ファッション

187年の歴史を紡ぐ「ティファニー ワンダー」展 ブランドの意匠と創造性に没入する10のストーリー

「ティファニー(TIFFANY & CO.)」は、エキシビション“「ティファニー ワンダー」技と創造の187年”を虎ノ門ヒルズ ステーションタワー45階のトウキョウ ノード(TOKYO NODE)で、6月23日まで開催している。展示総数約500点のうち、世界初公開作品が180点、日本初公開作品が約380点という大規模展となる。驚きに満ちた傑作の数々を通して、187年の歴史の中で培った職人技と創造性、日本との絆の物語を伝える。ここでは10のルームで構成したエキシビションの見どころを紹介する。

ROOM 1 : The World of Tiffany

ティファニーの世界
投影した映像作品で、エポックメイキングなヒストリーを振り返る。日本との絆もテーマにしているため、ブランドが1972年に開いた日本初となるサロン、ティファニー1号店の様子も記録している
会場の冒頭で来場者を迎えるのは、今回のエキシビションのために特別に制作した映像作品だ。頭上からダイナミックに降り注ぐ没入型のプロジェクションマッピングには、200年に迫る「ティファニー」の歴史と、その代表作をファンタジックな世界観で描いている。展示総数約500点という圧倒的な規模のエキシビションへの期待が高まる。

ROOM 2 : Wonder of Origin

ティファニーの起源
壁に貼られたジャガードタペストリーは、日本の伝統的な織物を着想源に、イタリア・コモの老舗織物工房ルベリが製作
“ティファニーの起源”と題したルームでは、創業者チャールズ・ルイス・ティファニー(Charles Lewis Tiffany)の先駆的なビジョンから、1876年に「ティファニー」に加わったチーフ ジェロモジスト(宝石鑑定士)のジョージ・フレデリック・クンツ(George Frederick Kunz)博士が世に広めた色鮮やかなジェムストーンまで、ブランドのレガシーを一挙に紹介。壁一面に張り巡らせたジャカードタペストリーには、約2世紀にわたるブランドの卓越したデザインと、その偉業の物語を描いている。世界的な愛のシンボル“ティファニー®︎ セッティング”のエンゲージメント リングをはじめ、絵画のようなアールデコ調のブレスレット、タンザナイトをあしらった世界初のジュエリー、ジャン・シュランバージェ(Jean Schlumberger)が製作した最初の“バード オン ア ロック”など、エポックメイキングな傑作が並ぶ。初期の“ブルー ボックス”や、1845年発行のアメリカ初のメールオーダーカタログ“ブルー ブック”の第1号といった貴重な資料も必見だ。

ROOM 3 : Wonder of Design

デザインの偉業
1.715ctのクンツァイトにシグニチャーの“X”モチーフを組み合わせたパロマ・ピカソ作のネックレス
2.トンボはアールヌーボー時代の重要なモチーフ
3.ルイス・コンフォート・ティファニーが「ティファニー」に参画後、初めて手掛けたジュエリーコレクションより。歴史的にも貴重な“メドゥーサ ペンダント”
「ティファニー」は、デザイナーの可能性を理解、尊重し、それぞれの名のもとに、類まれなる作品を創出してきた。“デザインの偉業”と題したルームでは、ブランドのデザイン史を語る上で欠かせない、伝説のデザイナーたちの著名な作品を展示する。創業者の息子であり、20世紀初頭にアメリカ屈指のデザイナーとして名をはせたルイス・コンフォート・ティファニー(Louis Comfort Tiffany)による“メドゥーサ ペンダント”はその筆頭だ。さらに、精巧な蘭のブローチと花の装飾が美しいラペルウオッチを生んだジョージ・ポールディング・ファーンハム(George Paulding Farnham)、名作“ボーン カフ”や“オープン ハート”を手掛けたエルサ・ペレッティ(Elsa Peretti)、アニバーサリー ネックレスで知られるパロマ・ピカソ(Paloma Picasso)らのマスターピースなどを紹介。ジュエリー界に新風を吹き込んだその創造性と、美への飽くなき探究心をたたえる。

