4ヘクタールの土地に累計2000本を植樹。自然と触れ、人とつながる体験を通じて、”People and Planet”、そして“Do Good and Do Great”という理念を行動で示している。
地域とともに育てる「UGGの森」
土に触れ、人とつながる
5年目の植樹活動

植樹エリアを目指し、チーム全員で山を登る。今回は標高1200メートルのところに植樹した
紀伊山地の奥深く、熊野川の源流に抱く天川村は、森林面積が村土の97%を占める。同村の洞川(どろがわ)地区は、修験道の聖地・大峯山の宿場町として開山以来1300年以上の歴史があり、当時の修験者が常備した和漢の生薬「陀羅尼助丸(だらにすけがん)」は、今もこの地の特産品として製造販売されている。そんな太古の姿をとどめる天川村では近年、林業の担い手不足や獣害など、森林資源の活用と保続が課題となっている。
こうした中で始まったのが、デッカーズジャパンによる「UGGの森」プロジェクトだ。“自然と共にあるライフスタイル”を掲げる「アグ(UGG)」の理念と、天川村の豊かな環境を未来につなげたいという思いが共鳴したことをきっかけに、「モア・トゥリーズ」と共に、地域と企業が協働する森づくりを推進。多様な植生を育みながら、持続可能な森づくりを目指している。

9月下旬に行われた5年目の植樹活動には、全国の「アグ」のストアスタッフ、本社メンバーに加え、デッカーズジャパン髙桑真ジェネラルマネージャーも参加。計17人のメンバーが、水谷伸吉「モア・トゥリーズ」事務局長、杉本和也・天川村の地域林政アドバイザー、村の林業関係者らと共に、2日間にわたり、2つのエリアに植樹した。
今回の植樹では、天川村のアイデンティティーであるキハダの苗木をメーンに植えた。地域では2019年から地元の情熱によって苗づくりが始まり、21年に本格的な植栽がスタートした。戦後復興期の木材需要を背景に植えられたスギやヒノキと異なり、広葉樹の森づくりには確立された技術がない。地域と企業が協働し、時間をかけて森を育てている。
体験が育む“Do Good”の精神


上:今回の植樹では、キハダに加え、ミズナラやウリハダカエデ、ケヤキなどの苗を植えた
下:杉本和也・天川村地域林政アドバイザー
杉本アドバイザーは「この活動は、自然に近い地域性豊かな森を人の手で再現しようという、従来の林業の枠を超えた大胆な挑戦だ。だが、単に木を植えるだけでなく、人と地域を育むことにもつながる」と語る。「『アグ』のような“カッコイイ会社”が泥臭い森づくりに真剣に取り組む姿が、若い世代に森林や地域への関心を芽生えさせるきっかけになっている」と続け、天川村ではデッカーズジャパンがプロジェクトに参加して以来、地域でも忘れかけていたキハダや森林資源への関心が再び高まっているという。「『UGGの森』の活動のおかげで、この村にも『アグ』や『ホカ』のファンが多いことを知った。高齢者も“アグゥ〜”と口にして、親しみを持ってくれている」と笑う。


植え終わった苗にはリボンをつけ、下刈りの際の目印に
鹿の食害や天候の影響など課題は多い。それでも、社員と村の人々が山の斜面で土を掘り、苗木を植え、鹿よけネットを張る。互いに声を掛け合いながら作業を進める姿が、自然と人との関係を新たに結び直している。その現場にこそ、デッカーズジャパンの社会活動の原点がある。参加した社員からは「自然と関わることで、ブランドの背景をより深く理解できた」「どの工程も木のことを一番に考えた方法で、“木を愛する気持ち”が伝わってくる植樹だった」との声が上がる。体験を通じて生まれた実感が企業文化の中に息づき、日々の仕事にも反映されていく。「UGGの森」は、その理念を形にする象徴的な場となっている。

