ファッション

“生理用品と環境汚染”に危機感 フェムテック関連のオーガニック生理用ナプキンを手掛ける「ナトラケア」

 環境に負荷をかけないオーガニック・ナチュラルの生理用品「ナトラケア(NATRACARE)」がイギリスで誕生したのは1989年。ブランドを立ち上げたスージー・ヒューソン(Susie Huson)創業者は環境保護の活動家としての顔も持ち、“生理用品と環境汚染”をテーマにした報道番組を見たことをきっかけにブランド開発に着手した。今では米国や韓国など海外約80カ国に広がり、日本には2018年に参入した。フェムテックを代表するアイテムでもある生理用製品を中心に30年以上女性の体と環境を守ってきたヒューソン創業者に、これまでの取り組みと今後の展望を聞いた。

WWD:約30年前にオーガニック・ナチュラルの生理用品を手掛けようと思った理由は。

スージー・ヒューソン「ナトラケア」創業者(以下、ヒューソン):環境保護の活動家として過ごしていた中で、2人の子どもを出産し日々を送っていたあるとき、“生理用品と環境汚染”がテーマのテレビ番組を目にしました。それは生理用品を生産する企業から出る排水が海や川を汚染し、魚や周辺の動物に大きな影響を及ぼしていた映像でした。また、製品化した紙おむつや生理用品、コーヒーのフィルターに残っている化学薬品の残留物も問題に上がっていたんです。私は環境を守り直接行動を起こすことを信条としていたので、アクションを起こしました。

WWD:当時は、生理用品の安全性に消費者の関心がそれほど高くなかったのでは。

スージー:女性は毎月5~6日の生理期間があって、生理用品を40年以上使いますよね。使用している製品によって健康に問題が生じることに懸念を感じていました。原材料などを含めた生産工程などが隠されていることが多すぎました。さらに化学薬品を使用した生理用品が将来の世代にどう影響するかも気になっていたのです。

WWD:実際に生理用品を生産するにあたり、知識やノウハウはどう得ていったのか。

スージー:まずは、とにかく勉強しました。当時は現在のようにインターネットでの検索が容易にできるわけではありませんから図書館に通い詰めましたね。環境保健活動グループの研究者にも相談し、私がオーガニック・ナチュラルな生理用品を生産するために必要なことを明確にしました。それから、オーガニックのコットンや塩素フリーのパルプの入手方法に始まり、プラスチックや石油化学製品を使用せず、環境に負荷をかけない生産方法を探しました。幸いなことに私はデザイナーや教師になるような教育を受けていたので、問題を分析する、リサーチをする、得た情報を伝える、ということのスキルがあったんです。

発案から1年で製品化

WWD:リサーチから製品化までどのくらいの期間で実現したのか。

スージー:1年ですね。パルプの製造は主にフィンランド、オーガニックコットンがキルギスタン(それをトルコで加工)、包装のフィルムがノルウェー、生産はイギリスに1社だけオーガニックコットンで生理用品を製造してくれる工場があり、そこに協力を得ました。もちろん困難も多かったですが、今のままで製品を生産することが環境破壊につながるという問題を理解してもらえ、実現することができたんです。

WWD:1989年に「ナトラケア」が誕生し、当時のイギリスの消費者意識は生理用品に化学物質が含まれていることを理解し、オーガニック・ナチュラルな生理用品をすんなり受け入れたのか。

スージー:まずは女性中心の環境問題のグループと協力して、生理用品の中に化学物質が含まれていることの問題提起をし、女性に気づきを与える啓発活動から始めました。「ナトラケア」は、ナチュラルな製品を扱う店舗や高級スーパーマーケットのウエイトローズ(WAITROSE)が扱ってくれました。90年代前半になると、ささやかですが“環境”という言葉が世間でかっこよいとされてきて、多くの人が関心を持つようになったと思います。海外展開も始めていたので、1990年代の初期はカナダで非常に好調でした。カナダでは木の伐採をしている近隣に製紙工場があって、その周辺に住んでいた人々がもしかしたら汚染されているかもしれないと気にし始めていたんですね。タイミングがよかったです。オーガニック・ナチュラル大国のニュージーランドも売れ行きがよかったです。