ROOM 4 : Garden of Imagination Jean Schlumberger

想像の宝庫 ジャン・シュランバージェ
20世紀を代表するジュエリーデザイナーの一人、ジャン・シュランバージェとのコラボレーションは1956年に始まった。シュランバージェの革新性に焦点を当てたルームには、ジュエリーデザイン史の新たな幕開けとなった代表作がずらり。クンツァイトをはじめ、7石のジェムストーンにセットした“バード オン ア ロック”ブローチを筆頭に、俳優エリザベス・テイラー(Elizabeth Taylor)が所有した“フルール ド メール”ブローチや、羽根をモチーフにしたネックレスなど、自然界のダイナミックさを捉えたデザインに注目だ。

ROOM 5 : In Love with Japan

日本への愛
壁面のデザインは障子をイメージ
障子をイメージしたミニマルな空間が広がるスペースでは、「ティファニー」が日本から受けたさまざまな影響を紹介する。日本との絆は1837年、チャールズ・ルイス・ティファニーが、当時のアメリカ市場ではまれな日本からの輸入品を販売し始めたことにさかのぼる。19世紀後半には、日本の伝統工芸や美術にインスパイアされた作品を数多く生み出した。花や鳥をモチーフにしたゴールドジュエリー、蝶やトンボを描いたルイス・コンフォート・ティファニーによるステンドグラスのランプなどがその代表格だ。さらに、漆やふさひもの技術を採用したエルサ・ペレッティによる名作“ビーン”コレクションや、バングルなども展示。日本への敬意を表するとともに、その高度な熟練技が垣間見られる。

ROOM 6 :Wonder of Dreams

夢の世界
“ドルフィン”ブローチを主役に同展のために制作したショーウインドー
「ティファニー」は、創業当初からジュエリーを効果的に見せる方法として、劇場のような世界観で見る人に夢を与え、憧れを喚起させるショーウインドーの重要性を認識していた。「夢の世界」と題したルームでは、ジーン・ムーア(Gene Moore)をはじめとする世界的なアーティストやデザイナーが生み出した芸術的なウインドーを再現している。最奥には、今回のエキシビションのために特別にデザインした、ジャン・シュランバージェの“ドルフィン”ブローチが主役のショーウインドーも設置。歌川広重の有名な木版画に着想を得たという。

ROOM 7 : Breakfast at Tiffany’s

ティファニーで朝食を
「ティファニーで朝食を」で作曲家ヘンリー・マンシーニが受賞したオスカー像と作品の原稿
オードリー・ヘップバーン(Audrey Hepburn)主演の「ティファニーで朝食を」(1961年)をはじめ、「めぐり逢えたら」(1993年)「華麗なるギャッツビー」(2013年)など、キャストが「ティファニー」のジュエリーを着用した映画や、ニューヨーク本店が舞台となった映画は数多く存在する。このルームでは、そんな映画に用いられたアーカイブの一部を紹介。映画館さながらのシートに座って、各作品の印象的なシーンを鑑賞できる空間演出も楽しい。

ROOM 8 : Wonder of Celebration

祝福の時
空間には、野球やテニス、バスケットボール、アメリカンフットボールなどのチャンピオントロフィーが一堂に並ぶ。その上にはトロフィー授与のシーンなどの映像が流れる
「ティファニー」の職人たちは160年以上にわたり、多くのスポーツ分野で、アスリートたちの功績をたたえるトロフィーを手作業で製作してきた。このルームでは、真のチャンピオンのシンボルであり、最高峰の勝利の瞬間を彩った数々のトロフィーを展示。さらに、ハリウッドや音楽界との蜜月関係にも触れ、マリリン・モンロー(Marilyn Monroe)やファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)、レディー・ガガ(Lady Gaga)、フレディ・マーキュリー(Freddie Mercury)らのスターたちが愛用したアイテムも特別に展示している。

