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「ステラ マッカートニー」のサステナ市場、「ルイ・ヴィトン」のセレブ祭り、「サカイ」の洗練エレガンス【2024年春夏パリコレ取材24時 vol.7】

パリの街のどこから見えるエッフェル塔は、時間や手間の街並みによって表情を変えから見飽きることはありません。パリコレ8日目の今日は、朝一番の「ステラ マッカートニー(STELLA McCARTNEY)」で青空をバックに、昼間の「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」でシャンゼリゼ大通りから、夜の「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」では紅葉が始まった公園の木々の間からキラキラカ輝くエッフェル塔を眺めました。これらのショーに加えて、「AZファクトリー(AZ FACTORY)」や「サカイ(SACAI)」のショー、「ロンシャン(LONGCHAMP)」のキュートなプレゼンテーション、「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」の大型新店舗、「ゴールデン グース(GOLDEN GOOSE)」のイベントをリポートします。

10:00 「ステラ マッカートニー」

日頃サステナビリティを取材している記者にとって、今回の「ステラ マッカーre ニー」のショーは興奮が止まらないものでした。会場はエッフェル塔がきれいに見える屋外で、客席の対面に“ステラ サステナブル マーケット”と題した21の屋台が並んでいます。 その一つ一つが「ステラ マッカートニー」のコレクションを形成する素材や要素です。例えばブドウの絞り粕で作られた動物皮革の代替え素材や、オーガニックコットン、デッドストック生地の活用、ビンテージ品などです。それぞれの屋台では、その素材を扱う企業の担当者が来場者に説明をしているのですが、その多くが若く、おしゃれな起業家であり、ステラを取り巻くコミュニティーの豊かさを目の当たりにします。

ショーに登場したのは、その技術やアイデアが詰まった、でもそれを主張することなく、いつも通りリラックスして明るい服やバッグ。バルーンシェイプのガウンや、ミニドレス、ボンバージャケット、70年代調のパンツスーツなど楽観的なムードが漂うラインアップです。さらにステラの両親であるポール&リンダ マッカートニー(Paul McCartney & Linda McCartney)のバンド「ウィングス(Wings))」のツアーグッズのグラフィック、日本人アーティスト空山基のモチーフを採用したアイテムなどがカルチャーの側面を加えます。

21という屋台の数は、ステラがサステナビリティの取り組みを地道に積み重ねてきた成果でもあります。短時間では見切れない情報量なだけにショーの後もマルシェは大賑わい。そこには音楽と、良い香りと、笑顔があふれていました。

11:00 「AZファクトリー」

アルベール・エルバス(Alber Elbaz)が亡くなった後、シーズンごとに異なるゲストデザイナーを招いてコレクション発表を続けている「AZファクトリー」。今季は、ブランド立ち上げからエルバスと共に働いてきたデザインチームのノーマン・レネ・デヴェラ(Norman Rene Devera)とピーター・モヴリン(Peter Movrin)が監修しました。亡き彼の思いを受け継いだ2人が手掛けるとあって、期待がふくらみます。

ショー前に届いたデジタルインビテーションに書かれていたのは、「FLOWER PRINTS FOR SPRING. GROUNDBREAKING(春にフラワープリント。画期的)」というメッセージ。映画「プラダを着た悪魔」でメリル・ストリープ(Meryl Streep)演じるミランダ編集長が企画会議のシーンで放った皮肉をもじった言葉です。会場の客席も「ダリア」や「ピオニー(芍薬)」など花の名前でゾーン分けされていて、コレクションもやはり花がキーモチーフになりました。

テーマは「女性の24時間の生活」。真っ白なポプリンのシャツドレスからスタートしたコレクションは、次第にフラワーモチーフの色鮮やかなプリントや可憐なレースを取り入れつつ、ベビードールからスリムまでドレスやスカートを主軸に構成されています。中には、布地を巧みに操ることで知られたエルバスを思い起こさせるドレープやギャザーを生かしたアシンメトリーなドレスも。若々しくハッピーなムードあふれるコレクションでした。