5年目の植樹に参加したデッカーズジャパンチーム
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行動でつなぐ
デッカーズジャパンの社会貢献
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あらゆるランナーに喜びと希望、可能性を
「ホカ」は、誰もが自由かつ安全にランニングや運動を楽しめる環境づくりを目指す。その一環として、障がいのある人と健常者が共にランやウオークを楽しむことを目的とするNPO法人アキレス・インターナショナル・ジャパンとパートナーシップを締結。毎年開催されるアキレス主催の「アキレスふれあいマラソン」では、伴走ランナーおよびサポートスタッフとして「ホカ」の社員が参加。2023年には、デッカーズが主導し、障がいのある人も参加できるランニングイベント「Run for Possibility」を立ち上げた。走る機会を増やし、誰もが安心して“走る喜び”を実感できる社会の実現を支援、目指している。
今残さないことで未来に残す
リーブノートレイス(Leave No Trace)とは、豊かな自然環境を次世代へつなぐことを目的に、環境への影響を最小限に抑えながらアウトドアを楽しむ環境倫理プログラムだ。2024年のAOK(Art of Kindness)ウイークでは、リーブノートレイスの理念について学ぶレクチャーを受講し、川の環境について学ぶ。翌25年3月には、ラフティングボートで川を下りながらごみを回収する活動「青梅リバークリーンマラソン」に参加。8月のAOKでは、デッカーズジャパンとして初めて「青梅リバークリーン」を実施した。プロラフティングチームTEIKEIや地元民と協力し、ラフティングボートで川を下りながらごみを回収した。
世界中の社員が一丸となるボランティアウイーク
デッカーズブランズでは年2回、“グローバル ボランティアウイーク”を実施。環境保全やダイバーシティー推進などを通じて、地域社会にポジティブなインパクトを与えることを目的としている。該当週には、世界中の従業員が一丸となり、デッカーズが掲げる“Do Good and Do Great”の理念を行動で示す。デッカーズジャパンでは、地域の清掃活動や支援を必要とする人々へのボランティア活動、自らの社会貢献への理解を深めるためのワークショップなどを実施。チームや個人として、またパートナー団体と協力しながら、さまざまな形で社会貢献に取り組む。
親と子の心に希望を育む
デッカーズジャパンは、親と子のポジティブな心の豊かさを育む社会づくりを目指し、認定NPO法人フローレンスの活動を支援している。フローレンスは、こどもの虐待や貧困問題、育児の孤立・孤独など、こども・子育て領域の社会課題の解決を目指し、数々の福祉・支援事業を運営すると共に、政策提言や文化醸成などの活動を行っている。デッカーズジャパンは、寄付による支援にとどまらず、社員が現場へ足を運び、保育士と共にこどもたちと遊ぶ保育園ボランティアや「こども宅食」などの活動に参加。助けを必要とする人々に寄り添い、行動を通じて支えることを大切にしている。
自然の力にリスペクトを
髙桑GMが語る、人が育つ森づくり

髙桑真デッカーズジャパン バイスプレジデント/ジェネラルマネージャー
PROFILE:(たかくわ・まこと)1972年生まれ、大阪府出身。大学卒業後、ファッション、ライフスタイル分野のインターナショナルブランドで経験を積み、2014年7月にバリー・ジャパンCEO兼プレジデントに就任。21年8月からゼニアジャパン プレジデントを務める。24年10月にデッカーズジャパンに入社し、現職
天川村での「UGGの森」植樹プロジェクトは、デッカーズジャパンにとって単なるCSR活動ではない。社員が自らの手で自然と向き合い、地域とつながる象徴的な取り組みだ。希望制で始まった活動は年々広がり、ブランドや役職を超えて多くの社員が参加するようになった。現場での体験を通じて育まれるのは、数字では測れない誇りとチームの絆、そして“Do Good and Do Great”という理念を行動で示す力だ。その取り組みに込めた思いを、髙桑真ジェネラルマネージャーに聞いた。
WWD:初めて「UGGの森」の植樹活動に参加した感想は?
髙桑真バイスプレジデント/ジェネラルマネージャー(以下、髙桑):土に触れるのは久しぶりだったが、千葉の山間部に住んでいることもあり、自然の中で過ごすことはとても心地よかった。林業や行政の方々と現場で話をすると、人としての温かさや自然へのリスペクトが強く伝わってきた。そして何より、実際に山の斜面で土を掘り、鹿よけネットを張る作業を通じて、森づくりがどれほど根気がいるかを実感した。ネット1枚を張るにも力と工夫が必要。写真で見る“森の再生”とは全く違うリアリティーがあり、足を運んでよかった。
WWD:社員の皆さんも生き生きと作業していたのが印象的だった。
髙桑:初対面同士が多いので最初は少し緊張していたようだったが、体を動かすうちに自然とチームワークが生まれていた。「アグ(UGG)」の社員は明るくポジティブで、ムードメーカーが多い。部署を超えて助け合いながら作業する姿に、「これこそデッカーズのカルチャーだ」と感じた。
「UGGの森」への参加は希望制。オフィス、ストアそれぞれから行きたい人を募り、ブランドを超えて協働することが当たり前になっている。ストアマネージャーから始まり、今はアシスタントマネージャーやスタッフへと広がっていて、年々参加希望者が増えている。今年は「アグ」と「ホカ」のメンバーが参加した。ブランドによって社員の“色”も違うが、互いの視点を持ち寄ることで新しい発想が生まれているようだ。年齢や役職を超えて本音で語り合える時間になっている。
“知ること、触れること”の大切さ
「UGGの森」はその象徴

