ファッション

新デザイナーと共に成長中の「カンペール」 マヨルカ島から生まれる鮮やかなシューズが若者にささる理由

 スペインはマヨルカ島生まれのシューズブランド「カンペール(CAMPER)」が、アキレス・イオン・ガブリエル(Achilles Ion Gabriel)=クリエイティブ・ディレクターとともに急成長中だ。特に若者層・ファッショナブル層の関心を集める同ブランドの好調の理由とは。「歩く時間を楽しい時間にする」を掲げ、プレイフルなデザインとサステナビリティ、歩きやすさに磨きをかけるアキレス=クリエイティブ・ディレクターに聞く。

2022-23年秋冬コレクションは
ミニマルかつ大胆なラインアップ

 「カンペール」2022-23年秋冬コレクションのテーマは、「OUT OF OFFICE」。“異なる世界の衝突”をテーマに自然環境に調和するオフィス空間を想定し、さまざまなオケージョンで活躍するシューズをそろえた。ブランドの魅力を代表する品質や丈夫であること、履き心地はそのままに、型にはまらないデザインへのアップデートが続く。

 今季のデザインは、19年からブランドのクリエイティブを統括するアキレス=クリエイティブ・ディレクターが得意とする「明るくプレイフルなアイテム」の進化版だ。スニーカーといった定番モデルにローファーやブーツが仲間入り。遊び心溢れる大胆な色使いを惜しみなく使いながら、ミニマルで洗練されたシルエットを提案する。

新ディレクターが仕掛る
地中海の息吹を詰め込んだ
ブランドイメージ改革

WWDJAPAN(以下、WWD):ディレクターに就任して、最初に手掛けたのは?

アキレス・イオン・ガブリエル=「カンペール」クリエイティブ・ディレクター(以下、アキレス=クリエイティブ・ディレクター):最初に着手したかったのは、ブランドのイメージのアップデート。地中海のマヨルカ島で育ったブランドの温もりや空気感があんまり伝わっていない感じがしていた。唯一無二のブランドだからこそ、その人間味や親しみやすさ、あたたかさを発信していきたい。

WWD:一方、変えたくないところは?

アキレス=クリエイティブ・ディレクター:1975年創業の歴史あるブランドだからこそ、アイコン製品はたくさんある。ブランド名の「カンペール」はマヨルカ語で“農夫”を意味しており、その農夫たちが履いていたシューズからインスピレーションを受けて、ブランド最初のシューズである“カマレオン(CAMALEON)”は生まれた。ブランドのアイデンティティーやヘリテージを継承して守っていくことも私の役割だと思っている。

WWD:ブランドのアイデンティティーをどう捉えている?

アキレス=クリエイティブ・ディレクター:ブランドのスローガン、“Walk, Don't Run.(歩こう、走らず、ゆっくりと)”は、のんびりとした、真摯なブランドらしさを表現していると感じる。そんなブランドを率いている自分が、時期によってはオフィスを駆け回っているので困っちゃうけど……(笑)。

WWD:就任以来、客層や消費者の反応に変化は感じるか?

アキレス=クリエイティブ・ディレクター:すごく感じる!ここ数年で客層は格段に広がったし、増えた。多くの人に対して開けているブランドであるかどうかは大事なことだし、多様なシルエット展開に加えて、価格を抑えることに努力してきたので、とてもうれしい変化だ。かっこいいモデルたちから、街のおばあちゃんまで、幅広い人たちに愛されるブランドでありたい。

WWD:要因はなんだと思う?

アキレス=クリエイティブ・ディレクター:やっぱり心をつかむのは製品だと思う。ブランドが好きで購入してくれる人も一定数いるが、最終的な決め手はデザインだろう。ショーウインドーで「かわいい」とどこか引かれるアイテムがそろっていること。売り上げリポートもチェックするが、新たにブランドアイテムを購入する人は店頭での購買がほとんどだ。

「カンペール」の哲学を体現する
プレイフルでハッピーなデザイン

WWD:自身のブランド「イオン(ION)」や、「マルニ(MARNI)」でシューズのデザインを担当した経験はどう生きている?