ROOM 9 : The Diamond Kings

ダイヤモンド キングの真髄
同スペースには、アールヌーボーの曲線的なフォームからアールデコの幾何学的表現、近代のスタイルまで、重要なダイヤモンド作品がそろう。ショーケースもダイヤモンドのカットをイメージ
チャールズ・ルイス・ティファニーは1840年代以降、由緒あるフランス王室のダイヤモンドや希少なジェムストーンを米国に初めて紹介し、メディアから“ダイヤモンドキング”の称号を得た。このルームでは、そんな比類なきダイヤモンドへの情熱を証明する、ダイヤモンドの傑作を紹介。アールヌーボーの曲線的デザインにはじまり、アール デコの幾何学的デザイン、コンテンポラリーな表現まで、ブランドの卓越した技と創造性溢れるアーカイブ作品がバリエーション豊富に並ぶ。

ROOM 10 : The Tiffany Diamond

ザ ティファニー ダイヤモンド
イエローダイヤモンドの輝きのオーラが天井から降り注ぐ、圧巻のプロジェクションマッピング
最後のルームを飾るのは、世界最大級のファンシーなイエローダイヤモンドがきらびやかに輝く“ザ ティファニー ダイヤモンド”だ。1877年に南アフリカで発掘され、翌年「ティファニー」が獲得した。287.42カラットの原石を、色と輝きを重視して128.54カラットまでカットした伝説のイエローダイヤモンドは、「ティファニー」の芸術性と革新性、クラフトマンシップの象徴だ。今回の展示では、ジャン・シュランバージェの“バード オン ア ロック”にオマージュを捧げ、5羽の鳥がダイヤモンドの周りを羽ばたく最新のデザインを披露した。
INFORMATION
「ティファニー ワンダー」技と創造の187年

6月23日まで開催中
9:00〜20:00(最終入場19:00)
虎ノ門ヒルズ ステーションタワー 45階 TOKYO NODE
東京都港区虎ノ門2-6-2
不定休

HISTORY

ティファニーと日本が築いた絆
「ティファニー」と日本の関係は、同ブランドのデザイナーたちが日本の美術や伝統工芸に影響を受け、ジュエリーデザインを始めた19世紀にまでさかのぼる。ここでは、国内第1号店がオープンした1970年代以降の日本との絆の軌跡を紐解く。

INTERVIEW with Alexandre Arnault

過去と未来をつなぐ、伝統と愛
アレクサンドル・アルノー(Alexandre Arnault)コミュニケーションズ&インダストリアル プロダクト部門エグゼクティブ・バイス・プレジデントは、2021年に「ティファニー」に参画後、話題のコラボレーションや革新的なマーケティングでブランドに新風を巻き起こしてきたキーパーソンだ。日本でのエキシビション“「ティファニー ワンダー」技と創造の187年”開催に合わせて、同氏に展覧会の目的や日本市場への思いを聞いた。
“「ティファニー ワンダー」は、
私たちの現在と未来への
ビジョンを表現している”
WWDJAPAN(以下、WWD):今回の展覧会で伝えたいメッセージは?

アレクサンドル・アルノー「ティファニー」コミュニケーションズ&インダストリアル プロダクト部門エグゼクティブ・バイス・プレジデント(以下、アルノー):「ティファニー ワンダー」展は、「ティファニー」のささやかな始まりから、187年という過去約2世紀にわたって培ってきたクラフトマンシップ、そしてクリエイティビティーを象徴するデザインや表現の数々を皆さまにご覧いただく“旅”だ。展示総数約500点のうち世界初公開作品が180点、日本初公開作品が約380点で、素晴らしいジュエリーや作品の数々が見られる。映画「ティファニーで朝食を」の舞台裏のほか、野球やバスケットボールといったスポーツのトロフィー、われわれが有する伝説の“ザ ティファニー ダイヤモンド”など、皆さまに楽しんでいただけるコンテンツを豊富に詰め込んでいる。

WWD:「ティファニー」にとってアーカイブの価値とは?

アルノー:「ティファニー」のアーカイブは、それぞれにストーリーがある特別な作品ばかりだ。われわれのチームは、ブランドのユニークな伝統を物語る今回の素晴らしい展示作品を、何時間もかけて丁寧に選んだ。「ティファニー」ならではの驚きと感動を体験してもらいたい。今回のエキシビションのように、豊かな物語を生み出すアーカイブに私たちはこれからも注目していくつもりだ。

WWD:未公開作品にも通底している「ティファニー」の真髄とは?

