ファッション

“最高のふつう”を世界へ 好調ビショップの新たな挑戦と原点

ビショップ,Bshop,ビショップ ハンナム フラッグシップストア,Bshop Hannam Flagship Store1994年に兵庫・神戸で誕生したセレクトショップのビショップは、“暮らしに寄り添う定番”を信念に歩みを重ねてきた。創業から30年、現在では店舗数は43に増え、年商約140億円に成長し、常時約100ブランドを取り扱う。2025年5月には初の海外直営店を韓国・ソウルにオープンし、グローバル事業を本格始動させた。さらに、創業者・森省三の出身地である京都・京丹後では、約2万平方メートルの敷地を活用した、自然と共存する複合施設「ホリデーホーム(HOLIDAY HOME)」も運営し、都市とローカルの両面から“最高のふつう”を発信している。国内外で存在感を高めるビショップの真髄と、これから向かう先とは。

海外展開を本格化
韓国で広がるビショップ流“定番”

海外初の直営店ビショップ ハンナム フラッグシップストア(Bshop Hannam Flagship Store)は、延床面積約465平方メートル、2フロア構成で自社最大規模を誇る。ビショップは同店の出店に当たり、韓国市場の動向を10年以上にわたり注視し、ファッションブランドが集まる梨泰院通り沿いの好立地に満を持してオープンした。店内は、木材や左官の質感を生かした落ち着きと温かみを感じさせる空間で、ブランドの世界観“エブリデイ クラシック”を体現している。

1階は、同社が日本独占販売契約を結ぶ英国発「レイバー・アンド・ウエイト(LABOUR AND WAIT)」を中心に、ライフスタイル雑貨やキッチン用品を扱う。ビショップが長年打ち出してきた、ブランドの世界観を伝えるフロア構成だ。エントランス付近のポップアップスペースでは、シーズンごとの企画も実施する。

2階は、韓国で高い人気を誇る「ダントン(DANTON)」のアパレルからグッズまで幅広いラインアップをそろえる。ほかにも「オーシバル(ORCIVAL)」や「ジムフレックス(GYMPHLEX)」、さらに日本の「シンゾーン(SHINZONE)」「ゴールドウイン(GOLDWIN)」「アンフィル(UNFIL)」などが並ぶ、ゆったりとした空間だ。日本で培ったスタイルを韓国市場に向けて本格発信する旗艦店として、オープン早々から客足が絶えない。

日常の本質を追求した
ビショップ30年の軌跡

ビショップ韓国1号店の挑戦
日本らしさがどこまで通じるか

韓国展開も果たし、着実に勢いを増すビショップ。創業から30年、“好きなものを届ける”という哲学を貫いてきた背景には、変わらぬ信念がある。その先に見据えるビジョンと、グローバル展開への手応えについて、森威社長に話を聞いた。

WWD:初の海外直営店を韓国・ソウルに決めた理由は?

森威ビショップ社長(以下、森):社長に就任した10年前から、いつか海外で自社の取扱商品を売りたいと思っていた。その最初のステップとなったのが、就任とほぼ同時期に始まった韓国での卸ビジネスだった。以来、韓国市場を調査し続け、コロナ前あたりから、ソウルへの直営店出店を計画し始めた。日本で韓国人スタッフの雇用を増やし、スタッフ教育を行うなど準備を進め、ようやく実現した。

WWD:韓国進出を後押しした要因は?

森:ビショップでは、インバウンド需要の中でも韓国人観光客の比率が高く、当社の商品が受け入れられている実感があった。さらに、韓国のファッションシーンはこの10年で一段と多様化し、ライフスタイルとの結び付きもより強くなっている。音楽や食、カルチャー全体において本質的な価値を重視する動きが広がり、“用の美”を大切にする日本的な感性にも共鳴が見られる。こうした市場の変化も、出店を後押しする一因となった。

WWD:オープン後の現地の反応は?

森:オープンから1カ月間の売り上げは、想定比約160%と好調に推移している。中でも「ダントン」は安定した人気を誇り、現地でも幅広い層に支持されている。英雑貨ブランド「レイバー・アンド・ウエイト」も、実用性とデザイン性の高さから、ギフト需要として好評だ。取り扱いブランドへの反応からも、現地のニーズと私たちのセレクトの親和性を実感している。

WWD:韓国の顧客層は?

