ビジネス

オンワードの敏腕マーケッターが語る「アパレルのデジタルマーケティングに必要なステップ」

 世の中全体でデジタル化が進む中で、どの企業にとってもデジタルマーケティングの知識や実行力の必要性が高まりつつある。ただ、デジタルマーケティングと一口に言っても、必要なノウハウやKPIは業種やポジションによっても異なる。アパレル業界にとってのデジタルマーケティングとは、何が必要でどんな手法を取るべきなのか?オンワードグループの自社ECサイト「オンワード・クローゼット」の急成長を支えてきた、オンワードデジタルラボの小泉雄也氏と、アパレルECでのMDやマーケティングなどの経歴を持ち、現在新プロダクトのバーチャサイズ アナリティクスの開発を牽引するバーチャサイズの中村智幸氏に話を聞いた。


「オンワード・クローゼット」を
ブーストさせたデジタル
マーケティングの基本戦略

WWDJAPAN(以下、WWD):今、アパレル業界でもデジタルマーケティングが必要な理由をどう考えているか。

オンワードデジタルラボ小泉雄也氏(以下、小泉):社会全体がデジタルシフトする中、消費者の購買行動も変化しています。特にBtoCの小売業は、お客さまが認知から購入に至るまでのプロセスと、流通経路や販売チャネルもかつてないほど複雑に多様化しているため、デジタルマーケティングが必須になっています。

WWD:オンワードは早くから自社EC「オンワード・クローゼット」を重視し、実際に大手アパレルの中でも自社EC比率の高さが抜きん出ている。デジタルマーケティングは何を重視してきたのか?

小泉:自社ECを重要視する中で注力しているのは、お客さま理解の解像度を上げることです。お客さまが何を見て、いつ何を買ったなど、定量的なデータを、お客さま単位でしっかりと見て理解することを心掛けてきました。現在、会員プログラムであるオンワードメンバーズの会員数は約400万人。400万人全員を1人ずつ見ることはできないので、ロイヤリティに応じていくつかのセグメントに分類しています。重要なのは、自分たちにとっての「理想の状態のお客さま」がどういった状態なのかを、アクセス数や購入回数、購入金額などの数字に落とし込んで定義すること。その上で、どのようにして理想的な状態のお客さまを最大化するか、そのための戦略や施策を作っていく。これがオンワードのデジタルマーケティングの基本的なやり方です。

効果的なアパレルのデジマ施策とは?

WWD:では、施策はどう決めて実行していく?

小泉:例えば新規顧客の獲得では、むやみにアプローチするような施策はせず、最終的に「理想の状態のお客さま」になっていただける可能性の高い人(LTVが高いユーザー)を獲得することに注力しています。きちんと「質の良い新規ユーザー」を定義さえできていれば、そうしたユーザーの多くは初回購入から半年、1年という時間軸で見ると、きちんと2回、3回と購入いただいています。つまり、新規獲得のCPA(顧客獲得単価)をいかにして下げるか、ではなく、継続購入しやすい新規顧客の獲得に注力する方が長い目で見ればROI(費用対効果)は高い、ということです。このように中長期的に見てLTV向上に寄与する手法を把握して、そこに投資を優先することで費用対効果の最大化を図っています。

WWD:ちなみにこれまで効果があった施策は?

小泉:ブランドや企業のポジションや状態によって効果の高い施策は異なる、ということは大前提ですが、当社でパフォーマンスが高かった施策の一例として、「Lサイズブランド」を活用した事例があります。オンワードの場合、主力ブランドの「23区」や「自由区」には、百貨店の売り場などで大きめサイズの展開を行ってきました。これをフックにウェブ広告を運用すると非常にLTVが高い。これはサイズの幅を広く取れるネット通販とそもそも相性が良かったとも言えるし、そもそも当社が持っていた強みや優位性をデジタルマーケティングにうまく落とし込めたとも言えます。

中村智幸バーチャサイズ プロダクトマネージャー(以下、中村):バーチャサイズの場合、独自の共通IDを持っていて、お客さまは自分の身長や体重、年齢のほかに、自分の身体のサイズで気になる部位を書けるのですが、ユーザーの約4割が記入しています。実はこのバーチャサイズのユーザーデータとオンワードの購入データをかけ合わせたところ、体に気になるパーツがあると感じている方が、オンワード・クローゼットでの年間の購入金額が高い。つまり、自分の体形に合う服がなかなか見つからないが、オンワード・クローゼットに行けばあると認識している、と分析できます。その意味でも「Lサイズ」をフックにしたマーケティングは、理にかなっています。


アパレルのデジマで
抑えておくべきポイントとは?

