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ファストリ柳井社長が10月14日に語った「人権」「信念」「ユニクロ改革」 6000字超の全文公開

 ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は10月14日、2021年8月期決算説明会に登壇し、「グローバル展開の加速」や「人権侵害を容認しない」「事業を通じてより良い世界をつくっていく」ことなど、「商人としての信念」や今後の経営方針を17分にわたって熱弁を奮った。そのほぼ全文に加え、報道陣からの質問に対する一問一答をまとめた。

柳井正会長兼社長(以下、柳井):業績の詳細および有明プロジェクトに関してはご説明を申し上げましたので、私からは、主にファーストリテイリンググループが今何が最も重要だと考えているのか、今後どのような考え方で経営を進めていくのかをお話させていただきます。

(東京)オリンピック・パラリンピックが終わり、世界各地でワクチン接種が進んで感染拡大を押さえこみつつ、経済も成長させていく動きが本格化してまいりました。ファーストリテイリングはこれまでにも増して積極的にグローバル展開、事業展開をしていきたいと考えています。グローバルナンバーワンブランドを目指して成長を加速していく所存であります。

(ユニクロが掲げる)LifeWearの本質は、お客様の要望に応え、顧客を創造することにあります。自ら販売する商品、提供するサービスそのものが世の中の役に立っているのか、事業活動が社会的負荷を増大させるやり方になっていないのか、日常的な事業活動そのもので環境への負荷を減らし、社会の持続的な成長を実現して、自らのビジネスや商品を通じて社会を良くしていく、こうした考え方を具体的な商品の形で表現したのがLifeWearです。このような考え方をよりグローバル、さらに、「ユニクロ(UNIQLO)」だけでなく、「ジーユー(GU)」、「セオリー(THEORY)」、「プラステ(PLST)」などのグローバルブランドでも実現していきたいと考えています。

私たちは服を変え、常識を変え、世界を変えていくことを目指す会社です。日本の美意識を背景に、生まれたLifeWearというまったく新しい概念のもと、これからも服の世界の常識をどんどん変えていきたいと思います。

パリ、台湾、ロンドンで新たな旗艦店出店

世界中のさまざまな国の固有の歴史や文化、習慣などを深く理解し、それぞれの国の社会の発展、人々に暮らしに貢献し、その国のみなさまに最も愛され、支持されるブランドになりたいと思います。それに向けて、今後、グローバル展開を一段と加速させていきたいと思います。

9月16日、パリのリヴォリ通りに「服とアートの融合」をテーマに、ユニクロリヴォリ店を出店しました。オープン当日はファッション感度の高いお客様が多数ご来店され、大変盛況でした。ルーブル美術館やパリ市庁舎があるリヴォリ通りは今パリで最も注目のエリアです。ルーブル美術館とは今年1月、4年間にわたるパートナーシップを締結しました。その一環として継続的にコラボレーションコレクションを発売していくほか、同美術館で実施されるさまざまな活動をスポンサードしていきます。また、ロンドンのリージェントストリートに2022年春、ユニクロとセオリーがコラボした新店舗をオープンします。1900平方メートルという大型店で、ユニクロとセオリーが同居する欧州で初の店舗となります。さらに、今年10月8日、台北のグローバル旗艦店、ユニクロタイペイがリニューアルオープンしました。オープン前にはオープンを待ちわびた多数のお客様が並ばれ、広く新しくなったグローバル旗艦店でのお買い物を楽しんでいただきました。来月には北京初のグローバル旗艦店もオープンします。

人権侵害は容認しない 2004年から「コード・オブ・コンダクト」導入

ファーストリテイリングはこれまでも、人権侵害を絶対容認しない方針を明確にしてまいりました。そして、そのための仕組みを作り、実際に行動してきました。

まず基本的な枠組みとして、すべての取引先工場に、2004年の段階で私たちが設定した「生産パートナー向けのコード・オブ・コンダクト」の遵守、署名を求めています。これは国際労働機関(ILO)の基準に沿ったものです。常にグローバルレベルの人権原則や宣言に沿ってその責任を果たすよう行動してまいりました。

また、すべての取引先工場に対して担当社員および、第三者機関により労働環境のモニタリングを定期的に行い、その結果を取引先工場にフィードバックしています。発見された課題に対しては工場に迅速な改善を求めるとともに、万一、児童労働、強制労働などの深刻な事象が発覚した場合には、取引停止を含めた厳しい対処を行ってきています。

当社の生産事務所がある上海、ホーチミン、ダッカ、ジャカルタ、バンガロールには、品質や生産進捗管理を担う生産部の従業員が常駐しています。加えて主要の事務所には、労働環境のモニタリングや工場の改善指導などを専門的に行う専任チームを配属しています。担当者は毎週担当の取引先工場を訪問し、直接自分の目で工場の現場を把握し、正しい生産プロセスの改善指導を行っています。

