PROFILE:(いしかわ・りょう)1975年、静岡県出身。2000年にせーのを創業。04年にメンズブランド「ヴァンキッシュ」をスタート。14年にウサギをアイコンにしたブランド「#FR2」を立ち上げた。25年10月31日付でせーの社長を退任し、RI Dを設立。現在は“日本一のフリーター”として、約40社のバイトのシフトに四苦八苦している。愛車は常時10台前後所有
木下“HIDDY”秀昭/リトルアンデルセン、シークレットベース社長
PROFILE:(きのした・ひでぃー・ひであき)大阪府生まれ、日本体育大学入学を期に関東へ上京。学生時代にアメリカンカルチャーに大きな影響を受け、USトイショップ「ZAAP!」でバイトしたことがきっかけで、2001年12月24日、日本製のオリジナルソフビ人形を中心としたトイショップ「シークレットベース」をオープン。店名は「BxH」のヒカル氏が命名した。24年5月、デザイナーズキッズブランド「ヒステリックミニ」を展開するリトルアンデルセンの社長に就任
PHOTO:RIEKA TAKAHASHI
“ボンドカー”にちなんで名付けた「ヴァンキッシュ(VANQUISH)」の創業者であり、これまで50台以上の車を乗り継いできた石川涼が、ファッション業界で活躍する“センスのいい人”の愛車を通して、その人ならではの価値観を探る連載「ガレージおれ」。記念すべき初のゲストは、原宿発のトイブランド「シークレットベース(SECRET BASE)」の創業者で、「ヒステリックミニ(HYSTERIC MINI)」の社長も務めるHIDDYさん。ストリートカルチャーの最前線で培った感性から選んだ愛車「ディフェンダー(DEFENDER)」とともに、“おれ”だけのスタイルをピックアップする。(この記事は「WWDJAPAN」2026年8月31日号からの抜粋です)
Land Rover Defender 110 Double Cab Pickup
角張ったボディに、むき出しの荷台。快適性や流麗さとは無縁の、道具然とした無骨な佇まい。HIDDYさんが乗る「ディフェンダー」は、4ドアのキャビンと荷台を組み合わせたピックアップ仕様の1台だ。軍用車にもルーツを持つ「ディフェンダー」らしい簡素な作りとタフなキャラクターを色濃く残しながら、ダブルキャブならではの独特なプロポーションが目を引く。雨に弱いむき出しの荷台や荒々しい乗り心地など、その“不便さ”まで含めて楽しんでいる。「ファッションは窮屈なことから始まる」とHIDDYさんが話すように、便利だから選ぶのではない。そんな価値観は、トイや子ども服を愛する初期衝動のような純粋な感性とも、どこか重なって見える。
石川涼(以下、石川):これ、何年式?
木下“HIDDY”秀昭(以下、HIDDY):2002年式です。この前はショートの「90」に乗ってたんですよ。初めて「ディフェンダー」を見た時にカッコいいなと思って、探してたらディーラーから「めちゃくちゃいいの出たで」って連絡が来て。ろくに調べもせずに買ったら、アメリカ輸出用の左ハンドル・オートマ車だったんです。
石川:へえ!
HIDDY:10年くらい乗ってたんですけど、だんだん飽きてきたんで、次はロング(110)に乗ろうと思ってディーラーへ持っていったら、ちょうどこのピックアップが入ってきたんです。そのときのオーナーが歯医者さんで、3台持ってるけど全然乗らないから売りたいって。「えー!俺、買いますよ」って感じで即決でした。もちろん、ディーラーがグッと入ってきて、「じゃあうち通そう」みたいな(笑)。まぁそりゃそうですよね。で、いざ契約が終わった後に右ハンドルのマニュアル車だってことに気づいたんです。ディーラーに「オートマないんですか?」って聞いたら、「ほぼないよ。君が前に乗ってたのが奇跡的にオートマだっただけ。だから下取りも高かったでしょ」って。「確かに。でも俺、都内でマニュアル嫌なんですけど」って話したら、そこの店長が「オートマに載せ替えましょうか」って提案してくれたんです。
石川:載せ替えてくれたんだ。
HIDDY:はい。でも前のオーナーさんから「ディフェンダーでオートマに乗るなんてアホや!乗るな!」ってめちゃくちゃ怒られて(笑)。結局オートマに改造したんですけど、それだけで280万くらいかかりましたよ。「えー!こんなしますか?」ってまた驚いて。
石川:そりゃそれくらいするよね。
HIDDY:でも、オートマにして3日目くらいにディーラーから電話がかかってきて。「他のお客さんがみんな『オートマに乗せてくれ』『そのピックアップを売ってくれ』って言ってる」って(笑)。売りませんでしたけどね。
石川:どれくらい「ディフェンダー」に乗ってるの?
HIDDY:通算で15年くらいですね。このピックアップは7〜8年目になります。
石川:前に乗ってたショートは何色?
HIDDY:それも黒です。途中で飽きて、“原宿っぽく”マット(艶消し塗装)にしたんですけど、それが致命傷でした。
──「マットが原宿っぽい」というのは?
