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特集 CEO2024 ファッション編

【マークスタイラー 秋山正則社長】データ分析を駆使し、感性と数値を融合

PROFILE: 秋山正則/マークスタイラー社長

秋山正則/マークスタイラー社長
PROFILE: (あきやま・まさのり)1959年生まれ、神奈川県出身。82年、國學院大学経済学部卒業後、ニコルに入社。セレクトショップを主な取引先とするOEM会社を経て、99年エクシブに入社し「ココルル」企画生産部長、常務取締役に。2001年フェイクデリック(現バロックジャパンリミテッド)で「マウジー」「スライ」の立ち上げと運営に携わる。06年にマークスタイラーに入社し、09年から現職 PHOTO:SHUHEI SHINE

2023年は「守りから攻めへ」を経営テーマに掲げ、アパレルメーカーからデータマーケティング企業への変容を目指したマークスタイラー。データを駆使し、PRや販促策とも連動した独自のMDは、新たな成長をもたらす起爆剤となりそうだ。SNS時代こそのビジネスモデルと若い人材の力で変革を目指す。(この記事は「WWDJAPAN」2024年1月29日号からの抜粋です)

独自の商品計画“MMD”を横展開

WWDJAPAN(以下、WWD):2023年をどのように振り返るか。

秋山正則社長(以下、秋山):24年2月期の売上高は、目標を下回る334億円(前期比6%増)で着地する見込みだ。当社が強みとする顧客売り上げがけん引したことで、コロナ禍中も業績はそこまで落ちなかったが、コロナが明けてからはマス向けのブランドを運営する大手企業に伸び代を持っていかれてしまった面は否めない。外出制限が緩和して実店舗の売り上げは早々に回復したが、ECがやや伸び悩み、回復スピードは想定に届かなかった。

WWD:回復途上の中でも手応えを感じた点はあるか。

秋山:達成したことは大きくは3つある。1つ目は、2年前から注力してきたマークスタイラー流の商品計画(MD)のロジック、“MMD”が完成したこと。店頭とECそれぞれで、商品投入とPR・販促策まで連動した統合システムだ。「リゼクシー(RESEXXY)」「ジェイダ(GYDA)」で先行導入し、数シーズンにわたって検証を重ねてきた。23年中に他ブランドでも横展開を想定していたが、やや遅れている。感性とデータ分析との融合を実現し、24年は横展開を進めていきたい。2つ目は、SNSのデータ解析ツールを導入し、PRと販促の効率を高めたこと。インプレッションやエンゲージメントを徹底的に分析し、起用するインフルエンサーや投稿内容、投稿タイミングなども細かく決め込んでいる。商品がどういう経路で売れたかが可視化できたことで、打ち手が講じやすくなった。3つ目は人材採用だ。マーケティングが整っても、デザイナーがいなければ意味がない。その点、23年はデザイナー採用が非常に順調に進んだ。われわれはファッションが好きでこの仕事を選んだ人間の集まり。会社としてその熱い思いを全うするしかない。引き続き、今後3年はデザインやマーケティングで人材採用を強化する。昨年、当社はアパレル企業からデータマーケティング企業へ変わると宣言したことで、ITやAI関連の企業から売り込みが増えたことはありがたい。採用と関連する話では、販売社員の処遇は既にコロナ禍中に見直したが、ここからさらに上げるためにシミュレーションを重ねている。月5日の在宅ワーク制度や時差勤務の導入、子育て支援制度の充実など、働きやすさ向上のための改革も行った。

WWD:23年の成果を受け、24年に注力するポイントは何か。

秋山:課題は主に2つある。1つは原価高騰を受けてのASEAN生産の拡大だ。23年2月期に5%だったASEAN生産比率を24年2月期は10%まで高めることを目標にしているが、欧米のSPAもASEANに移行しており、8%ほどで着地する見込み。工場との業務提携なども視野に入れながら、26年2月期までに30%にまで高めたい。2つ目は卒業生向けブランドの開発だ。成長した既存ブランド顧客に向けた次のブランド開発が当社は手薄だった。そんな中、21年秋に立ち上げた「エモダ(EMODA)」の卒業生向けレーベル“ベクム(VEQUM)”は好調に推移している。よりモード色が強く一格上の価格帯で、「エモダ」が出店していない商業施設でのポップアップストアも積極的に行っている。同様に、卒業生向けブランド開発を3つほど進めるほか、「アングリッド(UNGRID)」などでブランド内新カテゴリー開発を進める。若い層に向けた低価格業態も構想がある。

WWD:コロナが明け、世の中や業界の価値観も大きく変わっている。

秋山:企業がどう売りたいかではなく、お客さまがどう買いたいのかをより深く考えるべき時代になった。われわれから「これがかわいい」を押し付けるのではなく、お客さまと一緒に進んでいくあり方だ。多様化するお客さまのニーズを把握し、ITやデジタルを積極的に活用し成長していくことは、ファッション業界全体の課題だと感じる。他業界や他企業のマーケティングパッケージをそのまま応用することには意味がない。われわれに合わせてカスタマイズする必要がある。

WWD:カスタマイズしていくために、具体的にどのように客の声を汲み取っているのか。

秋山:優良顧客にご協力いただいて、なぜその商品を買ったのかといった直接的な購入動機に加え、購入前後の心理や購入後の保管方法、そのブランドの何を支持しているのか、どんな暮らし方をしているのかといったことも積極的にヒアリングし、当社だけのデータを集めている。買う前から買った後の行動心理まで全てを含めて、着たいと思わせる要因を作らないといけない。その際、数値が専門のマーケッターは顧客像や売れ筋の分析は細かく提示できるが、論理だけで服については詳しくない。その逆で、デザイナーは服のことはよく分かっていても、数値に疎い。各部署がプロ化しているがゆえに横の連携を失っているともいえる。感性と数値の両立ができる人材を採用していきたいし、社内でも育てていく。強固なロジックがある一方で、遊ぶところは遊ぶというような会社のあり方が理想だ。僕自身、服が好きでこの業界で40年以上も働いている。服は人の気持ちを変えられる。ファッション好きが集まる会社であり続けたい。

会社概要

マークスタイラー
MARK STYLER

2005年設立。「マーキュリーデュオ」や「ムルーア」「エモダ」といったブランド群でヤングウィメンズ向けのファッション市場をけん引。15年から中国系投資ファンド、トラスター・キャピタル・パートナーズ・ジャパン・リミテッドの傘下。15ブランドで155店舗を持つ(23年2月末現在)。23年2月期の売上高は前期比6.4%増の315億円、営業利益は同135.9%増の11億円だった

問い合わせ先
マークスタイラー
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TEXT:RIE KAMOI

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