14:30 「ルイ・ヴィトン」

「ルイ・ヴィトン」の会場はシャンゼリゼ通りに建つ19世紀のアール・ヌーヴォーを象徴する歴史的建造物でした。会場周辺には、来場するセレブリティを一目見ようと集まったファンと観光客が混在し、例えるなら初詣みたいな人の多さ。入り口を見つけるのに一苦労です。それもそのはず、来場者の華やかさが半端じゃない。ファレル·ウィリアムス(Pharrell Williams)はもちろんのこと、アンバサダーのゼンデイヤ(Zendaya)、ケイト·ブランシェット(Cate Blanchett)、レア·セドゥ(Lea Seydoux)、StrayKidsのフィリックス(Felix)、NewJeansのヘイン(Hyein)、少女時代のテヨン(Taeyeon)、日本からはアンバサダーの広瀬すず、フレンド·オブ·ザ·ハウスを務めるローラ(Rola)とKōki,、そして中田英寿もいます。ふう。これはファンが集まるわけです。

床も壁も天井もオレンジ一色で覆われた会場は、3度目となるプロダクション兼デザイナー、ジェームズ・チンランド(James Chinlund)とのコラボレーションによるもので、いわば会場全体がアート作品。その中に登場したのは、相反する要素をミックスしたフェミニン&スポーティなラインアップ。ダボっとしたブルゾンに柔らかいフレアスカート、スカーフプリントのミニスカートにパワーショルダーのプルオーバー、サーカス風ハイウエストパンツに柔らかいオフショルダーブラウスなど。ビンテージストアでお気に入りを見つけて自由にスタイリングしたような雰囲気です。ファッションは楽しい!そんなメッセージが伝わってきます。

15:00 「ロンシャン」

お次は、モンマルトルにあるオシャレなアパルトマンのような「ロンシャン」の会場へ。今季は“ロンシャン ユニバーシティ”をテーマに、世界のさまざまな場所からやってきた女の子たちがアパルトマンで共同生活を送りながら、現代のパリジェンヌに成長するさまを描きました。プレゼンテーションでは、モデルがそこで暮らすアート学生になりきり、新作を紹介。ちょっと恥ずかしがりながらも、設定に忠実にキャラクターを演じていてキュートでした。

ラインアップは、カレッジTシャツやバーシティジャケットに煌めくスカートやドレスを合わせたナイトアウトのためのミックスコーデから、サン=トロペへの旅行に合わせたリゾートスタイルまで。過去に発表したシルクスカーフをアップサイクルしたブラトップやショーツも登場しました。バッグは、小ぶりなサイズが充実。カラービーズで作ったストラップやチャームが目を引きます。

16:00 「サカイ」

「サカイ」は現在ウィメンズのプレ・コレクションをパリメンズのショーで合わせて発表していますが、その内容はコラボレーションを盛り込んだよりカジュアルなラインアップという印象。それに対して、メーン・コレクションは実験的なアプローチとそこから生み出される洗練されたエレガンスが際立っています。

今季のコレクションを物語るのは、「The more simple we are, the more complete we become(シンプルになればなるほど、私たちは完全になる)」という彫刻家オーギュスト・ロダン(Auguste Rodin)の言葉。デザイナーの阿部さんは「衣服の原型から何か新しいものを生み出すことが自分の使命だと強く感じている」と話し、見慣れたアイテムから削ぎ落とされた彫刻のようなシルエットを生み出すことに挑みました。ベースとなるのは、テーラードジャケットやシャツ、MA-1ジャケット、ミリタリーパーカ、デニムジャケット、フェアアイルセーターなど。ジャケットやシャツ、セーターには円形のパターンを用いることで、背中や袖を大きく弧を描くようにふくらませ、メンズライクなテーラリングを裏返してアレンジしたようなジャケットやドレスは横方向にスラッシュを入れて、ハリのあるシルエットに変化をもたらしています。

一方、ハイブリッドの美学を感じるのは、シャツやコートの内側にキャミソールやスリップドレスをドッキングしたデザイン。胸元のボタンを深く開けて着崩すことで、リラックス感のあるアティチュードを表現しています。そして、前身頃になる部分をサイドにずらしたアシンメトリートップスは、先シーズン見せた“本来あるべき場所からずらすことで新しいシルエットを生み出すアプローチ”の応用を感じさせるもの。シアーシフォンのワイドフレアパンツやスカートなどを合わせることで軽やかな動きを演出したり、綺麗なシルエットの即章入りフレアパンツを合わせてシャープに仕上げたり、メタルと透明な樹脂のパーツを組み合わせた大ぶりなチェーンアクセサリーをアクセントに加えたりしているのも印象的です。立体的なシルエットや動きがポイントのコレクションなので、ぜひ下記のフィナーレ動画もご覧ください!