HIDDY:あまり車に詳しくない人って、みんなが艶ありだから「艶なしにしよう」って見た目から入りがちなんですよ。でも、実はそれってマイナスしかないというか。汚れはすごいし、普通の洗車機では洗われへんし。全部解体して艶なしにしたらまだよかったんですけど、そうなると車買えるくらいの値段になるから、半解体でいいですって。そしたら水の逃げ道が詰まっちゃって、雨降ると車内に金魚が飼えるくらい水が溜まって、下が腐ってきたんですね。
石川:そもそも鉄板剥き出しの車だもんね。
HIDDY:フライパンです。あまりに水が入るからディーラーに相談したら、「そういう車やから大丈夫や」って言われて。
石川:何が大丈夫かよくわからない(笑)。でも、すごく雰囲気があっていいよね。俺もこれ、買おうと思ったことあるんだけど、うちの役員が昔買ったのにたまに乗らせてもらってたから、それでいいかみたいな感じで満足しちゃった。でも、マニュアルの「ディフェンダー」って全然走らないよね。パワーはないし、坂道登らないし、スピードも80キロくらいしか出ない。
──車好きとしては、やっぱりマニュアルの方が魅力的ですか?
石川:なんというか、マニュアルだと“ガンダムに乗ってる感じ”がするじゃん。俺はガンダムに乗りたくて車に乗ってるようなものだから。
HIDDY:ガンダムに乗ってる感じはしますね。この間、ギアの調子が悪くなって、友だちの車屋さんに頼んだら、「俺それぐらいできるよ」ってバーって変えてくれたんですよ。でも処理が甘くて、ギア上げたり下げたりするたびに“ガチャガチャガチャ”っていうようになって。乗った人がみんな「大丈夫?変な音してますよ」って言うんですけど、俺は「いやこれがカッコいいんや」って。ガンダムみたいで気に入ってます。
石川:HIDDY君ってなんかいいよね。癖のある車も“大阪のノリ”で楽しんじゃうところとか(笑)。
車もファッションも、
“おしゃれは我慢”
──おもちゃに通ずるところもありますか?
HIDDY:それはありますね。ほんまにフライパンなんですよ。東京ってゲレンデ(メルセデス・ベンツ Gクラス)乗ってる人がめちゃくちゃ多いじゃないですか。だから他のがいいなっていう天邪鬼な気持ちがあったんですけど、車に詳しくない人からは、これに乗ってても「ゲレンデ乗ってますよね」って言われますけど。
石川:今、東京なんて、タクシーかゲレンデかってくらい走ってるもんね。だからこそ、このピックアップに乗ってるのはすごくおしゃれ。ピックアップって本来、農家の人くらいしか使い道がないからね。
──荷台には何か乗せたりするんですか?
HIDDY:荷物をダンボールで載せますけど、マジで載らないです(笑)。「ファッションは窮屈なことから始める」とか「おしゃれは我慢」って言うじゃないですか。ちっちゃめの靴履くとか、動きにくい服着るみたいな。もうまさしくそれです。快適性はゼロだけど、そこが気に入ってます。
石川:本当にそうだよね。
HIDDY:普通の人が乗ったら「なんて乗りづらい車だ」って言うと思いますよ。荷物を積んでて急に雨が降ったら濡れるし、埃まみれになるし、曇りの日はドキドキしますね。
石川:でも、この後ろのカーブしたガラスとか、窓の下を開けて風を取り込む仕組みとか、軍用車っぽくて可愛いよね。
HIDDY:ちょっとだけタイヤとホイールもでっかいのにしてるんですよ。
石川:あ、そうなんだ。そういう、聞かないと分からないようなこだわりで見た目が違うんだよね。
HIDDY:でも余計なことしてるから、日本の綺麗な道路だと跳ねまくっちゃって。高速道路とかパリダカールラリーみたいな(笑)。「バラバラになるんちゃうか」って思いながら乗ってます。
男のロマンが詰まったフォルムに
遊び心を少々効かせて
無骨なスチールが剥き出しになった荷台は、道具としてのリアリティを物語る「ディフェンダー ピックアップ」ならではの象徴。洗練された現代のクルマとは一線を画す、無骨で飾らない佇まいが男心をくすぐる。
クラシカルな雰囲気を醸し出す丸型のテールランプと、歴史を感じさせる“LAND ROVER”のオーバルエンブレム。武骨な漆黒のボディパネルには、HIDDYさんのライフワークでもある「ヒステリックミニ」のチャームがさりげなくあしらわれ、ヘビーデューティな佇まいのなかに遊び心が光る。
軍用車としての出自を感じさせる、必要最小限の機能に削ぎ落とされたスパルタンなインパネまわり。クラシカルな意匠を残したコックピットとATシフトの対比に、オーナーならではのこだわりと独自のスタイルが覗く。
鉄の塊を思わせる漆黒のボディ。直線を基調とした角張ったフォルムや、リベットがのぞくパネルなど、飾り気のない機能本位の造形が「ディフェンダー」らしさを物語る。HIDDYさん自身は、その鉄板むき出しのスタイルを「フライパンみたい」と表現。ピカピカに磨き上げるのではなく、キズや汚れさえも味になるようなタフな表情が、この一台の魅力だ。
移動する個室に詰め込む、
仕事道具と小さな気遣い
普段はカバンすら持ちたくない手ぶら派のHIDDYさんにとって、車は自由で快適な“移動する個室”だ。トレードマークのサングラスを差し込み、出先での作業用にパソコンを積む。そして欠かせないのが、友人やお世話になっている人に渡すステッカーや靴下といったちょっとした「お土産」だ。荷物を気兼ねなく積み込める車だからこそ生まれる気遣いとライフスタイルが、そこには詰まっている。