WWD:“Do Good and Do Great”といった理念が社員に浸透している印象を受けた。
髙桑:私たちの評価制度には理念が明確に組み込まれていて、マンスリーミーティングでは必ず「今月どんな社会活動をしたか」を共有する。数字よりも“人の行動”から会議を始める。その積み重ねがカルチャーを作っている。また、“AOK(Art of Kindness)ウイーク”というボランティア週間があり、社員が自主的にアクションを起こす仕組みがある。例えば、「アグ」原宿店の副店長が中心になって街のゴミ拾いを企画したり、チーム単位で河川敷を清掃したり。これらは上からの指示ではなく、社員の意思から自然に生まれた活動だ。活動時間はシステム上で管理でき、寄付先を選べる仕組みも整っている。ボランティアを“評価のための活動”ではなく、“自分のための行動”として続けられる環境がある。それがデッカーズらしさだ。
WWD:こうしたカルチャーが自然と根付く背景には、どんな仕組みや風土があるのか。
髙桑:組織全体にフラットな文化があり、役職や年齢に関係なく意見を交わせる風土がある。経営層と現場の距離を縮めることが、組織を健康に保つ第一歩だと考えているので、私自身もマーケティングやHRなどの他部署と定期的にランチ会を開いて直接話を聞くようにしている。年に2回実施する社内意識調査も大切な指標だ。結果をもとに改善策をリーダーシップチームで話し合い、次の行動に結びつける。回答して終わりではなく、リアクションまでが一連のサイクルになっている。
WWD:「UGGの森」以外にも、幅広い社会活動を展開している。
髙桑:NPO法人アキレス・インターナショナル・ジャパン(視覚障がいランナー支援)や、認定NPO法人フローレンス(子育て支援)、環境保全のリーブノートレイスなどが主な活動だ。デッカーズにとってCRは、責任ではなく“社会に良い変化を生み出す行動”。地域に根ざし、より多様な世代とつながるブランドとして、社会に還元していくことの大切さを実感している。
WWD:今後、注力したい領域を教えてほしい。
髙桑:透明性と柔軟性の向上に取り組んでいきたい。新入社員がスムーズに企業カルチャーに馴染めるよう、オンボーディングを強化していく。私たちは外部から採用するよりも、社内で人材を育てるスタイルを重視しており、社員が“デッカーズの一員である誇り”を持てるよう支援している。また、私たちのビジネスは地域に根ざして生活するお客さまによって成り立っている。「UGGの森」などの現場体験は、ブランド理解や社会活動への意識を高める貴重な機会だ。お客さまと向き合うことは、すなわち社会と向き合うことだから。
WWD:最後に、「UGGの森」の活動を通じて伝えたいメッセージは?
髙桑:大げさなことではなく、“知ること、触れること”の大切さを伝えたい。人や自然と向き合う体験を通じて、相手を理解し、尊重する気持ちが育まれる。「UGGの森」は、その象徴のような存在だ。
VIDEOGRAPHER : TAKERU YATSUSHIRO
デッカーズジャパン
0120-710-844