WWD:海外展開は早い時期からスタートした。

スージー:アメリカの関心も高かったので、92年頃にはアメリカに現地法人を設立しました。イギリスの小規模な企業がすることではなかったかもしれませんが、そのおかげで現在はイギリスよりも海外市場の成長が早くアメリカは最大規模のマーケットになっています。2005年には韓国にも現地法人を作りました。現在は約80カ国で展開し、売り上げシェアはイギリスが8%(ヨーロッパ全体では30%)、アメリカが45%、韓国が25%。近年は売り上げが毎年25%増で成長しており、19年には3年以上成長が継続している企業に与えられる女王賞を英国王室から授与されました。

WWD:本国の売り上げシェアが低い理由は。

スージー:大手チェーンのスーパーマーケットの取り組みに賛同できず、販路は自然食品店や健康食品店のような小規模な店舗に絞り込んだのです。ウエイトローズは29年間販売し続けてくれているんですよ。もちろん、大きな市場を目指してチャレンジした時期もありましたが、よい思いをしませんでした。大手スーパーにこびを売るようなことをしてまで拡大したくないんです。

米国のタンポンによる
毒性ショック症候群が拍車

WWD:製品のラインアップが増えてきた。

スージー: 現在は31種類をそろえていますが、アジアと南米は生理用ナプキン「ウルトラパッド」と「パンティーライナー」が人気ですね。北米は、1980年代にタンポンに含まれる有害な物質によってTSS(毒性ショック症候群)のために何人もの女性が亡くなる事件があったため、有害な物質が全く入っていない当社のタンポンの支持が長らく高かったんです。しかし近年は「ウルトラパッド」が好評ですね。日本では18年からおもちゃ箱が販売してくれており、19年にはおりものケア&水分ケア用のライナーとパッドの展開も始まりました。

WWD:原料の調達からオーガニックに対応できる工場まで取り巻く環境は30年で変わってきているのか。

スージー:90年代はイギリス最大の有機認証機関ソイル・アソシエーションに生理用品の基準がありませんでした。そこで基準を提言しましたが2000年に反映されるまで14年掛かりました。オーガニックの基準が変わり進展するにつれて、「ナトラケア」の製品を増やしていきました。原料としては、96年から採用していた植物由来のバイオプラスチックをやめ、現在はでん粉由来のバイオプラスチックを採用。2000年ごろに新しい機械を導入して、個別包装ができるようになりました。パッケージが変わるなど見た目が変わったり、羽根つきの生理用ナプキンなどを作ってみたりと、自然な変化を遂げています。

WWD:ここ数年、さまざまな業種がようやくサステナブルな取り組みに注力するようになった。

スージー:「ナトラケア」は立ち上げ当初から原材料が持続可能なもの、クリーンな方法で環境に負荷をかけないで生産する、使用後の製品が土に返る、ことを念頭においてモノ作りしています。オフィスの電力もソーラーパネルで賄っていますし。このように環境問題を解決しようと努めながらも、常に意識しているのは高品質な商品を作り出すことです。いくら環境問題を解決しても女性に欲しいと思ってもらわないといけませんから。この30年を通じて、環境に負荷をかけず高品質なモノを製造するノウハウを得ましたし、それを証明もしてきました。

WWD:健康意識や環境配慮の面でも世界の意識が変わってきていると思うが、今後「ナトラケア」としてどのような展望を描いているのか。

スージー:今まで通りかな。創業時から環境に配慮したモノ作りの方針を明確にして、それに基づいて行動してきました。それは正しいことだったと思っています。多くの女性に今まで自分たちが使ってきたものの正体を知ってほしいですし、新たな選択肢として「ナトラケア」の製品を使ってもらって変化を感じてほしい。できれば販路を増やして、さらに多くの女性に届けたいですね。輸送による環境へのインパクトを小さくすることもできるかもしれない。製造方法や品質にも常に改善の余地は残っています。また、啓発活動も継続していきます。

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