ファッション

お客さまに愛され、チームを強くする 2022年はパーパスのあるブランドを目指そう

 生活習慣や社会環境、価値観の変化に伴い、「どんなブランドなら、お客さまに愛されるの!?」と考えている人は多いだろう。また生産背景や販売手法が複雑なファッション&ビューティ業界ではお客さまのみならず、従業員や卸先、出店施設やテナント、ベンダーなど、あらゆるステークホルダーにも愛され、強い組織を作ることも欠かせない。お客さまに愛され、ステークホルダーと強固なチームを結成し、結果、売り上げを伸ばしている企業・ブランドの共通点は、「パーパス」だ。石川俊祐KESIKIパートナーと佐々木康裕Takramディレクター兼ビジネスデザイナー、村上要「WWDJAPAN」編集長が鼎談し、なぜ今、パーパスデザインが求められているのかを語り合った。

村上要WWDJAPAN編集長(以下、村上):日々取材をしていると「パーパス」が不明瞭だったり、そもそも持っていないように見えたりの企業やブランドは少なくないと感じている。特にサステナブルやDXは、「どうやって?」が先行しがちで、そもそもの「なぜ?」、つまり「サステナブルやDXのパーパス」が完全に欠落している場合も多い。同じように、企業やブランドとしてのパーパスも欠落しているのでは?と危惧している。

石川俊祐KESIKIパートナー(以下、石川):ここ数年、企業の大小を問わず「パーパス」が重要視されている。そもそも「なんで働いているのか?」がよく分からなくなり、自らに問いかける人が増えてきた。多くの人が「企業で働くことが正しいのか?」を考え始めた。対価として収入は得ているが、それだけだと生きづらく、満足感が得られなくなってきた。そんな人たちにとって労働はただの作業となってしまうので違和感を覚え始めたのではないか。企業カルチャーに対しても自分に合うか合わないかを意識する人が増え、人間らしい生き方を選択する時代になっているのだろう。高度成長期は大きな上昇気運の中で生きていたが、現在は生き方が多様になり、みんなが頼れるよりどころがなくなっている。“ただなんとなく”が成り立たなくなっている。

佐々木康裕Takramディレクター兼ビジネスデザイナー(以下、佐々木):言葉でいうと「ミッション」や「ビジョン」「パーパス」が乱立しているが、自分なりの定義でいうと、「パーパス」はいわゆる内発的な「自分はこうやりたい」という思いと、社会や環境が時代や会社に求めていることが重なる部分。「パーパス」という価値観の台頭には3つの大きな外的要因がある。まずは気候変動。天然資源を収奪しながらのビジネスはもう続かない。2つ目は消費者の価値観の変化。SDGsを学んでいる若い世代は企業に社会的な役割を期待している。役割を果たさない企業にはバイコット(buycott.BuyとBoycottを組み合わせた造語)などで社会的NOを突きつけるようになった。そして最後は投資家。ESG投資が主流化するにつれて、すでに海外の投資家は、パーパスドリブンじゃない企業には投資をしない。こうした条件がそろってきた。

村上:内的要因、外的要因の双方が「パーパス」の価値を高めている。ただ冒頭の通り、日本の企業やブランドからは「パーパス」が見えない場合も多い。日本、ファッション&ビューティ業界は遅れている?

石川:大陸でつながっている国々は、独自性を保ちながらも隣国を意識して競争もしている。一方の日本は、島国だからなかなか変わらない。特に投資の世界はいまだに売り上げや利益といった数字がファースト・プライオリティだ。ファッション業界では、確かに海外の方がパーパス・ドリブンに徹したブランドが多く、特に新興のD2Cブランドにその傾向が顕著だ。一方、日本のファッションやビューティ業界には旧態依然とした企業が多く、乗り遅れてしまっているのではないか。ただスパイバーや島精機製作所を筆頭に、繊維など特定の分野は異様な進化を遂げている。

佐々木:ファッション業界には年に数回最新コレクションを発表する宿命があり、そこで自分たちの進化を表現しなければいけない。変化に対してある種の解釈をして、実験するサイクルが回りやすい業界だ。そういう意味で、社会性をくみ取りながら、独自のメッセージを組み込んで、商品の形で表現することについては、ほかの業界に比べてはるかに進んでいるどころか先頭を走っている気もする。日本に「パーパス」が明確なブランドが少ないのは、ブランドという“木の実”より、文化や歴史、消費者という“土壌”の問題。例えば欧米の市場は、モノを購入する人を“消費者”ではなく“市民”と捉えるといろんなことが解釈しやすい。一方、日本は常に「消費者の意識がこう変わった」と言う。

村上:「消費者」ではなく「市民」もしくは「生活者」と捉えると、彼らの生活まで変える社会性の変化に敏感になれそうな気がする。社会性が意識できれば、「自分たちは、どんな社会づくりに貢献したいのか?」という「パーパス」が芽生えそうだ。

石川:例えば海外では投資会社でさえ多様な人材が働いている。日本のファッションやビューティ業界に心理学者や文化人類学者、哲学者がいてもいい。

佐々木:大手素材メーカーはR&D(研究開発)に注力しているが、文系の人もいた方がいい。ソニーは先日、文化人類学を学んだ人を採用すると発表したが、アメリカでは30年くらい前からそういう人たちが企業で活躍している。そういう意味でも日本の素材メーカーは面白いし、思考的にも勝負できる。

村上:日本の素材メーカーはR&Dが強いから、ファッション業界においても希望の星。批判覚悟で話せば、今「ファッションとビューティ、面白いのはどっち?」と聞かれたら、答えはビューティで科学的なR&Dに情緒的な感覚も同居している。いずれのビューティ企業も「パーパス」は、「キレイで高揚感を提供したい」など“人由来”。そのゴールに向かって、R&Dに取り組んでいる。

