DXを駆使したサプライチェーンのシステム構築が最も先進的なのは、三菱商事ファッションだろう。中でも、快進撃を続ける作業服のワークマンとの取り組みは緊密だ。三菱商事ファッションが手掛ける耐久撥水などに優れた機能加工「ディアマジック ダイレクト」の使用をきっかけに約3年前から拡大し、商品作りの重要なパートナーとなっている。双方のアイデアをキャッチボールしながらデザインした3Dモデリングによるデジタルサンプルチェックで商品開発を進めており、さらにアニメーションによる展示会開催や、など、デジタルを利用した効率的な次世代型ビジネスモデルを内製で整備中だ。(この記事はWWDジャパン2021年3月1日号からの抜粋です)
ワークマンの中野登仁・商品部ワーキングウェア マーチャンダイザー兼「Field Core」ブランドマネジャー チーフデザインオフィサーは、「三菱商事ファッションの商品開発に向けた総合力と実行のスピードが当社のテンポに合っている。こだわりが人一倍強い私は通常10回ほどサンプルの修正を繰り返すが、2~3週間要していたサンプル制作が3DCGによる5~10分の修正で早期に済んでしまう」とDXの効果を話す。独自のデジタルツールも開発中で、体の動きによって着圧を可視化してパターンを検証できるフィッティングマップはワークマン用にアバターを制作した。「例えば、かがんだ時はパンツのどの部分にどのくらいの圧力がかかるのか。日常着とは違うサイズ感を持つ作業服にとって、スムーズな動作を生み出すパターンが最も重要で、制作に時間がかかる。ワークマンの標準サイズを共有してカスタマイズができることで着心地の精度が高まっている」。3DCGで作成したサンプルと、実際に出来上がった商品とのギャップを埋めるマンツーマンの取り組みだ。
ワークマンの2020年4~12月の営業総収入は前年同期比16.1%増の831億円、営業利益は同23.6%増の201億円とコロナ禍でも高伸した。「好調理由はいろいろあるが、商品について言えば、驚きの機能を軸にデザインと価格のバランスが差別化につながっていることだ」と説明する。
「商品開発、店舗のオペレーション、働き方改革などあらゆる場面でDXが必要だ。ワークマンが信頼されている低価格を大切にしながら、一つ一つデジタル化を図ることで、コスト削減につながるスピードアップや効率化を進めたい」とDXの可能性に期待を示した。
三菱商事ファッションの片岡翔太・営業第三部第2部Cチーム兼第1部Aチームは、「ワークマンの成長スピードに対応した提案はDXで可能にできる。フィッティングマップなど蓄積される価値あるデータを駆使して、今後もコスト削減につながる精度の高いモノ作りを発展させたい」と話した。
3Dモデリングとは?
生地スワッチ、パターンCADデータ、仕様書データなどを使用し、ソフトを活用することで制作する3DCG。生地、柄、色の置き換えやパターンの修正がリアルタイムでできるバーチャルなサンプル製作が可能になることで、実物のサンプルを制作するコストの削減、企画開発に要するリードタイムの短縮のほか、EC、展示会、ショーでの活用などさまざまな面での効率化、精度アップに効果を上げている。3Dモデリングソフトを提供しているのは、東レACS、島精機製作所、デジタルファッション、韓国の「CLO」が代表的な企業。今年1月、ファッションデザインエンジニヤリング協会が、「3Dモデリスト」の資格検定制度を設け、職業としての注目度が高まっている。
DXを後押しするTFLの新しい動き
東京ファッションテクノロジーラボ(TFL)は、最新のデジタルテクノロジーを駆使してファッション産業を変えていく人材育成を目的として、2017年に東京・原宿で開校されたファッションテックスクール。最先端技術(3Dモデリング、VR、AR、アニメーションなど)を活用できるファッションデザイナーやクリエイター、次代のビジネスの創業・起業を目指す教育カリキュラムが特徴だ。代表は、バンタンデザイン研究所出身で、三陽商会などでキャリアを積んだ市川雄司氏。繊維商社ヤギとの新会社設立(P.7参照)、ファッション専門学校との学校同士の連携、「3Dモデリスト」の資格検定制度を共同で立ち上げるなど、ファッション業界のDXを後押しする動きが活発化している。
CLOはなぜ人気なのか?
「CLO(クロ)」は韓国のクロバーチャルファッションが手掛けるアパレル向け3D着装シミュレーションシステムで、日本はユカ アンド アルファが約10年前から代理店として販売。3D技術を駆使することでデザイン発想やパターンの管理、製品開発、フィッティング、デジタルカタログ制作などあらゆるプロセスで効率化が実現できる。「操作のスピードや利便性が強み」と笛木愛美ユカ アンド アルファ東京本社マネージャー。