世界のさまざまな外部団体との連携も重視しています。労働問題に特化した国連の専門機関である「国際労働機関(ILO)」とのパートナーシップは先ほど申し上げましたが、それ以外にも、世界銀行グループとILOの共同プログラムの「ベターワーク」、労働環境改善を目指す世界的なNGO「公正労働協会(FLA)」などに加盟しています。また、2019年度からは国連女性機関(UN Women)とのパートナーシップにより、縫製工場で働く女性を対象としたキャリア形成支援プログラム開発と展開に取り組んでいます。これら当社の取り組みはいずれも国際機関などから高く評価されており、世界的に見てもわれわれの取り組みは最も高い水準のものと自負しています。

安易な政治的立場への便乗は、ビジネスの死を意味する

私たち、グローバルに事業を展開する企業として、お互いに利益があるフェアな取引をし、その国の社会を豊かにしていくことが使命です。そのような明確な理念を持って独立自尊の商人として、自らの信念と現実が違っていたら勇気をもってそれは違うと発言しなければなりません。目先の利益のために安易に政治的な立場に便乗することは世界のさまざまなお客様の期待に応えることにはならず、それはビジネスの死を意味します。長い目で見て、けして企業のためにも社会のためにも国のためにもなりません。これは私の商人としての信念であります。

コロナの感染拡大で各国の経済が内向きになり、鎖国のような状況が出てきています。大国同士の政治的な対立、世界を分断しようという動きが強まっています。しかしそれでも現実に情報は世界を絶え間なく行き来し、情報量は数百倍、数千倍、数万倍になっています。ビジネスの世界も世界中で行われ、国と国を分断しいようとする試みはけしてうまくいかない。大国同士の対立は当事国だけの問題ではすみません。周辺地域や近隣諸国は壊滅的な打撃を受けます。そのような事態を避けるため、企業も個人も国も、あらゆる手段を尽くし、すべての国が共存共栄できる世界を作らなければなりません。

高度なトレーサビリティに向け100人体制

私は世界中のお客様に良い商品を提供しようとしています。多くの企業に対して政治的な選択を迫るような風潮には強い疑問を感じています。だからといって人権問題に対する自らの姿勢をあいまいにするつもりはありません。説明を申し上げましたように、事業を通じてよりよい世界を作っていくという考え方、むしろ、業界の先頭に立って率先してそれらの問題に関し、改善のための努力を現実行ってきたのはわれわれであります。早い時期から人権侵害をけして容認しない姿勢を明らかにし、そのための仕組みを作り、具体的な行動をしてまいりました。世界各地の現場で工場や現地当局と粘り強く交渉を重ね、われわれの基準に照らして問題があれば改善を自らし、求め、その成果が着々と上がっています。

これまで申し上げた通り、縫製工場と素材工場については、自社と第三者による監査で問題ないことを確認しています。また、服の生産において素材調達は商社や縫製工場が行うのではなく、ユニクロ、われわれ自体で自社の調達チームが生地や糸について指定し、どの紡績工場で生産されているか把握したうえで調達しています。原材料の原産地についても特定ができています。今後、原材料生産地の農家の素材調達の最上流にいたるまで自らの手で確認し、より高いレベルのトレーサビリティを確保していきます。

これに加え、第三者認証の枠組みを活用してより客観性があるプロセスを一つひとつ着実に実現してまいります。これを実現するために、すでにグローバルで100人規模のプロジェクトチームを立ち上げて農家の特定に向けた取り組みを始めています。

柳井財団一期生が英米の大学を卒業、志ある個人や企業は軽々と国境を超える

先日、とても嬉しいことがありました。柳井正財団が奨学金を支給している第一期生が初めて今年米国や英国の大学を卒業しました。われわれの財団は、2017年から米国や英国のトップクラスの大学で勉強する日本の学生たち、毎年30人ぐらいに奨学金を支給しています。その人たちがみな最優秀に近い成績で卒業しています。ある人はコロンビア大学の生物医療学と比較文学の両方の学位を取りました。そして卒業後は英国のオックスフォード大学の大学院で医療の勉強をし、その後、米国のメディカルスクールに入って医師資格を取り、世界中で研究と医療の両方やりたいと言っています。そういう若い人が日本から次々と出てきています。本当に頼もしい、喜ぶべきことだと考えます。このように、志のある個人や民間企業は軽々と国境を越えていきます。今の若い世代の最優秀の人々には、そもそも国境の意識がなくなりつつある。このような流れを世界中の国や企業が応援していくべきであると思います。

扉を閉ざして成功した企業はありません。国を閉ざして繁栄した国はありません。とくに日本人、日本企業はこういう時代だからこそ、世界中の志のある個人、企業と力を合わせ、お互いに利益が上がり、持続可能な成長の仕組みを作ることが必要です。そこに日本人および日本という国の将来がかかっている。私たちを含め、海外でビジネスをしている日本企業、日本人はみんなそのために必死の努力をしています。難しい問題は山ほどありますが、それ以外に日本の生き残る道はありません。

【メディアからの質疑応答】

――グローバルに出店し、ビジネスを加速していくという話だったが、コロナ禍を経て、人々の生活や行動様式も変わった。出店をパリや台湾、ロンドンなどにも出すということだが、新たな生活スタイルを実践するようになった世の中において、これからどんなお店がグローバルなお客様に求められると考えるか?

