ファッション
特集 CEO2024 ファッション編

【内藤昭男 セイコーウオッチ社長】「グランドセイコー」を日本の美意識に基づいたラグジュアリーへ

PROFILE: 内藤昭男/セイコーウオッチ社長

内藤昭男/セイコーウオッチ社長
PROFILE: (ないとう・あきお)1960年11月9日生まれ、茨城県出身。84年に上智大学を卒業し、同年、服部セイコー(現セイコーグループ)に入社。セイコーオーストラリア社長、セイコーHD法務部長、常務取締役、セイコーアメリカ社長などを経て、2019年12月にセイコーウオッチの副社長に就任。21年4月から現職  PHOTO:TSUKASA NAKAGAWA

セイコーウオッチは「グランドセイコー(GRAND SEIKO)」を筆頭に「セイコー プロスペックス(SEIKO PROSPEX)」や「セイコー アストロン(SEIKO ASTRON)」「セイコー ルキア(SEIKO LUKIA)」まで幅広いブランドを擁し、人々の手元を彩っている。中でもジャパニーズ・ラグジュアリー・ウオッチブランドとしての確立を目指す「グランドセイコー」は2023年、イベントにも積極的で情緒的な価値観の発信にも尽力した。世界戦略の進ちょくはどうなのか?内藤昭男社長に聞いた。
(この記事は「WWDJAPAN」2024年1月29日号からの抜粋です)

北米、アジアに続き、
欧州でもブランドを確立

WWDJAPAN(以下、WWD):「グランドセイコー(以下GS)」は今、北米市場を中心に「ジャパニーズ・ラグジュアリー・ウオッチブランド」として認知されつつある。

内藤昭男セイコーウオッチ社長(以下、内藤):「最高のモノを作りたい」という作り手の情熱は、ラグジュアリーブランドにとって欠かせない大事なもの。「GS」は1960年、「世界最高峰の腕時計を作り出す」という、先人の情熱から誕生した。服部真二セイコーグループ代表取締役会長兼グループCEOが2017年に「GS」を独立ブランド化させたのは、この歴史をふまえ、日本発のラグジュアリー・ウオッチブランドとして発展させるため。「GS」は過去数年、グローバル市場で着実にこの目標を達成しつつあり、さらなる成長を目指している。

WWD:次の目標とは?

内藤:「ラグジュアリーの本場」であるヨーロッパ市場で、ラグジュアリー・ウオッチブランドと認められることだ。そのためにわれわれはここ数年、さまざまな取り組みを行ってきた。20年3月にはパリのヴァンドーム広場に欧州初直営の「GS」専門店「グランドセイコーブティック」をオープン。22年にはスイス・ジュネーブで開催されるラグジュアリーウオッチの国際展示会「ウオッチズ・アンド・ワンダーズ・ジュネーブ(WWG)」に継続参加を見据えて初出展。「GS」としての参加を要請された。WWGには「出展するなら単発ではなく、日本発のラグジュアリー・ウオッチブランドとして長期的に出展したい」と伝え、私たちの熱意や本気度を理解していただいた。WWGへの出展以降、ヨーロッパの時計愛好家や高級時計市場関係者の見方が変わったと実感している。

WWD:ラグジュアリーにおける北米とヨーロッパの違いとは?

内藤:ひとことで言えば、「ラグジュアリー」の概念が違う。北米やアジアは「新しいモノ」に対して好意的で、新進ブランドでもラグジュアリーと認めてくれやすい。だがヨーロッパ各国においては、ラグジュアリーには歴史や伝統、独自の文化が不可欠で、その概念は国ごと微妙に異なっている。そのためには、国ごとにアプローチを変える必要がある。「GS」のブランドイメージをブレずに発信し続け、そのイメージを生かしてビジネスをするため、宣伝から流通、販売までの体制を変えた。各国の代理店に任せる形を改め、ヨーロッパ各国に現地法人を設立し、われわれの手で宣伝や流通・販売を行う直販体制を構築する。この体制を統轄する組織として、ヨーロッパにグランドセイコー・ヨーロッパを設立。直営ブティックに加え、各国の老舗・名門時計店への販路拡大にも取り組んでいる。

WWD:発信する「GS」ブランドのイメージも、これまでは「精度」や「仕上げ」などハードウエアにおける卓越性がメーンだったが、最近は情緒的な価値のアピールにも意欲的だ。

内藤:卓越した技術と共に製品が生まれた土地や文化、モノ作りに取り組む職人の情熱など、感性・情緒的な価値はラグジュアリーブランドに欠かせない。「GS」は、この部分をもっと追求し、技術面の優位性だけでなく情緒的なアピールを磨く必要がある。

WWD:具体的にはどのようなアピールを?

内藤:19年から「GS」のブランドフィロソフィーとして「ザ・ネイチャー・オブ・タイム」を発信している。「ありのままの時の移ろい」を愛でる日本人の感性や、人それぞれに「道を究めることでその本質に迫ろうとする」日本人の美意識、日本の風土や自然に基づいた商品企画やブランド訴求を展開している。

WWD:今後、「GS」で新しく考えている取り組みは?

内藤:ひとりの時計技術者のこだわりと情熱に始まり開発に10年を要した時計で、22年に「ジュネーブウォッチグランプリ(GPHG)」のクロノメトリー賞を受賞した“グランドセイコー KODO”のように、作り手の想い、内発的に生まれる商品企画を余裕を持って育て、カタチにできる体制を作りたい。日本と日本の時計に対する興味と評価は確実に高まっている。このチャンスを逃さず、どのマーケットにおいてもラグジュアリーウオッチの世界でトップ5に入るブランドを目指したい。

WWD:「GS」以外のブランドの23年のハイライトは?

内藤:オフィシャルタイマーを務めた世界陸上2023 ブダペストの影響も大きく、「プロスペックス」はグローバルにおける認知度が上がっている。普及価格帯市場はスマートウオッチの影響でマーケットは縮小傾向だが、多様な価値観が飛び交う現代を象徴するカジュアルウオッチの「5スポーツ」はスポーティなムードや温かみのあるデザインで好調だった。グローバル戦略を進める中で注力してきたブランドはこれまで、高価格帯に寄っていたかもしれない。独自の感性的価値があれば、手頃な価格帯で幅広い世代に共感していただけるブランドが育つのではないか?それぞれのブランドが違う形で花開く土壌を育てていきたい。

会社概要

セイコーウオッチ
SEIKO WATCH

セイコーは1881年、服部金太郎が時計の小売りと修理を生業とする服部時計店を創業し、外国商館から信用を得て発展するところから始まる。92年には小売業の成功を背景に精工舎を設立し、壁掛け時計の製造を開始。95年には懐中時計、1913年には国産初の腕時計“ローレル”を発売した。32年には現在のセイコーハウス銀座にあたる銀座四丁目時計塔を竣工。60年、「グランドセイコー」を発売。99年には独自の機構スプリングドライブを搭載した時計を発売した

問い合わせ先
セイコーウオッチお客様相談室
0120-061-012

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