ファッション

さよなら「セシルマクビー」! 全盛期を支えた元社員らが語る「キラキラ輝いていたあの時代」

 1990年代半ばから2000年代にかけて、若い女性のファッションを象徴する存在として社会現象も巻き起こした「セシルマクビー(CECIL McBEE、以下セシル)」(ジャパンイマジネーション)が、いよいよ幕を下ろす。旗艦店であり、往時は月商1億円を誇った渋谷109内の店舗が11月30日をもって閉店し、これで全店閉店となる。閉店を前に渋谷109店では、かつての人気商品やムック本などを展示するイベントを11月21~30日に実施。同イベントのために、現役社員だけでなく全盛期を支えたディレクターやプレス担当者らが再結集した。彼らにキラキラ輝いていた時代の「セシル」を振り返ってもらった。

 「『セシル』での10年間があったからこそ、今の自分がある」と話すのは、00年代の “東京エレガンス”ブーム時代の「セシル」を支えた名越万理・元ディレクター。90年代後半の“セクシーカジュアル”“ギャルファッション”のムーブメントで「セシル」に憧れ、大阪文化服装学院を卒業してジャパンイマジネーションに入社。13年に退社するまで、企画やディレクションを担った人物だ。現在はフリーランスとして、大手カジュアルSPAなどのディレクションに携わる。1990年代後半からブランドを支え続けてきたメンバーもいる。「渋谷109店で店長をしていた97~98年は、お客さんが絶えることが全くなかった。朝10時から夜9時まで休憩を取る間もなくレジを打ち続けていたし、販売員として働きたいという応募も多くて、毎日10~15人は面接していた」と振り返るのは、現役社員の手塚邦洋セシルマクビー営業部次長だ。手塚次長は95年にアルバイトとして入社。現在入社25年目の43歳で、まさに「セシル」と共に人生を歩んできた。

 閉店を前にして、何かイベントができないかと渋谷109から打診を受けたのが10月上旬。そこから急ピッチで準備を進めてきた。ただし、コロナ禍の中ではイベントとしてやれることも限られる。加えて、「現在の本社の事業部人員は自分も含めて4人とかなり減っている。そこで、名越元ディレクターや当時のプレスチーフに声をかけた」と手塚次長。再結集したメンバーで話し合ったのは、「『セシル』とは何か」。それに対する回答としてメンバーから口々にあがったのが、レオパード柄のミニワンピースやツイードジャケット、クラッシュベロアのベアトップやキャミソール、ロールカラーのAラインコートといったアイテムだった。当時を知っていれば「懐かしい!」「まさに『セシル』!」と言いたくなるものばかりだ。イベント用にそれらを復刻生産し、展示することを決めた(販売はしない)。

 近年の「セシル」店頭では白のシンプルなマネキンを使っていたが、復刻アイテムを展示するためのマネキンはゴールドがかった塗装を施して当時を再現。「全盛期の『セシル』のマネキンは、美容師と組んでメッシュや巻き髪などのトレンドを取り入れたウィッグを付けているのも特徴だった。当時の資料を探し出して、同じような華やかな巻き髪ウィッグを作った」と名越元ディレクター。他にも、往年の顧客を楽しませるためにアイコニックなロゴ入りショッパーや四角いミラーを復刻。DMを持参し来店した客にはそれらをプレゼントする。「今となってはよくある手法だが、20年前は『セシル』が他ブランドに先駆けて始めたものだった」と手塚次長が語るノベルティグッズやブランドムック本も、年代順に並べて「『セシル』のミュージアムのような空間を作る」という。

倉庫作業でもハイヒールは死守

 一時代を築いたブランドだけに、印象的なエピソードや思い出話が次から次へと出てくる。「僕は安室奈美恵さんと同い年だけど、97~98年頃は安室さんやMAXさんにワンボタンのパンツスーツなどを頻繁に貸し出していた。当時はまだプレスルームやプレス担当者といったものがカジュアルブランドにはなかった時代で、全て渋谷109の店頭でスタイリストに貸し出し対応していた」と手塚次長。「あの頃は毎日渋谷の日焼けサロンに通って肌を焼いていた。渋谷109で働いている販売員には、日焼けサロン側が割り引きしてくれていた(笑)」といった小話も。カリスマ店員の影響力が強かった時代だからこそだ。