18:45 「コム デ ギャルソン」パリ店移転オープニングパーティー

「コム デ ギャルソン」のパリ店が移転オープンしたので、スケジュールの合間を縫ってパーティーへ。これまでも同じフォーブール・サントノレ通りの奥まった中庭にあったのですが、通りに面した56番地に移動して、スペースも大幅拡大。地下1階と地上3階の計4フロアに、コム デ ギャルソン傘下の全ブランドがそろいます。ちなみに、1987年に初めて製作された椅子のリエディション版も販売されています。

「訪れた人が一つひとつの部屋を試し、探検し、発見できるような店を作りたかった」と川久保さんが話す空間は、フロアごとに意匠が異なり、迷路を進むような感覚。多くの来場者で混雑する店内には、ちょうど渡仏中の日本の若手デザイナーたちの姿もありました。日本人デザイナーが一代で築き上げた世界での成功を目の当たりにすることは、大きな刺激になったのではないでしょうか。

また、パーティーでは、川久保さん自らが入り口に立ち、来場者を迎えたり、見送ったり。唯一無二のデザイナーだけでなく、経営者としての素晴らしい姿勢に心を打たれました。

19:30 「メゾン マルジェラ」

「メゾン マルジェラ」は、メンズとウィメンズの合同“コーエド”ショーをこの時期へ移し、パリ本社で発表しました。入り口では謎の組体操が出迎えます。

日本の席からは、モデルが表に登場する5秒前の様子が見えたのですが、これが面白かった。全員、歩き出す直前に一つ深呼吸をすると役に入り込み表情をガラリと変えてランウエイへと飛び出してくるのです。まるで演劇の舞台の袖の光景です。きっと彼らに与えられているミッションは、「服をきれいに見せるモデル」というより、ジョン・ガリアーノ(John Galliano)が創造した物語を演じる「ランウエイの上の役者」なのでしょう。

リリースによるとその物語は、20世紀イギリスの港町。貧しい貴族の子息と、成金の資本家の娘が主役です。物語の詳細な説明があるわけではありませんが、ショーを見ているうちに脳内に妄想が広がってゆきます。

高貴な面持ちの「子息」が着る服は上等「だった」面影を残しつつ、曲がっていたり、破れていたりと乱れがち。ハイカラーの白シャツは変形し、Tシャツは海風にさらされたのかボロボロです。「娘」が着るのも、構造が顕になったロングドレスやテープで繋ぎ止めたようなミニドレス。もちろんこれらは、作り込まれた完成品であり、服の構造を表に見せるインサイドアウトの技はガリアーノの得意技でもあります。どうやら2人は船旅を共にしているようで、スーツケースの中でぺちゃんこになったような服、も登場します。男女の服は交換したり、融合したりと次第にジェンダーを超えてゆきます。ショーが終わって夢から覚めたら夜はどっぷりと暮れていました。

21:30 「ゴールデン グース」

「ゴールデン グース」がイベントを開催するとのことで、「メゾン マルジェラ」の会場とは真逆に位置する植物園へ向けてゴー!車を飛ばすこと45分、ギリギリオンタイムに駆け込もうとしたら「会場のキャパシティーがオーバーしたから入場不可」とシャットアウトをくらい、ガーーーン。粘り強く交渉して園内には入りましたが、ゲストをたくさん招待しすぎていたようで満員のイベント会場には入れず、その場でライブ配信を見ました。どうやらスケートボードの施設を造り、プロスケーターが「ゴールデン グース」の靴でパフォーマンスを披露しているようです。なるほどです。でも、入れてくれてないなら呼ばないでちょうだい!21時もまわりお腹も空いているんですから!

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