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DXが遅れるファッションビジネスの“中核領域” 変革を成し遂げるためのカギを握る小売り向けPLMとは?

ファッション&ビューティ産業においても今や不可避となっているDX。国内外を問わず、多くの企業・ブランドがさまざまな分野のデジタル化を行っているが、日本でデジタル化が大きく遅れている領域がある。素材やデザイン、原価などを含む商品仕様管理、試作品管理、調達や品質、企画や量産の進捗管理といった商品の企画開発の領域だ。ファッション&ビューティビジネスの“中核”ともいえるこの領域のデジタル化を推進するのが小売り向けPLM(=Product Lifecycle Management)と呼ばれるソリューションであり、世界の有力企業が次々と導入を開始している。ファッション産業へのPLM導入をグローバルでリードし、世界で1万2800ブランドの導入実績を誇るセントリックソフトウェア(Centric Software)の橋永重弘セールスディレクターは「今こそ、デジタル変革を進める時だ」と語る。小売り向けPLMはファッション&ビューティ産業のモノ作りにどう変革を起こすのか。

DXの“空白地帯”と
なっているモノ作り領域

コロナ禍を経て、ファッション&ビューティ業界ではDXが大きく進展した。販売や接客のデジタル化に加え、実店舗とオンラインでの在庫の最適化、そして直近の売り上げ実績に基づく経営計画やMD計画においてもBIツールの活用などシステムによるサポートが進んでいる。しかしMD計画の後工程となる「商品企画から仕様確定までの領域」はデジタル化がほとんど進んでいないのが実情だ。量産発注の直前までは担当者のエクセル、電子メール、ファイルサーバーなどに商品企画情報が点在しており、正式発注の段階となってはじめてさまざまなデータが確定情報として整備されるのが一般的である。DXにおいて“空白地帯”となっているこの業務領域は、商品の企画から消費者の手に商品が渡るまでのプロセスのうち、約6〜8割の時間を占めているともいわれている。

モノ作りや商品企画領域のDXの遅れは、どのような問題を生むのだろうか。「現時点ではメールやエクセルを駆使して外部の協力会社との連携、商品製作の管理進行を各担当者が個別に行う手法が主流だ。しかし現状の手法では情報が点在しており、全社レベルでの品ぞろえの把握、企画の進捗確認、情報の集約には大変な手間と時間を要する。これが商品投入サイクルの短縮を難しくしている」と橋永ディレクターは指摘する。消費者がより多くの情報を手にする時代となり、トレンドの変化も早く、不確実性が増す現代において、従来と変わらぬ商品投入サイクルで事業を継続することはビジネスにもマイナスの影響をもたらす可能性がある。「投入サイクルが長くなると、トレンドとのズレが生じる可能性が高くなる。品ぞろえの精度低下、商品発注数の過不足、その結果、過剰在庫や売れ筋商品の品切れなど収益性の低下に繋がる。これは世界中のアパレルに共通の課題だが、特に日本のアパレルはサプライチェーンが複雑なため、企画段階を含め市場への商品投入のリードタイムが長く、グローバルな競争相手とハンデを背負って戦うことになってしまう」。

小売り向けPLMは、
モノ作りを一気通貫で管理する

小売り向けPLMは、さまざまな問題を発生させ得る属人的でアナログな商品企画管理をデジタル化により解決できるシステムだ。これまでも、素材管理、調達管理など個別の領域をサポートするシステムは一部存在していたが、セントリックPLMはMD、企画、調達、生産、品質、オペレーション、販売、マーケティング、そして社外のサプライヤーを含めた関係者がデジタルでリアルタイムに協業することを可能にするプラットフォームである。素材、仕様、コスト、調達、品質、そして全体の進捗を一元的に管理することで、マニュアル作業に費やされてきた非効率な工数を削減し、生産性向上や商品投入サイクルの短縮化、売り上げの増大、利益の増加、コストの低減などに繋げる。橋永ディレクターはこう続ける。「目が届く規模であれば、こういった情報の一元管理はできていたはず、しかし規模が拡大したにもかかわらず、長年に渡り仕組みを変えずにアナログで属人的な管理手法を継続した結果、力ずくでの情報管理を強いられているのが実態ではないか。セントリックPLMはこの領域を一気通貫でデジタル化することができるからこそ世界中の小売りからの支持が急速に高まった」。

