
世界最大級のニッチフレグランスの国際展示会「エクサンス 2026(Esxence 2026)」が6月3〜6日、イタリア・ミラノのアリアンツ・ミコ・ミラノ・コンベンションセンターで開催された。16回目を迎えた今回は、“Sensing The World(世界を感じる)”をテーマに掲げ、40カ国以上から400超のブランドが集結。そのうち108ブランドが初参加となり、新たなビジネス機会を求めるバイヤーやディストリビューター、香水愛好家たちの熱気に包まれた。展示面積は前年比約3000平方メートル増の約2万平方メートルに拡大し、来場者数は2万人を突破。会場ではアートインスタレーションや業界関係者によるカンファレンスを実施。また、開催期間中は市内各所でブランドによる新作発表や体験型イベント、パーティーなどが開催され、街全体が香りの祭典一色に染まった。
「エクサンス」が特別な理由
「エクサンス」が世界中のフレグランス関係者を引き付ける理由は、その規模だけではない。2009年に創設された同展は、アーティスティック・パフューマリー(ニッチフレグランス)に特化した世界初の国際見本市として知られ、現在は業界最大級の商談と情報発信の場へと成長した。アーティスティック・パフューマリーは、クリエイションやストーリー性、調香師の表現を重視し、1990年代以降に欧州を中心に広がった。その中心地の一つとなったのがミラノであり、「エクサンス」は新興ブランドの登竜門であると同時に、世界のフレグランス市場の潮流を映し出す場として発展してきた。
近年は、市場の拡大とともに存在感をさらに強めている。2025年からは世界最大級のビューティ見本市「コスモプロフ ワールドワイド ボローニャ(Cosmoprof Worldwide Bologna)」を運営するボローニャフィエレ・コスモプロフ(BOLOGNAFIERE COSMOPROF)が運営パートナーとして加わった。グローバルなネットワークやバイヤー誘致力を背景に、「エクサンス」はニッチフレグランスの専門見本市から、世界市場の潮流を占うプラットフォームへと進化を続けている。
ボローニャフィエレ・コスモプロフのエンリコ・ザンニーニ(Enrico Zannini)=ゼネラルディレクターは開会式で「複雑な国際情勢の中でもフレグランス市場は成長を続けている。アーティスティック・パフューマリーはその中核を担う存在であり、『エクサンス』は世界中のブランドやバイヤー、香水愛好家を結び付ける場としての役割を強めている」と語った。「エクサンス」共同創設者であるマウリツィオ・カヴェッツァーリ(Maurizio Cavezzali)=エクイップ・エグジビット(EQUIPE EXIBIT)最高経営責任者(CEO)も「過去最大規模の開催」として、30歳未満の若年層の来場者増加を成果として挙げるなど、ニッチフレグランス市場の力強い成長を印象付けた。
2026年に見えた最新トレンドは?
