「ニューバランス(NEW BALANCE)」が9月13日、新たなアパレルコレクションを発売する。デザイン&アートユニット“GOO CHOKI PAR(以下、グーチョキパー)”のアートワークを落とし込んだランニングウエアだ。ランニングギアとしての機能性に加えて、タウンユースもできるデザイン性にも配慮している。ここではグーチョキパーのメンバーに、“走る”をテーマに据えた今回のアートワークの制作エピソードから、スポーツとの出合いがもたらした新たな可能性まで、自由に語ってもらった。
創業120周年を目前に控え
根幹の“クラフトマンシップ”を見直す
「ニューバランス」にとって、アートを切り口にしたコレクションは今回が初めて。機能と実用性をとことん追求する姿勢を貫いてきた一方で、2026年に創業120周年を迎えるにあたり、“スポーツとカルチャーの交差点” というブランドのアイデンティティーに回帰した。
スポーツの中でもファッションを楽しみ、スポーツウエアをファッションとして楽しむ。ファッションを楽しむ中でスポーツを感じるーー。「ニューバランス」は“スポーツとカルチャーの交差点”というアイデンティティーのもと、創業時から大切にしてきた“クラフトマンシップ”を通し、新しいスポーツとの向き合い方を提案する。モノ作りの精神において共鳴するクリエイターと共に、より自由な創造とデザインで表現の幅を拡張。今回、「ニューバランス」のクラフトマンシップの精神と共鳴するクリエイターとして選ばれたのがグーチョキパーだった。
グーチョキパーと「ニューバランス」は、今年2月に「ニューバランス原宿」で開催したイベント「New Balance CRAFTS & DESIGN GALLERY」で初めてタッグを組んだ。「Running Shapes」をテーマに掲げ、“走る”人の動きを視覚的に探求し、走る肉体やシューズ、ウエア、環境、感情といった要素を織り交ぜながら、彼ららしいグラフィカルなランニングのビジュアルを表現。その10体の「Running Shapes」が、今回のコレクションに印象的に散りばめられている。
原案を回し合いながら進める
“パスザバトン”形式の創作プロセス
PROFILE: GOO CHOKI PAR/デザイン&アートユニット

学生時代から「ニューバランス」を愛用していたというグーチョキパー。この日も、3人の足元は“2010”の新色が彩っていた。東京2020パラリンピック競技大会のアイコニックポスターですでにスポーツと接点を持っていた彼らは、“走る”という人間の基本的な動きをどう捉え、アートに落とし込んでいったのか?3人のユニークな制作スタイルから、「ニューバランス」との協業によって見えた新しい景色まで話は広がった。
WWD:ユニット活動はいつから?
飯高健人(以下、飯高):出会いはグラフィックデザインの専門学校時代です。最初は僕らを含め、何人かのクリエイターと一緒にモノ作りをしていました。3人でユニットを結成したのは15年。翌年には「オム プリッセ イッセイ ミヤケ(HOMME PLISSE ISSEY MIYAKE)」のグラフィックを手掛けましたが、その時はまだ連名で活動していました。グーチョキパーとして正式に動き出したのは18年から。名付け親は、石井です。
石井伶(以下、石井):3人組だし、言いやすいので。1分で決まったね。
浅葉球(以下、浅葉):そうだったね。学生時代からを含めると、もう20年近くの仲になりますね。
石井:家族より一緒に過ごしています。
WWD:グーチョキパーの作品は、抽象的なグラフィックが目を引く。それぞれの強みは?
飯高:もともと浅葉はタイポグラフィー、僕は手描きでオブジェクトを描くのが得意で、石井は図形的なパターンや色使いで遊ぶのが持ち味です。でも今は、各自のテイストを横断し合って描いているので、持ち味も混じり合っています。それがいい感じにまとまっていますね。
WWD:分業制ではない創作プロセスをとっていると聞いた。
飯高:誰かが作成したベースを3人でパスし合いながら、要素を足したり引いたりしながら作っています。何周かパスを繰り返し、3人が納得したらその作品は完成です。
WWD:ルールはある?