石川:R&Dには「テクノロジー」と「パーパス」の双方が必要。その両方がないとテクノロジーのためのR&Dになりがちだ。アパレルブランド「クラウディ」を展開する銅冶勇人DOYA社長は、「そのアイデアは雇用を増やすか?」や「そのテクノロジーは人のスキルを尊重しているか?」と問いかけている。多分、人の活躍の機会を奪うAIには興味がない。アフリカでの会社や学校の設立に尽力しているせいか、新しいアイデアやイノベーションを「雇用を増やすのか?」「人のスキルを育てるのか?」という視点で捉えている。

佐々木:最近はNFT(鑑定書・所有証明書付きのデジタルデータ)が話題だが、ナイキも昨年末、仮想スニーカーやグッズをデザインする新興企業のRTFKTを買収した。そういう技術を理解している人がいなければ、買収できなかっただろう。自分たちが属している産業だけじゃなく、これからの社会が向かっていく先に必要な技術を理解している。ニューヨークには「われわれは食べ物ではなく、食を通じたライフスタイルを提供している」というアートディレクターが監修し、皿やトートバッグを販売したりコミュニティーを作ったりしているレストランがある。「自分たちは何屋なのか?」を再定義して生まれたズレを埋めるため、新たなビジネスと人材が生まれた好例だと思う。日本のファッション業界でそんな動きを見せている企業は少ない。

村上:企業のトップが強く言い続け、一方みんなで一緒に考えてボトムアップしていく双方が必要だ。

佐々木:「パーパス」の浸透は深淵なテーマだ。トップダウンとボトムアップのバランスは難しい。日本は、特定の人・部署だけで「パーパス」を策定しがちだが、理想は事業のど真ん中に「パーパス」があり、プロダクトからコミュニケーションまでいろいろな活動に体現されていること。

村上:サステナやDXの専門部隊も組織の真ん中で誕生していない。だからチームは異物に捉えられ、組織内でハレーションが起きている。ダイバーシティー推進委員が一番孤立している、という姿は何度も見てきた。

佐々木:ナイキのジョン・ドナホーCEOはテック業界出身。いわゆる非主流系から初めてCEOに就任した。トップがハードルや壁を取り除いてあげないといけない。それには評価の仕方まで変える必要がある。

石川:経済性と同じくらい社会性や文化性も大切。そして日本は、社会性と文化性を混在しがち。内発的動機に由来する文化性を忘れたまま、社会性に引っ張られた真面目な「パーパス」ばかりになりそうで心配だ。「社会的に良い会社を作りました」なんて企業は世の中にごまんとある。自分らしいアプローチを考えることが多様性であり、豊かさ。「パーパス」という言葉にも少し懸念がある。社会性とだけひもづけて語っている人が多い。確かに「パーパス」は意義を意味するし、社会的であるべきだし、外圧もあるから策定すべきもの。でもそれだけだと面白みに欠ける。「パーパス」は、意義であり、意志。「カルチャーを作りたい」という文化的な視点がないと、パーパスフルになれない。「パーパス」が適切か否かのチェック項目は、「“ならでは”か?」「ワクワクするか?」そして「今の社会に適しているか?」。最初の2つが欠落してしまうと、みんなを動かせない。

村上:パーパスが明確だと組織作りも変わるだろう。例えばマクアケの採用面接は、半分人生相談みたいだそう。「ルルレモン」の採用面接も面白い。スキルの話を一切せず、「あなたは何をやりたいの?」「それだったら、この部分が『ルルレモン』で実現できるかもしれないね」「こうやって双方寄り添っていけたらいいね」という感じ。

石川:企業と個人が対等ってことでもある。イギリスにあるサンドイッチチェーン「プレタ・マンジェ」も同様で、個人の性格や個性を重視して採用を進めている。自由と責任、そして自立の三位一体の仕組みが生み出すムードは、ユーザーにも伝わっている。

佐々木:従業員という立場に属する人が変わり始めている。今後はますます社長の意を受けて実行する人ではなく、意思を持った人として行動するようになる。自分のやりたいことを会社でどう実現するか。その考えが主流になると、今の大企業は苦しくなると思う。変化しきれないだろうなと。

石川:日本に「パタゴニア」や「ラッシュ」のようなアクティビスト的な企業、社会課題の解決に逆行することに対して「うちはやりません」と強く表明できるブランドが少ないのは、日本人の危機意識が低いことも一因。世界の市民は、もっと強い危機感を持っている。社会課題をクリアするためにも「パーパス」を一気通貫で届けることが必須だ。

佐々木:そういう意味でも企業やブランドはパーパスをどう浸透させていくのかがものすごく重要になる。


WHAT'S Takram

 世界を舞台に活躍するデザイン・イノベーション・ファーム。未来をつくる人、変化を生み出す組織のパートナーとして、プロダクトからサービス、ブランドから事業まで、デザインの力でイノベーションを生み出す。グローバルカンパニーからスタートアップまで多種多様な業種のクライアントを持つ。

WHAT'S KESIKI

 人や社会や地球に愛される会社をデザインし、「優しさ」が巡る経済の実現を目指すクリエイティブ・コミュニティー集団。デザインコンサルティングや企業との共同プロジェクト、企業のリブランディング、教育プログラム設計、メディア開発、投資事業などさまざまなプロジェクトを手掛ける。


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 セミナーを通して、経済性と社会性、何より内から湧き出るモチベーションなどの文化性を網羅した「パーパス」を見いだし、それを共有することで強い組織に、製品やコミュニケーションの形で発信することで顧客に愛されるブランドに進化することを願っています。(WWDJAPAN編集長 村上要)
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