具体的な機能の一例として、各担当者が個別に管理していた情報をセントリックPLMで一元管理すると、全ての情報を月別や素材別、サプライヤー別などさまざまな軸から簡単に確認できる上、ブランド別×カテゴリー別といった複数の条件を組み合わせて見ることが可能となる。集約された情報は明細へのドリルダウンも可能であり、最新かつ正確な商品仕様の迅速な確認や商品計画の全体像を容易に把握できる。従来は多岐にわたる商品情報を手動で集めて製作されていた商品投入の承認を得るための資料も瞬時に準備することが可能だ。実例として、シーズン毎に最大1週間を要していた商品企画承認のための準備時間を年4回分削減したケースもあるという。商品開発における進捗管理も一括で行えるため、開発が今どこまで進行しているのか、遅延は起きていないかなど外部と協業しながら管理できる。

素材調達においても、PLMを活用することでコストの削減に繋がる。例えばブランドが異なると複数商品で同じ素材を使っているのに、別々に素材調達をしている場合がある。こうしたケースにおいては企画段階の調達業務の見える化により戦略的な調達体制を構築することができる。複数のサプライヤーから見積もりを取得し、より適切で安価な提案を選ぶといったことも可能だ。そもそも今までは忙しすぎて相見積もりをする余裕すらないという声も聞く。

「ファッション&ビューティ業界のモノ作りにおいては“感性”も重要な要素です。感性をデジタルで表現することは難しく、この領域のシステム化が遅れてしまったという側面はあるかもしれません。短期、多品種小ロットへの対応が求められるなどマーケットの要求は厳しい。しかし煩雑な情報管理に時間や工数を取られてしまうことで、“感性”を働かせるべき本来の業務自体に時間を割くことができなくなるのは本末転倒だ。小売り向けPLMは業務の効率性・生産性の向上を通じて、本来のモノ作りを行えるよう支援する基盤でもある。セントリックPLMは商品仕様に関わるテクニカル情報、原価などの数字関連、調達などの業務プロセスをカバーするだけでなく、ファッション&ビューティ業界において重要な要素であるビジュアル面も高い精度で社内外の関係者とコミュニケーションできる。質の高いビジュアルコミュニケーションを支援し“感性”をデジタルで伝えられることもセントリックが選ばれている理由のひとつだ」と橋永ディレクター。

実際の導入効果は?

セントリックPLM導入は、実際にどれほどの効果を生んでいるのか。セントリックPLMでは、商品の市場投入期間の10〜50%短縮、業務の生産性向上の10〜50%向上、商品原価の5〜15%低減、収益性の5〜10%増加が見込めるという。

またサステナビリティなど、社会的責任を果たすための重要な基盤としてもセントリックPLMは機能する。「サステナビリティ対応に伴って、生地や原材料の産地、環境負荷といった情報の管理が求められます。本当に必要なタイミングになってから動き出すのでは対応が遅れてしまう。商品や生地、サプライヤーの情報を標準化し、まずは全社レベルでの素材情報の一元管理を行える体制を整える必要があるのではないか」と橋永ディレクターは語る。

一定以上の導入効果が期待できるだけでなく、今後要求されるサステナビリティへの対応の準備としても有効なPLMだが、導入時のトラブルなどはないのだろうか。「導入に際しては社内の業務やデータ項目を分析し標準化に取り組む必要があります。システムの導入は我々が支援を行いますが、セントリックPLMを活用していただくためにお客さま自身にプロジェクトをリードしていただく手法を取っています。先般開催された弊社カンファレンスのパネルディスカッションに登壇された全てのお客さまに「導入に苦労をしたのは事実、しかしセントリックを導入して本当によかった」とおっしゃっていただきました」と橋永ディレクター。この導入企業がシステムを”自分ゴト化”する手法により、セントリックソフトウェアのPLMは導入成功率が100%、サービスの契約更新率が99%と非常に高い水準を誇っている。

提供サービスの拡張や新プランも追加。
デジタル変革実現を強力に支援

セントリックは現在、商品企画領域のデジタル化だけでなく、MD計画などのプランニング領域やAI技術を活用した価格の最適化にまでサービスを拡張。直近では、より短期の導入が可能で導入費用を抑えた中小事業者向けPLMソリューションの提供も日本で開始している。「お客さまのデジタル変革をご支援するためにはソフトウエアを提供するだけでは不十分と我々は考えています。グローバルで蓄積してきた小売り向けPLMの活用における知恵やノウハウを、お客さまとの対話を通じて届けていくことが必要。日本チームのメンバーはITに精通しているだけでなく、業務の理解も深い。グローバルチームとも日常的に連携しており、日本のお客さまに対するセントリック本社からの支援体制も手厚い。この領域でのDX推進の勘所を理解している当社だからこそ提供できるサービスを日本でもしっかり届けていきたい」。

EDIT & TEXT : SHIN ISHIZUKA
問い合わせ先
セントリックソフトウェア
mailto:sales.jp@centricsoftware.com