 名越元ディレクターが在籍した“東京エレガンス”時代のエピソードとして出てきたのは、「今となってはハラスメントになってしまうが、どこでお客さまに見られても『セシル』のイメージが保てるように、販売員には通勤時も5センチ以上のハイヒールを履くように指示していた」(名越元ディレクター)というもの。「言い出しっぺの自分がそれを破るわけにはいかないので、年末に倉庫を掃除する時も毎年ハイヒールで通していた」と話す。「セシル」といえば、接客のしっかりした優秀な販売員が多いことも業界内ではよく知られていた。「個人の売り上げ額に対してプライドを持っている販売員が同業他社と比べても多かったと思う。とにかくみんなブランド愛が強かった。ノベルティイベントの告知などで各販売員は毎月のように顧客に300~400枚のDMを送っていたが、シールを貼るなど1枚1枚すごく作り込んでいたのをよく覚えている。お客さまとの関係も非常に近く、接客をしながら“人生相談”のような深い話をしているケースもよくあった」と手塚次長。

少女漫画の題材にもなった「セシル」

 ファッション誌はもちろんのこと、テレビの情報番組などにもよく取り上げられ、とにかくメディアへの露出が多かったのも全盛期の「セシル」の特色だった。これについては、2006~13年に同社に在籍し、今回のイベントにも関わっている中道あすか元プレスチーフがコメントを寄せてくれた。「ファッション誌は対象年齢やテイストの枠を超えて、当時の他ブランドでは考えられないほど幅広い媒体に掲載いただいていた。テレビの情報番組に取り上げられるケースも多く、その商品が発売される日は店のオープンと同時に大勢のお客さまが走り込むような状態だった」という。中でも「さすが『セシル』!」と思わせるエピソードが、「『セシル』を題材にした漫画もあった」という話。集英社の少女漫画誌「マーガレット」で、12年に「LOOK~CECIL McBEEの恋の魔法~」が連載され、コラボレーションアイテムなども企画していた。中道元プレスチーフ自身も漫画内に登場している。

 「セシル」は00~13年の14年間にわたって、渋谷109で売り上げナンバーワンの座に君臨。しかし、その後はマーケットの変化に対応しきれず、右肩下がりが続いてきた。模索の中で、シーズンごとにリブランディングを繰り返していた印象だ。「時代の半歩先を行くというのが、かつては『セシル』のプライドだった。それが、この5~10年は半歩先でなく、時代の主流と同じになってしまっていた」と手塚次長は省みる。「店舗数も増え、ブランドの規模はすごく大きくなっていた。一方で、世の中は“私だけのブランド”と思えるようなストーリー性のあるものを個々が発信していく時代に変わっていった。そこにギャップがあった。変えたいけど変えられない。作り手の側には、そういったジレンマがあったと思う」と、名越元ディレクターは外から見ていて感じていたという。

 「セシル」は1987年にスタート。96年頃に渋谷109を発信源に“セクシーカジュアル”“ギャルファッション”ブームに火が付くと、その代表ブランドの1つとなった。2000年代中盤以降は、赤文字系雑誌や「東京ガールズコレクション」と連動した“東京エレガンス”の波をつかんで成長。しかし、08年の「H&M」上陸や15年の「ジーユー(GU)」のガウチョのヒットに象徴される競合状況の激化、SNSの拡大などの中で、次第に影響力を失った。ジャパンイマジネーションは今後は「アンクルージュ(ANK ROUGE)」「ジェイミーエーエヌケー(JAMIE エーエヌケー)」「スタニングルアー(STUNNING LURE)」「デイシー(DEICY)」の4ブランド事業に集中する。

■「CECIL McBEE THANK YOU CLOSE EVENT」
開催期間:11月21~30日
場所:渋谷109の2階
住所:東京都渋谷区道玄坂2-29-1
注:新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、混雑時は展示ブースは20分ごとの総入れ替え制を予定。その際は店頭で入場時間を指定したチケットを配布する。渋谷109内で行列を作り、待機することは不可

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