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「髪型は一番最後でいい」 「バシランド」細井豊が語る、美容師の差が出る“最初の10分”

PROFILE: 細井豊「バシランド(vacilando)」オーナー

細井豊「バシランド(vacilando)」オーナー
PROFILE: 福岡県出身。大村美容専門学校卒業。都内2店舗を経て、「バシランド(vacilando)」をオープン。サロンワークを軸に、撮影・セミナーなど多方面で活動。無駄のないシンプルなカットを軸に、コントラストを効かせたハイライトや、抜け感のあるパーマなど、デザイン性と再現性を両立させたスタイルに定評がある Instagram:@hosoiyutapo PHOTO : AI OKUBO

東京・表参道の美容室「バシランド(vaciland)」のオーナーを務める細井豊さんは、美容師として約20年のキャリアを持ち、現在もサロンワークを中心に撮影やセミナーなどでも活動する。高校生のころに自身の髪を切り始めたことをきっかけに美容師を志し、東京の「ヘブンス(HEAVENS)」でスタイリスト、ディレクター、店長などを経験した。これまでの歩みから、技術を更新するために続けていること、顧客やヘアデザインとの向き合い方までを聞いた。

くせ毛悩みから自己流でカット

WWD:美容師を目指したきっかけは。

細井豊「バシランド」オーナー(以下、細井):小学生のころからくせ毛にとても悩んでいたんです。すごく膨らむ髪質で、ヘアスタイルが決まらないことをずっと気にしていました。今思うとあのころが一番美意識が高かったんじゃないかと(笑)。

中学生のころは坊主だったので一度気にしなくなったんですが、高校生で髪を伸ばして美容室に行くようになりました。ですが、なかなか自分が思い描くスタイルにならず、自分で髪を切り始めました。

WWD:自己流で切っていた?

細井:はい。次第に友人の髪も切るようになりました。自分がくせ毛なのでくせのある髪はなんとなく分かる。でも、ストレートの髪は難しい。そこにカットの面白さを感じ、美容学校に進学しました。

WWD:卒業後は一度、美容の仕事から離れている。

細井:地元のサロンに就職した後、引っ越しの仕事を1年半ほどしていました。美容師に戻る気はあったんですけど、引っ越しの仕事も意外と稼げるなと思って。思ったより長く勤めてしまいました。(笑)

「これはいかん」と思って就職活動をして「ヘブンス」に入りました。そこでスタイリストになり、店長やディレクターなども経験しました。

技術は「8割を残して、2割を変える」

WWD:美容師の仕事を長く続ける中で、どのように技術を更新してきたのか。

細井:自分のベースが10割だとしたら、8割はそのままで2割は新しい要素を取り入れています。道具を変えることもあれば、切り方やスタイリング剤を変えることもある。試して良かったら残すし、「ちょっと違うな」と思ったらやめる。「変えてみよう」という気軽な気持ちで少しずつ変えてアップデートしていく習慣があります。

WWD:その考え方を持つようになったきっかけは。

細井:海外のショートスタイルを見たときに、「これは今まで習ってきたカットで作れない」と思ったことがあったんです。丸くて柔らかいけれど、毛先は軽い。そこでカットの方法自体を変えてみました。

その経験から自分が今までやってきたことや習ったことをそのまま正解だと思わなくなったんだと思います。2、3カ月ほど同じ作り方や質感が続くと飽きてくるので、少しバランスを変えたり「もうちょっと崩して余裕を出してみよう」と考えたりしています。常に「もっと何かできそう」という感覚があります。

WWD:新しいデザインのヒントはどこから得ているのか。

細井:映画だったり、写真だったり、建築物だったり、植物だったり。結構いろいろです。例えば写真であれば、同じ造形でもどこに焦点を当てるかで最終的なアウトプットが全然違う。「この形を見せたいからこの角度で撮っているんだな」とか。そういう視点はヘアデザインにもつながります。

若いころは美術館へ行ったり、映画を見たり、人から「この音楽がかっこいい」と教えてもらったら、とりあえず聴いたりしていました。でも年齢を重ねると若いころほど自分から追わなくなってくる。今は逆に、お客さまから教えてもらうことも多いです。「え、こういうのが流行るの?」とか「これかわいいね」と知って、そこから調べる。自然と入ってきたものに興味を持つ感じですね。

カットを始める前の10分で着地点を探る

WWD:美容師の技術はどこに差が出ると考えている?