WWD:アパレル企業にとって、デジタルマーケティングで抑えておくべきポイントは?

小泉:冒頭でも申し上げましたが、やはり「お客さまを知り、その状態を数値で定義すること」だと思います。数十万、数百万人いる会員全員を知るというのは難しいと思いますが、顧客に関するデータを収集、分析していく過程で「理想とすべき顧客像」が見えてきます。あとは、その状態にもっていくために、どういった施策を打っていくかを考えることだと思います。

WWD:しかし、そもそもそれをできる人材をどう育成、あるいは獲得すべきなのか?

中村:当社のクライアントでも、データをどう扱っていいか分からないというご意見は昔から多くありました。そこで開発したのが、アパレルに関わる購買/マーケティングデータを一元管理できる「バーチャサイズ アナリティクス」です。ユーザーが商品ページをいつ閲覧し、購入せずに離脱したのか、どの商品を比較したのかなどが分かったり、サイズに関してだと、弊社ではMサイズをリコメンドしたが実際に購入されたのはXLみたいなことも分かるので、この場合はもしかするとオーバーサイズで着たかったのでは、といった見方が可能になります。


ありそうでなかった
「バーチャサイズ アナリティクス」は
どう使う?

WWD:小泉さんから見て「バーチャサイズ アナリティクス」はどうか?

小泉:まだ少し触ってみた感じですが、UI/UXが優れていて、使いやすそうに見えます。実はこれ、結構重要です。まずは触ってみたくなるかどうか、みたいなところは新ツールや、アパレルのデジタルマーケティングの現場のように他から異動してきた人が多い部署には重要だと思います。そして実際に大変使いやすい(笑)。シンプルでわかりやすいデザインで、ポチポチとクリックしてサクサクとデータが見れるし、「バーチャサイズ」らしく、サイズにひも付く情報が非常に分かりやすく構成されているのもいい。実際にこの「バーチャサイズ アナリティクス」を見て気付いたのですが、アパレルに特化したデジタルマーケティング分析の専用ツールって意外になかったんじゃないでしょうか?少なくとも私は初めて見ました。

中村:ありがとうございます。なかったと自負しています。「ポチポチとクリック」という意味で言えば、例えば過去18カ月分のデータは、デフォルトで「アーリーアダプター」「セールハンター」など9つほどのカテゴリにセグメントされていて、数回のクリックだけで「過去18ヶ月間に1回だけ購入したユーザー数」なども簡単に確認できます。もちろん、そのセグメントの中で男女比や年齢分布、身長体重の分布、購入したものなどドリルダウンして分析することも可能です。

小泉:ECを行う上で、分かっていた方がいいことがあらかじめ項目になっているのは、とてもいいと思います。

WWD:バーチャサイズアナリティクスの導入金額は。

中村:アパレルのデジタルマーケティング初心者向けプランは無料です。小泉さんのようなエキスパート向けのハイグレードプランでも月額10万円台でご利用いただけます。

WWD:最後に、バーチャサイズを使ったデータ活用のアイデアを教えて下さい。

小泉:まだ企画段階ではありますが、「こういうのが見たかった」と思われる情報をコンテンツ化して伝えていきたいと考えています。服選びの際には、仮に同じ身長と体重の二人がいたとしても、体形に関する悩みや、実現したいスタイルはそれぞれ異なると思います。そういった個々の悩みを持つ方に刺さるコンテンツを見せれば、アクセス数もコンバージョンも上がるだろうな、と思います。バーチャサイズのデータがあればどんなコンテンツを作成すべきか考えるヒントになるし、然るべき人に最適なコンテンツをレコメンドすることもできる。これはかなり効果があるだろうな、と思っています。

TEXT:MIWAKO ANNEN

問い合わせ先
バーチャサイズ
japan@virtusize.com