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4日間の会期を通じて見えてきたのは、香りを単なる嗅覚体験ではなく、複数の感覚に訴えかける総合的な体験として提案する動きだ。会場では原料や香調だけでなく、ブースデザインやビジュアル表現、ストーリーテリングまで含めてブランドの世界観を構築する試みが目立った。
香調では2つの大きな流れが見て取れた。1つは近年のトレンドであるバニラやミルクなど食や飲料を着想源とするグルマン系やフルーティー系だ。親しみと高揚感を兼ね備えた香りが引き続き支持を集めた。もう1つはリネンやムスク、ハーバルノートに代表されるグリーン・クリーン系で、シンプルでミニマルな美意識を反映した香りが多く見られた。
また、原料面では日本酒、抹茶、ユズ、コンブチャ、菊などアジア由来の素材を取り入れた提案が存在感を発揮した。地域性や文化的背景を香りで表現する動きも活発で、中東ブランドが得意とする華やかで力強い表現と、日本を含むアジアブランドによる繊細で余韻を重視したアプローチとの対比も印象的だった。さらに、自然由来の廃材を活用した素材やアートピースのようなボトルキャップなど、パッケージデザインにおいてもサステナビリティとクラフツマンシップを重視する傾向が見られた。
「エクサンス 2026」注目のイタリアブランド
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伝統的な香料と現代的なアコードを融合するブランド。クラシックな調香技術を土台にしながら、予想外の素材使いやモダンな解釈を加えた香りで知られる。伝統と革新を行き来する独創的なクリエイションで存在感を示した
ミラノ発の新進気鋭ブランド。ファッションやデザイン都市としてのミラノの感性を反映した洗練されたコレクションを展開する。モダンなボトルデザインと現代的な香りの提案で、若い世代を中心に注目を集めている
世界的ヒット作“ビアンコ ラテ”で知られる人気ブランド。トスカーナの自然やライフスタイルから着想を得た香り作りを行う。近年のグルマン系ブームを象徴する存在として、多くのバイヤーや来場者の関心を集めた
宗教芸術や建築、美術からインスピレーションを得た独創的なブランド。創業者はバチカン関連の祭服デザイナーとしても知られる。アートと香りを融合した唯一無二の世界観で、ニッチフレグランス界を代表する存在の一つとなっている
旅や文学、芸術から着想を得た香りで知られるブランド。ブランド名は恋人たちを描いたルネサンス期の物語に由来する。詩的なストーリーと繊細な調香によって、熱心なフレグランスファンを魅了し続けている
オペラや演劇から着想を得たストーリーテリングが特徴のミラノ発ブランド。香りを一つの舞台作品として構成し、シーンごとの情景や感情を表現する。芸術性の高い世界観と緻密な調香で世界中のフレグランスファンから支持を集める
今年は中東ブランドによる華やかで力強い香りの提案や、韓国ブランドによる大胆なコンセプトとSNS時代を意識したコミュニケーションが存在感を示した。一方で、開催国イタリアのブランドは、香りを文化や芸術の延長線上で捉える姿勢が際立った。香りそのものだけでなく、文学や建築、宗教芸術、食、土地の記憶などその背景にある世界観を含めて提案するストーリーテリングの強みが来場者を魅了した。
また、イタリアブランドは世界的なトレンドであるグルマン系やスキンセントを取り入れながらも、流行を追うだけではなく独自の解釈を加えている点も特徴だ。ニッチフレグランス市場が拡大を続ける中でも、創造性やクラフツマンシップを重視する姿勢によりその文化的中心地の一つであり続けている。
データから読み解く
フレグランス市場の今とこれから
会期中に開催されたカンファレンスには、60人を超えるスピーカーが登壇。さまざまなプレゼンテーションやディスカッションを行った。世界中のフレグランスの発売情報や香調分類を収録する業界最大級データベース「フレグランシズ・オブ・ザ・ワールド(Fragrances of the World)」の評価・コミュニケーションマネージャーを務めるクレイトン・イロラヒア(Clayton Ilolahia)氏は、フレグランス市場の変化を示すデータを共有した。イロラヒア氏によると、25年に発売された新作フレグランスは3525品で前年比約3.9%増加。そのうちニッチフレグランスが全体の51%を占め、初めて過半数に達したという。
また、イロラヒア氏は展示会の役割にも変化が起きていると指摘する。見本市は新商品を発表する場から、ブランドの世界観やコミュニティーを育む場へと進化。消費者は香りそのものだけでなく、アートや音楽、食文化などを含めた多感覚的な体験を求めるようになっているという。
今年の「エクサンス」でも、ブランドは香りだけでなくデザインやストーリーテリング、体験価値を競い合っていた。市場が成熟する中、それぞれのブランドが独自の世界観をどのように構築していくかに注目が集まる。第17回「エクサンス」は27年2月25〜28日、ミラノ・ファッションウイーク期間中にアリアンツ・ミコ・ミラノ・コンベンションセンターで開催される予定だ。
※イタリア大使館貿易促進部では、「エクサンス」主催団体との協力の下、「エクサンス」のプロモーション、同展へのバイヤー招聘プログラムを実施しています
イタリア大使館貿易促進部
03-3475-1401