柳井正(以下、柳井):われわれ旗艦店は繁華街に出していくが、むしろ郊外の自分の生活圏、これをより重要視するお客様に対応した店、あるいは、都心でも自分たちの住んでいる地域を大事にする、そういうライフスタイルに変わるんじゃないかなと思います。ですので、そういうライフスタイル(に合った店や商品)。それと、コロナ禍でテレワークがあり、いろいろなことを深く考えるようになったり、家族と一緒に生活する時間が増えてきた。仕事と家族の生活を両方とも追求する、どちらのバランスをとるということではなしに、両方とも追求するようなライフスタイルに変わったので、それに従った服に変わっていくのではないかと思います。

――ファーストリテイリングが人権侵害を容認しないという姿勢について。これまでもその姿勢をクリアにするために自社でもいろいろな取り組みをし、第三者機関の判定や評価を得る活動を現在も行っているということだが、今年4月に新疆綿の問題などで人権侵害についていろいろなマスコミなどでの報道もあった。あえてここで伺いたいのは、ここでこういったステートメントを柳井さんが出したということは、サプライチェーンの中で現時点で感知している人権侵害にあたるような問題はないという理解でよいのか?

柳井:今までも、そして今でもいろいろな地域で起こっています。ただし、それはその都度その都度、工場側と取引を停止したり、あるいは、それに対する改善案を求めたりということをやっています。でも、幸いなことに、われわれはまず、どこの工場でもいい、安いところがいい、ということではなしに、われわれと同じ志を持っている工場の経営者と話をして、そのうえで本当にいい品質の商品を作ってくれるということ前提に話をしているので、そんなにひどい人権侵害みたいなことは、新規の国にいったとき以外はあんまりありません。

――中国のことを聞きたい。終わった期は過去最高ということだったが、コロナ前の2019年に比べると6%ぐらいの増収にとどまっている。ずっと2ケタで成長してきたのが、店舗がこれだけ増えたわりには増収のペースがやや落ちてきているのかなと気になっている。今期は上期は減収減益を見込んでいるが、外資ブランド離れが起きてローカルブランドが強くなってきている市場構造の変化なども影響しているのか?1兆円の目標は今も変わらないのか?

柳井:そういう面も確かにあると思います。ただしわれわれ今、上海や北京などの一級都市以外の、二級都市、三級都市にも出店しています。二級都市、三級都市ではまだそれほど知名度が上がっていません。ですから今から知名度が上がってくれば売り上げが伸びていくと考えています。

――今期、国内ユニクロは事業構造の変革の年ということで減収減益を見込んでいるが、既存店の売り上げが11%の減収ということは、今年の春に(消費税の内税表記に合わせて実質約9%の)値下げをした影響もあるのかと思っている。今、円安や素材高などで値下げの影響が大きく出てくる時期だと思うが、改めて今期の国内事業にどう臨むのか?

柳井:値下げの影響は短期的なものだと考えています。むしろ今、所得が上がらない、報酬が上がらないというところで、プラス消費税という。あの時点で、それを新しい価格にするということは私としてできなかった。また、われわれの会社は為替リスクをとって先物を予約しているので、当面為替の円安に関してはあまり影響がないというふうに考えています。ただし世界的に原材料がすごく上がっているので、インフレになる可能性は、これは服だけということでなしに、あらゆる商品で起きうるのではないかと考えています。

――この決算について、柳井社長としての総括と、増収増益になった要因を改めて聞きたい。

柳井:私は社員全員努力して、こういう苦しい状況の中で非常に頑張ったんじゃないかと考えています。ただしコロナが収束したわけでなく、むしろ東南アジアでロックダウンが続いていたり、止まったり、またロックダウンになったりということもありますし、先進国でもイギリスやフランスはもうコロナと共存するということでいつどんなことが起きるか見当がつかない。そういう不安定な状況ですが、やっぱりグローバルで商売をやっていて良かったなと。というのは、世界経済自体がグローバル経済になっているので。それと世界中の情報、叡智を結して商売をしないと日本だけで完結するような商売は今後非常に難しくなるのではないかと思う。

――決算期間中に吸水ショーツをGU、ユニクロで販売したが、フェムテック関連の商品を販売することになった経緯と、足元をどう見ているのか、今後このような市場がどのように広がっていくとみているのか、御社としてどのようにこのような市場に関わっていきたいと考えているのか?

柳井:これはお客様の要望で非常に多かったんですよ。われわれの取引先で作っているところがあったので、こんなに要望が多いんだったら実験で一度作ってみようかということだったのですが、非常に反響がありました。こういうことで困っている女性の方が非常に多いのだなと。ここを一度深掘りしようと。これは障害者用のアンダーウエアもそうだが、今までのアパレル業界にないようなニーズに関して研究開発、および、実際にそういう商品を作って販売してみてそれを改良・改善してより良い商品を作りたいなと思います。

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