細井:10年、20年と美容師をやっていれば、手法は違ってもカットが仕上がるまでの技術はある程度皆持っていると思うんです。だから、カットが始まるまでが大切なんじゃないかなと。

お客さまが来て、その人を見て話してみる。やりたいスタイルをそのままやった方がいいのか、自分が提案したものをやった方がいいのか、それとも両方を融合した方がいいのか。相手からどう引き出すか、自分の提案をどう受け入れてもらうか、どこに着地させるか。そういうことを最初の10分ほどで決めています。似合っていないものを技術的にうまく作っても、かわいくならないので。

WWD:自身の得意なスタイルに当てはめるわけではない。

細井:自分のエゴを通した方がいい人もいるし、その人の希望に沿った方がいい人もいる。そのバランスは毎回違います。

自分の型があってそこに当てはめるというより、「そういう価値観もあるんだ」と思いながら作る。自分の引き出しにはなかったスタイルをお客さまが持ってきたときに「じゃあ自分の引き出しでやってみよう」と思うこともある。それも面白いんですよね。

WWD:初めて担当するときは何を意識しているのか。

細井:まず、「この人は今日、何を一番求めているんだろう」というところですね。服装や今の髪型を見て話しながら、何が一番しっくりきていないのかを探します。

今の髪型が自分にハマっていないことが嫌なのか、ずっと同じ髪型でマンネリしているから大きな変化がほしいのか。それによって全然違う。髪型はぶっちゃけ一番最後でいいんですよ。

WWD:「髪型は一番最後」とは?

細井:例えば、2人が同じ写真を持ってきたとして、2人ともその髪型が似合うわけではないじゃないですか。でも、その写真を持ってきたという事実からは「今はこういうバランスにしたいんだな」ということは分かる。だから最終的な髪型そのものより、その人がどうしたいのかなど、性格の方を見ることもあります。

途中で視線が同じ部分に集中していることに気づいたら、「今、ここの長さが気になっています?」と、できるだけ相手が言う前に聞くようにもしています。それが合っていれば、「この人は自分が気になっていることを読み取ってくれるんだ」ということを共有できる。全然違うときもありますけど(笑)。

“似合う”を何にフィットさせるのか

WWD:“似合う”をどのように考えているのか。

細井:難しいですね。自分では「こっちの方が似合っている」と思っても本人が好きなのは違う方かもしれない。

本人が気に入っているかどうかより、周囲からどう見られるかを重視する人もいます。その場合はむしろ周りの人の好みに寄せたスタイルの方が帰ってから気にならないかもしれない。周囲の目を気にすることも、その人の一面なので。

一方で、顔のパーツだけを見たら似合っていなくても、「めちゃくちゃこの人っぽいな」と思うならそれもいい。色や肌との相性も一般的には合っていないかもしれないけれど、本人がそれを好きだったらそれでいいと思うんです。

WWD:顔や骨格だけで判断しているわけではない。

細井:「何にフィットさせるか」が大事だと思っています。その人の顔なのか、性格なのか、ファッションなのか。顔のバランスだけで見ればこっちの方がいい。でも、その人のファッションにフィットさせるなら違う髪型がいいこともある。その人らしさを作るときに「何にフィットさせるか」は大事ですね。

「自然なのになんかかわいい」が難しい

WWD:現在、自身が作るヘアスタイルをどのように捉えているのか。

細井:「スーパーナチュラル+α」という感じですね。すごく強いデザインではなくて、自然なんだけど何か一つある。例えば、そのまま仕上げればすごく自然なスタイルでも、一部分だけ質感を出すとか、前髪を5mm短くするとか。一カ所を変えるだけでちょっと違うスタイルに見える。

刺激的なものって意外と分かりやすいと思うんです。作る側も分かりやすいし、見る側にも伝わりやすい。でも、自然なのに「なんかかわいい」というものは難しい。そういうものを作る方が好きですね。

WWD:撮影やセミナーなど仕事の幅が広がってもサロンワークを続けている。

細井:結局、お客さまの悩みやこれまでの髪との付き合い方などを聞いて、自分の引き出しから「こういうスタイルが良さそうだな」とその場で考えて作ることが好きなんですよね。20年ほどいろいろな仕事をやってきて、やはりそこが一番楽しいかなと思っています。

「ホームランより、二塁打を打ち続ける」

WWD:「バシランド」ではオーナーを務めている。スタッフには何を伝えている?

細井:何かを一回やって終わるんじゃなくて、コンスタントに続ける方が大事だと思っています。今は「いいね」が多い、少ないなど、SNSで結果がすぐ見えやすい。なので、「これはダメなのかな」と思ってすぐやめてしまうこともある。でも、一回では分からないですよね。

ホームランを打てるなら打った方がいいですけど、なかなか打ち続けるのは難しい。だから、二塁打を打ち続けるセンスはすごく大事だと思います。

WWD:美容学生のころから変わっていないことはあるか。

細井:美容学生のころはとにかくうまくなりたいと思っていました。当時思っていた美容師像とは少し変わったかもしれないし、作るものややり方も変わったと思う。でも、「うまくなりたい」という気持ちは変わっていないのかもしれないですね。

店舗情報

■「バシランド(vaciland)」
時間:平日 11:00〜20:00/土日祝 10:00〜19:00
住所:東京都渋谷区神宮前4-22-9 J422ビルB1F

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