「コーチ」2027年春夏コレクション 創立85周年、時間と記憶が紡ぐ「愛着」を未来へ
「『コーチ』の 85 周年にあたり、私は“記憶”と長く親しんできたものが、共に時を重ねるなかでどのように変化して いくのかについて考えました。過去を振り返るコレクションにはしたくありませんでした。85 年という歴史があるからこそ、自信を持って新たな未来を描いていくことができるのです」とヴィヴァースは語る。
その言葉がデザインや素材、風合いへと息を吹き込むように、ルック1つ1つに体現されていく。ファーストルックを飾ったのは、細身のシルエットがクラシックなムードを漂わせるテーラリング。シャープなショルダーラインやすっきりとしたスリーブ、流れるようなパンツなど、端正なシルエットがコレクションの軸となっている。
一方で、その仕立てには意外性が潜む。本来なら服の内側に隠れる裏地や芯地をあえて露出させるインサイドアウトの手法を取り入れ、ライニングに使われる生地を表地として採用し、クラシックなテーラリングに新たな解釈を加えた。さらに今季、ヴィヴァースが着目したのが、長く使い続けることで生まれる色あせやシワ、傷といった時間の痕跡だ。レザーにはゴールドやシルバーの金属箔を手作業で擦り込んだ“ラブド レザー(LOVED LEATHER)”を用い、紙吹雪やグリッターなどを重ねることで、1点1点異なる風合いを生み出した。また、ビンテージのレザーウエアやデニムを再構築するなど、すでに時間を重ねてきた素材にも新たな価値を与えた。
華やかな素材もただきらびやかに見せるだけではない。スパンコールには縫製後に製品染めとウォッシュ加工を施すことで、光沢や輪郭をあえて柔らかくした。どこか時間を経たようなニュアンスを加え、懐かしさを漂わせている。さらにメタリックフォイルや紙吹雪、グリッター、リボンといったパーティーを思わせる装飾も随所にちりばめた。ドレスアップの華やかさと、どこか手仕事の温もりを感じさせるディテールが混ざり合い、「コーチ」らしい遊び心のあるパーティースタイルへと仕上げている。
カラーパレットにはヴィヴァース自身の記憶に残るニューヨークの風景も反映した。彼が婚姻届を出した日のシティー・ホールの大理石や、歩道に散らばる紙吹雪から着想を得て、ダブグレーやソフトブラウン、ペリウィンクル、ミントなど、どこかあせたような色調で構成した。
自由なスタイルを提唱するベストセラーの“ブルックリン”は、内ポケットが飛び出したインサイドアウトのデザインに。1970年代のアーカイブとボニー・カシンが生み出したターンロックに着想した新作“ターンロック トート”が登場するなど、「コーチ」を象徴するバッグにも新たな解釈が加えられた。
そもそも「コーチ」のレザーバッグの原点は、使い込まれた野球グローブのしなやかさから着想を得たグラブタン・レザーにある。傷やシワを隠すのではなく、使う人と過ごした時間によって変化していくことを受け入れる。そんなブランドの原点にある価値観と、自分らしい個性やパーソナルな価値を大切にするZ世代の感覚が時代を超えて重なり合った。
山中はクラシックなジャケットスタイルにデニムを組み合わせた、ビンテージライクなブルックリンの雰囲気で登場した。KOHARUはポップなレッドカラーのスカジャンのユニホームスタイルで、シワ加工が施されたバッグ“タビー”に思いを馳せていた。福原はブラックレザーのスカートとブーツを合わせてモードな印象に。ホワイトのハーフジップトップスを合わせ、抜け感を演出している。それぞれがニューヨークスタイルを楽しむようなスタイリングを披露した。
今季のコレクションに込めたメッセージは「Love Is the Message(愛こそがメッセージ)」。人の手によって丁寧に作られ、それをまた人が身にまとう。そこから生まれる物語は平坦なものではなく、晴れた日もあれば雨が続く日もある。その人生そのものを愛と捉えた「コーチ」のまなざしは、1人1人が重ねてきた時間へと向けられている。