飯高:特に決まりはなくて、誰から始めてもOKなんです。方向性を最初に話し合って、イメージが固まった人からベースを描き始めます。パスの回数も、1回の時もあれば、5回くらい回し合うことも。
浅葉:描き途中のかなりラフな状態で渡すこともあります(笑)。
石井:無理な時は「無理!」と言ってすぐパスしちゃうよね。逆に、自分として譲れないパーツをもし誰かが消していたら、理由をちゃんと説明して残してもらいます。
飯高:前回の状態からびっくりするくらい変わっていることもめちゃくちゃあります。足し引きした制作工程を全てファイルで残しているので、後から見返すと面白いよね。
石井:すごい枚数のファイルがあるよね。話し合って「こうしよう」と決めていくというよりは、データのファイルでコミュニケーションをとっているイメージです。
飯高:この“パスザバトン”形式は、手を抜けない緊張感もあります。変な一手を入れたら、作品のバランスが崩れてしまうことがあるので。色に関しても、それぞれが思う色を足し引きして、全体を見ながらバランスを整えます。
浅葉:相手に委ねた方が面白いものができることが、3人ともわかっていますね。
飯高:オフィスにほぼ毎日出勤し、同じ場所に机を並べて描いているので、お互いの進行状況を把握できる環境だからできることだと思います。作品に集中している時間からお腹が空く時間まで、3人のタイミングが一緒なのも面白い。
石井:アイデアが煮詰まった時は、みんなで散歩に行きます。
浅葉:原宿や渋谷をぶらぶら歩いて。結構長い距離を歩くよね。気分転換できたら、また各自で創作活動に戻ります。
スポーツとカルチャーの交差点は
人の心を豊かにしてくれる幸せな景色
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WWD:「Running Shapes」のアートワークはどのようにアプローチしたのか。
飯高:パラリンピックで全22競技のポスターを描いた経験を活かして、人が運動する造形を研究してグラフィックに落とし込んでいきました。ただシルエットを捉えるだけでなく、目に見えないその人の感情をのせたり、動きの躍動感をさらに拡張したりしながら、抽象化していくアプローチです。
ランニングに的を絞った時、走り方のフォームは人によって全然違います。楽しそうに走る人もいれば、ストイックに走る人もいる。人間の根源的な動きだけど、もっと新しいことを再発見したいなと。最終的に10枚のアートワークで落ち着いて、ランナーの多様性を表現できたと思います。
浅葉:走る人の姿は、造形としてもすごくキレイだなと思います。これをさらに抽象化していくことで、見え方や感じ方が変わると思いました。
石井:走るフォームは、絶妙なバランスを保っているんですよね。グラフィックで表現する時に、パーツが一つなくなるだけで、走っているように見えなくなる。崩れそうで崩れないバランスにこだわりました。
WWD:「ニューバランス」と一緒に取り組んで感じたことは?
石井:中高時代からずっと履いていた大好きなブランドだったので、まず一緒に仕事できることがうれしかったですね。
飯高:2月に行った「New Balance CRAFTS & DESIGN GALLERY」のイベントでは、アートワークの展示だけでなく、坂本龍一さんの映像作品も手掛けました。坂本さんが出演していた昔のCM映像をリバイバルして、坂本さんの書き下ろし曲「Ngo」にのせながら映像を作りました。僕も「ニューバランス」がずっと好きだったことはもちろんですが、坂本さんがスニーカーを愛用していたことも知っていたし、その姿も憧れでした。ダブルでうれしい気持ちになりましたね。
浅葉:映像の中では「ニューバランス」のスニーカーを抽象的に描きました。スニーカーは大好きです。見ているとすごく創作意欲が湧くんですよ。
飯高:最近また「ニューバランス」のスニーカーをモチーフにしたアートピースを作りました。今回もめちゃくちゃ楽しかったですね。「Running Shapes」の新作と合わせて、個展で発表します。
WWD:今回のアパレルコレクションを見てどう思った?
飯高:スポーツウエアに自分たちの作品が載ることは今回が初めて。特殊な機能素材を使っているから、どんな質感でプリントされるのか気になっていました。カラフルなグラフィックだし、チープになったらどうしようかなと。でも商品を見たら、かなりキレイに仕上がっていて驚きました。
石井:クオリティーの高さがよくわかります。総柄のデザインも新鮮ですよね。特にグレーのタンクトップとショーツが気に入りました。
浅葉:外からは見えないインナーにもグラフィックがプリントされているデザインにぐっときました。このコレクションを着て走っている人がいたら、後をついて行っちゃいそうです。
WWD:「ニューバランス」にとっても、今回のようにアート展の取り組みをアパレル商品化するのは初めてだという。
飯高:嬉しいですね。アートとスポーツの融合については、違和感はまったく感じないです。むしろ、すごく親和性が高いと思います。ランニングや運動をすることによって気持ちが前向きになるし、僕らのモノ作りもポジティブになってほしい、喜んでほしいという気持ちでやっているので。人の心を豊かにする共通点があって、同じ方向に向かっている。お互いがさらに混ざり合えば、もっと新しい可能性が広がりそうです。
浅葉:次は一緒に靴を作りたいですね!
飯高:いいね。めちゃくちゃかっこいいスニーカーを作りたいね。
石井:想像できないことは何でもやりたいです。
WWD:ちなみに普段、ランニングは?
飯高:走ります。浅葉だけ……。
浅葉:最近はちょっとサボり気味だけど、ランニングは好きです。ランナーのアーティストは少ないらしいよ。
飯高:僕と石井は、このウエアを着てランニングを始めないといけないね。まずは散歩の延長で早歩きから始めようか。
石井:そうだね(笑)。
ポップアップイベントを続々開催!
個展では新作アートワークを初披露
コレクションは9月13日から、全国の「ニューバランス」直営店や、ビームス メン渋谷、アトモス新宿、ニコアンド トーキョー、アンドエスティ トーキョーで販売する。ランニングコンセプトストア「ニューバランス ラン ハブ代々木公園」に隣接するスタジオ「スポットヨヨギパーク」では、グーチョキパーの個展を開催。既存の「Running Shapes」に加えて、新作をお披露目する。展示会期は9月13日から22日まで。
ニューバランスジャパンお客様相談室
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