ファッション

三陽商会 設立80年の歴史と未来

三陽商会は、5月11日に設立80周年を迎えた。戦後、レインコートの製造・販売を祖業に総合アパレルとして積み重ねてきた歴史を携え、新たな一歩を踏み出す。この1年間は同社の技術とアイデアを結集した周年限定商品を皮切りに、さまざまな商品や企画を発表する。

創業から受け継がれる
モノ作りの精神

1943年に創業者の吉原信之の設立によって産声を上げた三陽商会は、日本の高度成長と轍を重ねるようにして発展を遂げてきた。進駐軍用のレインコート生産をきっかけに、専属デザイナーを起用してデザイン性のあるコートを次々に発表。地味だったレインコートのイメージを変えた。

60〜70年代には「バーバリー」「ザ・スコッチハウス」といった海外ブランドを日本に持ち込み、90年代には「ポール・スチュアート」「エポカ」などブランド展開をさらに拡大。日本を代表する総合アパレルメーカーとして歩みを進める。近年も、同社の技術力を集結した“100年コート”を発売(2013年)、スペインのサステナブルブランド「エコアルフ」の国内展開をスタート(2020年)するなど新たな取り組みを進めてきた。

だが匠の技術と品質を追求するモノ作りのスピリットは、創業期から変わらず脈々と流れ続けている。1969年に設立した自社工場「サンヨーソーイング」はその象徴だ。“100年コート”に代表される最高グレードのコートは、今も自社生産を続けている。

コロナ禍は試練だったが、「われわれの強みである、“品位”あるモノ作りに立ち返る機会でもあった」と大江伸治社長は言う。同社が2021年5月に立ち上げた「商品開発委員会」では、全ブランドの責任者と技術開発担当らが結集してアイデアを出し合い、妥協のない商品を作っている。

品質とデザイン、機能性
“原点”に新しい価値を付加

この商品開発委員会から生まれた「頂上商品」(大江社長)は昨秋から導入、今春からは80周年限定としたコレクションを打ち出す。レインコートを中心とした“原点回帰”とも言えるラインアップでありながら、「サンヨーコート」の色鮮やかなブルー、レッドのアンブレラコート(7万5900円)や、はっ水加工の表地を特殊なはっ水糸で縫製した「ポール・スチュアート」の“レイン対応のセットアップ”(ジャケット4万9500円、パンツ2万7500円)のように、高い品質と心躍るデザイン、機能性を掛け合わせている。

INTERVIEW
「品質」と「品位」のあるモノ作りは、
お客さまにも必ず伝わる

コロナ禍は完全に終息したとは言えないが、一時期に比べて影響は相当沈静化している。これまで消費者の皆さまの間に蓄積されていた購買欲や、「いい服を着たい」というエネルギーが少しずつ世の中に浸み出していることを感じている。

しばらくは当社にとっても厳しいフェーズが続いたが、ようやく色々なことがうまく回り始め、光明が見えてきた。私が社長に就任した3年前は、悪く言えば「数を打てば当たる」という考えの散漫な商品戦略だった。大量に作り、売れずに余らせ、ますます自信をなくす。非常に悪い循環の中にいた。この3年間は(構造改革の一環として)、思い切って商品量を絞り込んだ。無駄が大きく減っただけでなく、一点一点に注げるエネルギーの濃度が上がり、クオリティーの磨き上げも着実に進んだ。結果、昨年の秋冬はヒット品番もたくさん出た。私は失敗からよりも、成功体験から学べることの方が圧倒的に大きいと思っている。情熱を込めて作れば、商品の“顔”に出てくる。お客さまにも間違いなく伝わる。そんな手応えを得たことで、社内の士気は高まっている。

三陽商会は社員一人一人が物事に対して真正面から取り組む生真面目さを持ち、自分の信念に基づいて行動する芯の強さがある。これは三陽商会の80年の歴史の中で脈々と受け継がれてきた風土であり、気質であると考えている。

当社の強みは、彼・彼女たちによって作り出される高品質で品位のあるモノ作り。それを決して手に届かないわけではない“ミドルアッパー”のゾーンで提供していく。ここにはまだまだチャンスが眠っているはずだ。東京ミッドタウン八重洲にこの3月新たに出店した「三陽山長 粋」は当社の技術力を結集して作った紳士靴やコートが並び、三陽の目指す先を示す象徴的な店舗ができあがった。このエッセンスを他の店舗やそこで働く従業員、一つ一つの商品にまで浸透させることに、これから全社を挙げて取り組んでいく。

服の持つパワーを信じる
1分半の動画に思いを凝縮

コロナ禍を経て、消費者は新しい価値観の下で新しい生活を始めた。服そのものの価値も改めて問い直されている。そのような時代の節目に、三陽商会は80周年の特設ページでステートメント“ START A NEW STORY”を表現したプロモーションムービーを公開した。動画では、「エポカ」の花柄のワンピースに袖を通した女性が、鏡の中に映る自分の姿を見て思わず微笑む。「ポール・スチュアート」のスーツを着た男性が、背筋をしゃんと伸ばして仕事場へ向かう。「身にまとった瞬間に、あざやかなよろこびを。」「大切な節目の日に、堂々と前を向く勇気を。」およそ1分半の短い動画の中に、ファッションが人に自信や高揚感をもたらすパワーを信じるメッセージを込めた。大江社長は「美しいものをまといたいというディマンド(欲)は誰しもが根源的に持っているもの。私たちはそれを信じて、心に訴えかける服を作り続けていきたい」と言葉に力を込める。

問い合わせ先
三陽商会 カスタマーサポート
0120-340-460