ファッション

一つの世界観で次の時代へと向かう「ランバン」

 今年130周年を迎えた「ランバン(LANVIN)」は、1月にブルーノ・シアレッリ(Bruno Sialelli)=クリエイティブ・ディレクターを迎え、次の時代への歩みを進めている。その軸となるのは、ウィメンズとメンズのウエアからアクセサリーまでを一つの世界観の中で表現すること。創業者であるジャンヌ・ランバン(Jeanne Lanvin)のルーツや長い歴史の中で築かれてきたヘリテージを大切にしながらも、新しさを探求している。

2020年春夏コレクションは
夢の国から広がるストーリー

 2020年春夏コレクションのタイトルは、「夢の国」。パリにあるケ・ブランリ美術館の緑が生い茂る庭園を舞台に、幻想的なストーリーを描いた。着想源の一つは、1900年代初めにウィンザー・マッケイ(Winsor McCay)が発表し、「ニューヨーク・ヘラルド(The New York Herald)」紙に連載されていたコミックストリップ「夢の国のリトル・ニモ(Little Nemo in Slumberland)」。少年の夢の中での冒険を、デザイナー自身の幼少期の記憶や「ランバン」の歴史と重ね合わせた。コレクションの軸となるのは、パステルカラーやベージュなどの優しい色合いと、ゆったりとしたシルエット。コクーンシルエットのスーツや流れるようなイブニングドレスから、カジュアルなデニムやコミックプリントのアイテムまでをそろえ、エフォートレスなスタイルを提案する。そこにアクセントに加えるのは、メゾンのルーツでもあるハットとコンテンポラリーなアクセサリー。ショーには、世界観を共有するメンズのルックも登場した。

新たなシグネチャー
“フック”バッグに注目

 “フック”バッグは、シアレッリ=クリエイティブ・ディレクターが手掛けた初のシグネチャーバッグ。半分はすっきりとシャープ、もう半分は丸みを帯びた形状が特徴で、それが釣り針を想起させることから名付けられた。素材は柔らかなカーフレザーを使用。収納力と軽やかさを兼ね備え、デイリーユースに最適なアイテムに仕上げられている。3サイズ展開で、単色からバイカラーやプリントミックスまでをラインアップ。また、チェーンバッグタイプの“フック チェーン”も提案する。

“「ランバン」にふさわしい
新しさの探求を続けていく”

 新しい「ランバン」確立のカギを握るのは、シアレッリ=クリエイティブ・ディレクターだ。「難しいと感じたのは、同じメゾンでありながらメンズとウィメンズが全く異なるコンセプトやメッセージを持っていたこと」と就任当時を振り返る彼は、ブランドのアーカイブを研究。「子ども服からウエアに進出した創業者にとって重要だった“ノスタルジー”や“イノセンス”といった要素に、幼少期の記憶を大切にする自分のクリエイションとの共通点を見出した。そこにさまざまな時代に築かれてきた『ランバン』らしさやアーカイブを織り交ぜている」と明かす。コレクションでイメージしているのは「それぞれが異なる個性や役割を持っていながらも同じ価値観を共有しているグループ」。インクルーシブ(包括的)であることを目指し、アイテムの幅も広げている。「現代の女性はカクテルドレスも毎日着られるようなウエアも両方必要。そのバランスがポイントだ。ただし、全てが同じ世界観のもとで提案されているということは欠かせない」という。そして、今後については、「店舗での体験も含め、軽やかさや楽しさをもたらすことで変えていきたい。方程式には頼らず、チームと共に『ランバン』にふさわしい新しさの探求を続けていく」と話す。

エディター&バイヤーが語る
新しい「ランバン」

 どうしてもアルベール・エルバスを含む前任者と比べて考えてしまうので、アルベールが夢のある服作りだったことをふまえると、ブルーノは完全にリアルクローズの人だと思います。でも、今の風潮としてはそれが正解でもあり、色や柄、ちょっとしたディテールなどで今着たいと思わせる服が多い。メンズとウィメンズ一つの世界観の中でそういう服を作ることが彼の使命であり、「ランバン」再生のカギに他ならないと思います。2020年春夏はやりたいことがセグメントできていたし、テーラードやコミックプリントのアイテムがいいなと感じました。 (上野ルミ/「フィガロジャポン」編集長)

 第一印象は、まさにフレッシュ!ブルーノのアイデンティティーが込められたコレクションだと感じました。その一方で、エレガントシックを貫いていたこれまでのブランドイメージから、お客さまが定着するまでには少し時間を要するかと思いました。今季は大人の女性が持つ夢見がちな乙女心をくすぐられるコレクションというイメージで、今後の進化に注目しています。また、ブランドビジネスを構築する上でバッグやシューズも重要な要素なので、よりデザインと価格のバランスがとれたコレクションになることを期待しています。 (中尾有里/バーニーズ ニューヨークMDウィメンズバイヤー)

 前シーズンに比べ、新たな「ランバン」のイメージが融合され進化していたので、これからがますます楽しみです。20年春夏は、懐かしさと新しさのミックス感や、ジャケットやスーツといった今の時代感を捉えた要素と柔らかさを合わせたエレガンスが表現されたルックが目を引きました。そして、綺麗な色合いが多いのも好印象でした。バッグやシューズ、アクセサリーといった雑貨も今後、ブランドのアイコンとなるアイテムになっていけば、新客にも響きやすくなると思います。(濵田尚子/阪急阪神百貨店第1店舗グループ モードファッション商品統括部モード商品部シニアバイヤー)

TEXT:JUN YABUNO

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