フォーカス

グッチのCEOが語る、新型コロナの影響と対応 「一時解雇などは考えていない」

 新型コロナウイルスによる危機に対応する中で、人々の暮らしや仕事の進め方が大きく変わろうとしている。

 グッチ(GUCCI)のマルコ・ビッザーリ(Marco Bizzarri)社長兼最高経営責任者(CEO)は、「正式なミーティングの回数を減らして、よりカジュアルな打ち合わせをするようにした。テクノロジーの進化のおかげでリモートワークでもチームと緊密に連携できているが、事態が刻々と変化しているので、堅苦しい会議をしていては間に合わない。素早く要点を共有して、柔軟に対応する必要がある。多くの仕事をこなしているという点は変わらないが、その方法が以前とは異なっている」と語った。

 「グッチ」「サンローラン(SAINT LAURENT)」「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」などを擁するケリング(KERING)は、新型コロナウイルスが中国で猛威を振るっていた2月の時点では中国で展開している店舗の半分を一時的に休業し、残りの半分も時短営業を行っていた。しかし現在は事態がやや沈静化しているため、中国本土にある店舗では客足が戻ってきており、明るい兆しが見えてきているという。

 一方で、ここ数週間はその他のアジア太平洋地域や北米、西欧で事態が急激に悪化。イタリアやアメリカなどでは生活必需品を取り扱っている店を除く全ての店を休業する措置が取られているが、「グッチ」は従業員を守るため、一部の店舗は政府からの要請に先立って休業に踏み切ったという。同ブランドは世界に487店を構えているが、休業している店舗での一時解雇などは考えていないとビッザーリ社長兼CEOは話す。「ブランドはその理念や価値観について語りがちだが、こうした難局においてこそ、それらを実行するべきだろう。ケリングおよびグッチは雇用の維持を重視しており、利益に響くとしても従業員を守ることを優先する」と述べた。

 新型コロナウイルスの影響でファッション業界が変化すると思うかという質問に対しては、「未来を予想するのは難しいが、物事を改善していくきっかけになると思う。事態の収束後は、まず消費者を支援する必要がある。大災害があった際や、2008年のリーマン・ショックと同様に、人々が浮かれている場合ではないと感じて社会がより真面目な空気になることも予想されるが、ファッションが喜びをもたらすものだということは変わらない」と答えた。

 今回の危機的な状況に対応するため、ショーなどのイベントをオンライン上で発表したブランドも多い。将来的には全てがデジタル化されると見る向きもあるが、ビッザーリ社長兼CEOは、現実世界とオンラインの双方の利点を生かしていきたいという。「テクノロジーの進化は、ファッション業界にさらに大きな影響を与えていくだろう。サステナビリティが重要だという考え方が定着し、仮想現実(VR)の活用がいっそう進む一方で、珍しくて目新しいものを求めるという人間の性質はそうそう変わるものではない。コレクションの発表方法が変化し、それに伴ってブランドの関係者やメディアが世界を飛び回ることは少なくなるかもしれないが、ファッションはクリエイティブなものであり、そのクリエイティビティーは守られるべきものだ。『グッチ』とファストファッションとの違いは、そうした部分にある」と説明した。

 イタリアは3月28日の時点で新型コロナウイルスの感染者が8万6500人に迫り、死者は8000人を超えるなど深刻な事態に陥っている。ビッザーリ社長兼CEOは、「後から『もっとこうすればよかった』と言うことは簡単だが、前例のない未曾有の危機にあってイタリア政府は迅速に行動しているし、よく頑張っていると思う。第2次世界大戦以降に起きた最大の危機だ。このような状況を想定して準備することなど誰にもできない」と分析する。母国を支援するため、同氏は自身の出身地であるエミリア・ロマーニャ州の都市、レッジョエミリアにある8つの病院の集合体である「AUSL IRCCS」に個人で10万ユーロ(約1180万円)を寄付している。

 新型コロナウイルス対策への支援として、ケリングは同社が擁する13のラグジュアリーブランドを代表して中国・湖北省の赤十字基金に750万人民元(約1億1250万円)を、イタリアの医療機関などに200万ユーロ(約2億3600万円)を寄付しているほか、中国から輸入した医療用マスク300万枚をフランスの医療機関に提供する。グッチは伊トスカーナ州の地域当局の要請を受けて、100万枚超の医療用マスクと5万5000着の医療用白衣を提供する。

 これに加えて、グッチは2つのクラウドファンディングを通じて200万ユーロの寄付を行うことを発表した。一つはイタリアのインテーザ・サンパオロ銀行(INTESA SANPAOLO)が運営するクラウドファンディングを通して、同国の国家市民保護局に100万ユーロ(約1億1800万円)を寄付する。もう一つは、フェイスブック(FACEBOOK)が行っているマッチングキャンペーン(主催企業が寄付金と同額を上乗せして寄付する仕組み)を通じて、世界保健機関(WHO)をサポートするために国連財団が設立したCOVID-19連帯対応基金(COVID-19 Solidarity Response Fund)に100万ユーロを寄付する。

 同社はまた、誰もがクラウドファンディングに参加できる専用サイトを設立したほか、「団結して共に危機に立ち向かおう(We Are All In This Together)」というメッセージをインスタグラムの公式アカウントなどに掲載し、ハッシュタグ「#GucciCommunity」を用いて寄付を呼びかけている。

 こうした取り組みに関して、ビッザーリ社長兼CEOとアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)=クリエイティブ・ディレクターは、グッチの社員に向けたレターを発表した。その中で、「私たちは今、新型コロナウイルス感染症のパンデミックという思いもよらなかった危機に直面している。この脅威に立ち向かうべく、パンデミックの影響を受けている人々や、最前線で尽力している医師や看護師などの医療専門家を支援していく」と表明。「グッチはオープンで自由な世界を目指し、誰もが仲間として参加できる“グッチ グローバル コミュニティー”を築いてきた。仲間である皆さん一人ひとりがチェンジメーカー(変革の担い手)となって、私たちと共に今回の危機に立ち向かっていこう」と語りかけた。