森:メインの顧客層は30〜50代で、日本と大きくは変わらない。ただし、韓国市場では日本に比べて男性客の比率がやや高く、現状では男女比がおおよそ4:6だ。韓国のウィメンズ市場は欧米志向が強い傾向にある一方で、メンズは日本とスタイルが近い。そうした違いが背景にあるのではと考えている。

WWD:店舗設計でこだわった点は?

森:こだわったのは、日本のやり方が韓国でどこまで通用するか、という点だ。店舗設計もコリアナイズドはせず、国内店舗と同じように、木材をベースにした温かみのある空間づくりを意識した。日本ではどうしても坪数が限られてしまうが、ソウル店はビショップの原点により回帰した、ゆったりとしたスペースになっていると思う。

変わらないブランド哲学
売れても売れなくても“好きなもの”

WWD:ビショップが支持される理由をどのように感じている?

森:私たちはこれまで、「普遍的で、自分たちが本当にいいと思うもの」、そして「誰かの暮らしに長く寄り添えるもの」を軸に、商品をセレクトしてきた。時代が移り変わってもシンプルでベーシックなものは残ると信じているため、トレンドに流されることなく、この30年間で取り扱いブランドを大きく入れ替えたことは一度もない。

魅力を感じるのは、ルーツや背景を持つブランドだ。作り手の思いや、彼らが触れてきた文化、その国の“匂い”が感じられるアイテムに強く引かれる。例えば、グループ会社のボーイズが2006年から日本総代理店を務めるフランス発の「ダントン」は、もともと作業着やユニホームを手掛けていたワークウエアブランドだ。同じくフランスの「オーシバル」は、1950〜60年代にフランス海軍の制服としてマリンTシャツを供給していた歴史を持つ。さらに、2年前から取り扱いを始めた韓国ブランド「ユノイア(EUNOIA)」は、韓国の彫刻や建築、陶器、瓦に見られるなだらかな曲線美をデザインに取り入れており、どこか韓国の伝統衣装を思わせるシルエットが印象的だ。

WWD:時代によって売れ筋も変わる中で、セレクトの方針を貫く理由は?

森:もちろん、時代の流れによって特定のブランドが売れたり売れなかったりすることはある。でも、売れる・売れないを基準に仕入れを決めたことはない。お客さまに「何のために、なぜ買うのか」を感じてもらうことが、何より大切だと考えているからだ。その思いがあるからこそ、“好きなものを扱う”という信念を貫いてきた。それがビショップらしさとなり、お客さまからの信頼にもつながっている。

WWD:今回、ビショップゆかりの地、京丹後久美浜の複合施設「ホリデーホーム」での取材だった。ここは森社長にとってどのような場所?

森:ビショップが掲げる“実直で日常に根ざしたライフスタイル提案”を体現する発信拠点だ。先代と私にとって京丹後は、生まれ育った“帰ってこられる場所”であり、この自然豊かな地で地域住民に必要とされる場所をつくりたかった。田舎の生活を少しでも豊かにできるような道具や服──そうした価値観は、ビショップのコンセプトとも深く重なる。「ホリデーホーム」の敷地内には、ホテルやレストランに加え、「ザ・ノース・フェイス」との共創店舗もある。ショップやホテルは、地域の雇用創出や久美浜という土地の魅力発信にもつながる。今後も地域と共に歩む拠点として育てていきたい。

WWD:最後に、森社長自身がこれから目指す先は?

森:韓国については、ありがたいことに、百貨店やテナントからもお声がけをいただいている。しかし、まずはこの1号店をしっかり軌道に乗せることが最優先。1階にポップアップスペースを設けているので、ビショップが注目している韓国や日本ブランドの展示なども実現したい。

ブランドとしては、「何年後に何店舗、売り上げ何億円」といった具体的な数値目標を掲げたことはない。目の前のお客さまに喜んでもらえる店舗づくりを大事にしたい。その積み重ねが結果につながってきたので、これからもその姿勢を貫いていきたい。

PHOTOS : YURIE FUNAI(TAKASE OFFICE)
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