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成田空港第3ターミナルに“エシカルアート”が出現 若手社員が考える、時代に合った環境づくり

 成田国際空港は4月、LCCが入る第3ターミナルを拡張した。同ターミナルは、“気軽に・機能的・ワクワク”をコンセプトに、シンプルで使いやすく、快適な時間を過ごせる空間を目指している。今回の拡張では、出発ロビーをオープン当初から2倍の面積に増床し、第2ターミナルとのアクセス通路の距離を短縮して、利便性を向上。さらにユーザーの旅客体験価値を高めるため、“VIVID!!”をキャッチコピーに、ターミナル各所をアートで演出するプロジェクトも実施した。福祉ユニット「ヘラルボニー」と契約する、知的障がいのある作家たちが描き出す異彩のアートや、ニットアーティスト蓮沼千紘による古着を使った作品など、時代に合ったエシカルなアートが、利用者の旅路を鮮やかに彩る。

全7カ所に設置した
エシカルアート

若者による若者に向けたプロジェクト

 第3ターミナルのメインユーザーは若い世代だ。アートプロジェクトも、ターゲットと同世代を中心としたメンバーで進めた。まず、SNSや会社ホームページに届くユーザーの意見を分析し、同ターミナルのインダストリアルな環境に対してネガティブな声があることを知った。そこで、無機質なイメージを緩和し、旅の高揚感を創出する“アートによる空間演出”を考案。ターゲットと同世代である強みを生かして、「どんなアートがあるとワクワクするのか」を300以上のアイデアから検討し、思わず触りたくなったり、写真を撮りたくなったりするインタラクティブなアートにたどり着いた。時代に合った空港を目指すため、持続可能性も意識して空間演出を考えた。

 さらには、「国内線利用時にも活用してもらうきっかけを生みたい」「作るだけでなく、ストーリーとともにユーザーに伝えることまでが旅客体験に寄与する」と考え、PR活動も積極的に実施。SNSでは、拡張部オープンまでのカウントダウン投稿を工事に携わった若手社員総出で行い、活発なコメントで溢れるなど、成果を収めている。メンバーは「空港を利用するお客さまも、そうでない方も、空港に来てもらい、第3ターミナルの変化を肌で感じてほしい」と語る。

出展者が語る
空港とアートの相乗効果

WWD:アートのポイントは?

蓮沼:着物の残たんや赤ちゃんの肌着、不要な服資材など、さまざまな人や場所から回収した素材をアート作品に昇華した。見た目のインパクトはもちろん、自由に触ったり座ったり、赤ちゃんが引っ張ってもいい参加型の作品で、人々の交流を生む装置にもなる。無機質な空間にアートがあることで、会話が広がったり、たまたま居合わせた人々の視線が交錯したりと、空間の一体感やライブ感を生んでくれるとうれしい。

松田:この場所から国内外に出発するという意味を込めて、岩手から沖縄、アメリカまで、さまざまな場所の作家を選出した。キャッチコピーである“VIVID!!”を体現する鮮やかな作品ばかり。そして、フードコートにある飛行機の窓をモチーフにしたアート装飾は、成田空港とヘラルボニーのコラボだからこそ作り出せた景色だと思う。「ダイバーシティー&インクルージョンだから」ではなく、当たり前な風景の一部になり、「なんだか気持ちいい」と思ってもらえたら。

WWD:成田空港から依頼を受けたとき、率直にどう思った?

松田:とてもありがたかった。これまで工事現場の仮囲いや駅のラッピングなどもやってきたが、常設での展示は今回が初めて。長く存在すれば、子どもが大きくなったとき、「これって障がいのある人が作ってるんだ。知らなかった」と発見してくれるかもしれない。また、作品があることで、施設に携わる人の意識もアップデートされていくかもしれない。ささいなことでも、影響を与え続けるきっかけになる。

蓮沼:当たり前の存在だったから、「成田空港だ」と意識して利用したことはなかった。今回一緒に仕事したことで、働いている人を知り、社風も知れた。安全性の厳しい制約がある中で、自由に触っていいようにしてくれたり、一緒に作品を作ってくれたり、こんなに積極的に協力してくれるとは思わなかった。多くの人が使う公共施設が、前のめりな姿勢で取り組んでいることに大きな価値があると思う。

第3ターミナルがあなたの旅を豊かに

 同ターミナルの拡張オープンに合わせてイメージムービーも制作した。“VIVID!!”を体現したカラフルな映像で、旅への期待や高揚感が詰まった内容だ。

PHOTOS:SHUHEI SHINE
※掲出作品は予告なく終了することがあります。
問い合わせ先
成田国際空港