アキレス=クリエイティブ・ディレクター:これまでシューズの審美的な要素に加えて、歩きやすさや履き心地のデザインまで全てを学んできた。クリエイティブ・ディレクターを務めるにあたって、機能的な側面も理解しているのは大きな強み。全てのディレクターに求められることではないが、自分の作りたいシューズを実現するためにすごく大事なことだ。「マルニ」ではシューズを担当するコンサルタントのポジションだった。ミラノにあるオフィスに数週間に一度は訪れて、デザインなどを見ていた。これまでパターンを引いたり、素材を調達したり、一から取り組んできたことは、全て今日のための準備だったような感覚だ。

WWD:製品のデザインはブランド価値をどう体現している?

アキレス=クリエイティブ・ディレクター:デザインの出発点にあるのはいつだってサステナブルであるかどうか。世の中は既にモノで溢れているので、それでも作るなら責任をもって取り組まなければいけない。だからこそタイムレスで長く愛される製品を作ることは必須。自分のデザインの特徴は、カラフルでプレイフルなことだと思う。タイムレスな製品を手掛けるためにベーシックカラーをそろえるのは自分らしくないし、ビビッドでサステナブルなアイテムが「カンペール」らしいプレイフルなアティチュードを作っているはずだ。

「サステナビリティは当たり前」
意識せずとも安心を保証

WWD:ブランドのサステナビリティへの取り組みにはどのようなものがある?

アキレス=クリエイティブ・ディレクター:素材調達から製作工程、配送、労働環境や賃金など、多岐にわたる。オフィスから工場まで、全従業員の労働環境の保護は確かにしている。素材に関しては、「カンペール」の2022-23年秋冬メインコレクションは、アッパーとライニングの80%の素材が認証を受けており、96%はバージンプラスチックを使用していない。アウトソールの35%は、リサイクルまたは天然のコンパウンドを20%以上使って、レザーワーキンググループの認証を得たレザーをほとんどの製品に用いている。ほかにも、新たにポップアップストアを開く際にはインテリアを再利用するなど、素材に限定しない取り組みもある。

WWD:「カンペール」でディレクションをするからこそ実現したことは?

アキレス=クリエイティブ・ディレクター:ブランドの規定があるので、キノコ菌を活用したレザーなど、開発途中の新素材を試してみたくても耐久性の観点から手が出せないことや、少量の調達が難しいことはある。一方で、本当に変革を起こせるようなパワーを実感することが多い。「カンペールラボ」からはこの秋、新たに“トス(TOSSU)”ラインが登場する。スペインのスタートアップ企業と協業して開発されたスニーカーで、アッパーとシューレースにリサイクル素材を使用し、製造工程で廃棄物を出さず、接着剤も使用していない。「カンペール」の持つ資源があるからこそ生まれたリサイクル可能かつ、耐久性が保証されたアイテムだ。

WWD:どのようなブランドとして成長していきたいか?

アキレス=クリエイティブ・ディレクター:「カンペール」はもともと、サステナビリティや責任ある企業として社会的な事柄にアクションを起こしてきたブランドだ。経済の大きな成長期で多くのブランドがとにかく売ることに注力していた2000年に「カンペール」は、「if you don’t need it, don’t buy it(必要じゃないなら買わないで)」というスローガンを掲げたキャンペーンを出していたのを覚えている。サステナビリティは、とっくに新しいスタンダードになっているべきこと。真剣なトピックにはとことん真剣だし、黙々と取り組んでいる。一方で、ブランドとしてコンテンツやビジュアルを作るときはとにかくハッピーでカラフルなものにこだわっている。発信する方法や内容に合わせて、ムードを切り替えながら伝えていき、生活者に驚きとワクワクを提供できるブランドであり続けたい。

問い合わせ先
カンペールジャパン
press@camper.co.jp