アルノー:「ティファニー ワンダー」展は、私たちのアーカイブや未公開作品をただ展示するだけではなく、現在の私たちの姿と未来へのビジョンを表現している。「ティファニー」の伝統に忠実であり続けること、そして「ティファニー」のコアバリューを尊重することは、ブランドの現在をナビゲートし、未来をプランニングする上で常に重要なことだ。

WWD:歴史あるジュエラーとしての強みをどう捉え、現在の商品に生かしている?

アルノー:「ティファニー」はアメリカ最古のラグジュアリー ジュエラーであり、競合他社の中でも深い歴史があるジュエラーの一つだ。私たちには、アーカイブや豊かな遺産にインスピレーションを求め、デザインを現代的に刷新し、再解釈できるという強みがある。「ティファニー ワンダー」展では、ジャン・シュランバージェのオリジナル作品やモダンなハイジュエリーのクリエイション、初期の“ブルー ボックス”と、128.54カラットのイエローダイヤモンド“ザ ティファニー ダイヤモンド”の最新セッティングというように、アーカイブと最新のデザインの両方を紹介している。選び抜いたジュエリー一つ一つが、その“センス オブ ワンダー”を体現し、ストーリーや目的を持っている。

“1972年のオープン以来
絆を深めてきた日本は、
今や世界第2位の市場に”
WWD:現職に就いて3年の間に、さまざまなコラボレーションや表現に挑戦してきた印象だ。

アルノー:これまで「ティファニー」に在籍してきた中で、私たちが生み出してきた製品の革新はもちろん、「フェンディ」や「パテック フィリップ」「ナイキ」「シュプリーム」などとのコラボレーション、そしてクリエイティブなキャンペーンの数々を誇りに思っている。「ティファニー」は、愛と工芸、伝統、そしてティファニー ブルーという、われわれのDNAと切っても切り離せないテーマで世の中をリードしてきた。新しいキャンペーン「With Love, Since 1837」は、最新のクリエイティブの進化を紹介するものであり、今日の私たちの顧客に向けた新しい表現でもある。

WWD:LVMHグループの傘下に入って以降、「ティファニー」が最も変革した点は?

アルノー:LVMHグループの傘下に入った2021年からこの3年間で、「ティファニー」のブランドアイデンティティーを進化させ、モダナイズしたビジョンをお客さまに伝えることで大きく前進した。ブランドの再活性化の旅に出た時、私たちは既存の顧客とのつながりを再構築すると同時に、新規客とのつながりを築くことにも重点を置いた。今後は、「ティファニー」の素晴らしい伝統やクラフトマンシップ、そして「ティファニー」のジュエリーを基点にコレクションの魅力を伝えるべく、戦略をさらに進化させていきたい。

WWD:日本との絆もエキシビションの一つのテーマだ。日本への感謝をどのように伝えている?また、「ティファニー」にとって日本市場とは?

アルノー:「ティファニー ワンダー」展では、日本の精神をたたえている。本エキシビションの開催地を決める際、関係性が強い日本を選択するのは必然だった。1972年に日本では初となる「ティファニー サロン」を東京・日本橋三越本店にオープンして以来、われわれは日本との絆を深めてきた。日本市場は現在われわれの世界第2位のマーケットに成長し、59もの店舗を出店している。建築設計事務所OMAは、ニューヨーク本店“ザ ランドマーク”リニューアルの際に最上階3フロアを設計した。今回の開催地である虎ノ門ヒルズ ステーションタワー、そして展覧会会場をデザインしたのもOMAで、共通点がある。

WWD:日本市場における今後の展望は?

アルノー:日本はこれまでも、そしてこれからも「ティファニー」にとって重要なマーケットだ。昨年リニューアルした銀座本店や新たにオープンした表参道店は、アートとクラフトマンシップ、ヘリテージが融合する場所として機能している。私たちは、日本における「ティファニー」のエキサイティングなチャプターを継続していくことを楽しみにしている。

PHOTOS : KUNIHISA KOBAYASHI(Exhibition), TIFFANY & CO.(History), KARL LAGERFELD(Alexandre Arnault)
TEXT : MAKIKO AWATA(Exhibition & History)
問い合わせ先
ティファニー・アンド・カンパニー・ジャパン・インク
0120-488-712