ファッション

「儲かる」と「環境保護」をどう両立させるか パタゴニア本社キーマンに聞く【後編】

 パタゴニア(PATAGONIA)は環境保護先進企業として広く知られる。どの企業も行ってこなかったような新しい方法でビジネスを拡大しながら、環境保護に取り組んできた特異な企業だ。これまでの選択に葛藤はなかったのか。経営判断で重視したことを創業当時から断続的に同社で働くパタゴニア哲学の要、ヴィンセント・スタンリー=フィロソファー(哲学者の意。パタゴニア独自の役職)にオンラインで話を聞いた。

WWD:「儲かる」と「環境保護」の間で揺らいだことはないですか?経営判断基準はありますか?

ヴィンセント・スタンリー哲学者(以下、ヴィンセント):興味深いのは、振り返ってみると私たちのビジネス判断は「Is this the right thing to do?(これは正しいことか?)」という考えに基づいて行われてきたことです。例えば、(1996年に)1年で完全にオーガニックコットンに切り替えるという決断は、多額な投資が必要になるので既存ビジネスにリスクをもたらすことはわかっていました。実際、オーガニックコットンに移行すると決めてから、私たちは2年間生産ができず、利益を上げられずにもがきました。でも2年後には私たちのビジネスはより健全に、そして力強くなった。なぜなら、あの時代に完全にオーガニックコットンにコミットしている企業がなかったからです。そして支持してくれるお客さまも多かった。

 この会社に来て50年経ちますが、新たな手法を取り入れるのは容易ではないですし、踏み切れずにもがいている時期もありました。けれど、もがくことがイノベーションに繋がり、また、それが蓄積されていくことを私は目撃してきました。

WWD:「正しいことかどうか」、そうしたいと思っても多くは費用の理由から選択できないことがあります。そうした判断は社内全体に浸透しているのでしょうか。

ヴィンセント:例えば、アメリカで新しい倉庫を作る必要があった時のこと。財務部がリードし担当しましたが、会社のDNAに盛り込まれている思考が発揮されました。3万平方メートルの倉庫を建てるために、不動産業者は農地を勧めたのですが、彼らは「この土地を使うなんて自分たちらしくない。ここではできない」と判断しました。そして彼らはペンシルベニアの経営破綻した石炭工場跡地を見つけ、そこに倉庫を建てました。どの部署でも企業の考えを理解してビジネスを行えば、いい結果をもたらすことができると確信しています。

 時には正しいことをするには費用がかかりますし、時には節約にもなり利益につながります。時には、お金の問題ではなく想像力の問題であったりします。豊かな想像力で新しい可能性につなげていくことが大切だと考えています。

WWD:アパレルメーカーの経営者は今後何をポイントに戦略を立てて行くべきでしょうか?

ヴィンセント:セカンドハンド(リユース)の導入や、リクラフテッド(そのままでは着用できなくなった古着から新たな衣類を生みだすアップサイクル)の製品を取り入れるのは良い結果をもたらします。しかし最大の問題は、消費者に消費について疑問を投げかけることです。アパレルビジネスは、服を購入する時に感じる高揚感ーークレジットカードをカウンター越しに手渡す瞬間に依存してきました。

 私たちは過去10年間、お客さまと製品のつながりについて力を入れてきました。最高の製品を提供することはもちろん、製品を着てさまざまな体験を楽しむことが大切であると伝えてきました。幸運にも購入した大半の方々が、その製品を着用しアウトドアなどさまざまな体験を楽しみ、長く愛用しています。長期にわたり製品を使うことは経済的、社会的、環境的にも健全です。多くのアパレルメーカーは変化を求められています。品質にこだわっている企業にはさほど難しいことではないですが、ファストファッションは非常に難しいでしょう。アメリカではファストファッションの平均着用回数は7回で、その後捨てられています。どうみても持続可能ではないでしょう。私たちは社会的、環境的危機に直面しています。産業全体において、環境の改善が見込め、製品の質、人々の福利厚生、家族やコミュニティー、地域が活性化するような製品作りに変わっていかなければいけません。

WWD:長く着てもらえるように、リペアの事業部を立ち上げたとして、その事業部だけで利益を出すのは難しい。良い物を売ったうえでそのサービスとしてのリペアを行うという考え方が大切になってくると思います。

ヴィンセント:リペアやリクラフティッドなど一つの事業で利益を出すのは難しいでしょう。既存の方法でも利益を出すことは難しく、企業が品質を求める方法に移行してくれることを願っています。また、人々が着なくなった服を循環させることにも目を向けなければならないと思います。若いデザイナーや経営者、多くの消費者も変化を求めています。自動車産業が今後15年で電気自動車に移行するという目標で移行していますが、自動車業界がそのように大きく変われるなら、アパレル産業もよりシンプルな方法を取り入れることで変化をもたらすことができると確信している。同じ期間にシフトできると思うのです。

WWD:そもそもシーズンで区切り、どんどん新商品を発売するこれまでの慣例をやめない限り、問題は解決できないようにも思います。「パタゴニア」ではシーズンレスへの動きはあるのでしょうか?

ヴィンセント:「パタゴニア」は多くのアパレル企業に比べて定番品が多いと思います。“スタンドアップ・ショーツ”や“シンチラ・ジャケット”は30~40年にわたり提案しています。シーズン毎(春夏・秋冬)の提案ですが、3分の1が新製品で、3分の1が調整されたリバイズドの製品、3分の1キャリーインの製品です。また、お客さまにとっても飽きのこない色やスタイルも心掛けています。10年経ってもまだ快適と思ってもらいたいから。私たちにとっては、それも品質における重要な要素の一つです。リバイズドの製品とは、色の変更などだけではなく、機能がより良くなっているか、環境面が改善されているかという点も含んでいます。

WWD:安価な製品をたくさん売る仕組みだけを持っている企業は今後厳しくなるということでしょうか。

ヴィンセント:厳しいですね。安価な製品で利益を上げるのがとても難しいからです。素材の調達、製品の製造に関わる人々の報酬もいい状況ではない。常にタイトなスケジュールで作るファストファッションは、(買い手が間に合わず製品が溢れているため)商品を店側が受け取れない悪循環が生まれており、生産した製品を燃やしてしまうことがあります。環境にも負荷がかかる、非常に悲しいことです。良いビジネスとは言えませんし、利益を上げるのも難しいですね。

WWD:パタゴニアのビジネスの展望は?

ヴィンセント:まず10年後、今以上に私たちとお客さまの関係が強くなっていること。環境面では、私たちは(2025年までに)ポリエステルやナイロンのバージン素材の使用をやめる手法、開発を取り入れていきますが、これは大きな変化をもたらします。再生可能素材とナチュラルファイバーの採用に非常に力を注いでいます。私たちが格闘している問題は、今後10年間成長するにあたり、成長に依存しない、より質のいい会社を作れるのか、ということです。強制的に成長を拡大させようとすると社会にも環境にも悪影響を及ぼします。日本では何百年も続く旅館がありますね。何百年も健全なビジネスを行えるのは温泉がいい状態に保てているからだと思います。それが経営に盛り込まれているはず。アパレルビジネスも、そうした旅館の心理から学ぶべきです。

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