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ジェフ・クーンズが「ウブロ」との協業ピースに託した「愛情と配慮」というラグジュアリーの本質

「ウブロ(HUBLOT)」は9月16日、米国の現代アーティスト、ジェフ・クーンズ(Jeff Koons)とのコラボレーションモデルを発表した。展開するのは、世界限定で3色各200本の“クラシック・フュージョン バルーン ドッグ by ジェフ・クーンズ”(336万6000円)と、同30本の“MP-14 オリジン by ジェフ・クーンズ”(6549万4000円)の2型だ。

かつて安価と見なされていたラバーストラップを高級時計に持ち込み、業界の常識を覆した「ウブロ」。そして「バルーン ドッグ」に代表されるように、日常的なモチーフをパブリックアートへと昇華させ、同時代の感性を揺さぶってきたジェフ・クーンズ。常に既成概念の破壊と革新に挑んできた両者は、いかに共鳴し、新たなタイムピースを生み出したのか。ニューヨークでクーンズ本人に話を聞いた。

細部への徹底的な配慮こそが、他者への「敬意」になる

WWD:今回の協業に至った経緯は。

ジェフ・クーンズ(以下、クーンズ):声をかけてくれたのは「ウブロ」側から。とても光栄でしたよ。以前から彼らのものづくりには深い敬意を抱いていましたから。本社に招かれて2週間後にはスイスを訪れていましたが、スタッフやデザイナーはもちろん、素材科学者たち——クリスタルを人工育成する人、金属の新しい発色技術を研究する人、さまざまな特性のラバーを開発する人たち——と交わした対話は刺激に満ちていました。“MP-14 オリジン”も“クラシック・フュージョン”も、卓越したエンジニアリングの結晶です。極小の歯車やゼンマイを極限の精度で仕立てる技術と情熱、そして精緻を極めた内部機構に、完全に魅了されました。

私は制作において、あらゆるディテールに気を配ることこそが鑑賞者への敬意の表明だと信じています。たとえば私が一本のボトルを作ったとして、誰かがその底をのぞき込んだとき、表面とまったく同じ熱量が注がれていると伝わってほしい。底を見た人に「自分は大切にされていない」と失望させたくないのです。「ウブロ」との協業もまさにその精神に基づいています。作り得る最高峰を追求することこそが、手にする人に真のケア(愛情と配慮)と敬意を届ける方法だと双方が深く理解していました。だからこそわれわれは、持てる思考と技巧、そして情熱のすべてをこの時計に注ぎ込んだのです。

人間が他者に真に手渡せるものがあるとすれば、それ以上に価値あるものはありません。時計は日常に寄り添い、人生のあらゆる瞬間に伴走する素晴らしいプロダクトですが、世代を超えた大きな視点に立てば、われわれがそこに託せる最大の価値とは、やはり「ケア」と「敬意」なのです。

アートとは外にある物体ではなく、自らの内側に宿るもの

WWD:あなたの作品は普段、美術館やパブリック空間など巨大なスケールで展示されることが多い。身に着けて持ち歩く「時計」というスケールでの制作は、どのような体験だったか。

クーンズ:実に自然で、心地よいものでした。われわれは往々にして、アートを絵画や彫刻といった「外側にある物体」と捉えがちです。しかし本質において、アートとはわれわれ自身の内側に宿るもの。世界と対話する中で獲得する概念であり、人間が持つ可能性そのものです。何かに心を揺さぶられたとき、その真の価値は「自分の人生をどう豊かに変えてくれるか」にあります。その意味で、物理的な作品とは、内なる感覚を呼び覚ますための中継器(トランスポンダー)に過ぎません。

今回とりわけ胸が高鳴ったのは、私自身が「時間との対話」に深く魅了されているからです。歴史や生物学的な記憶、過去への敬意、そして今この瞬間を肯定し、未来へと歩みを進める勇気——そうした思索が好きでたまらない。人類は宇宙や天体の運行を観察し、変化を捉えるために時計を発明しました。時間を可視化し、秩序を与えることで世界への安心と信頼を獲得し、未知の可能性へと自己を開いてきたのです。この時計は、そうした人類の歩みそのものを祝福する存在になり得ると考えています。2つのモデルは、どちらも時間を深層から問いかける作品です。

“MP-14”は宇宙の創生、“バルーン ドッグ”は世界と触れ合う「膜」

WWD:“MP-14”に込めたクリエイティビティーを知りたい。

クーンズ:まず「ウブロ」には「MP(マスターピース)」というハイコンプリケーションのシリーズがあり、私のモデルはその14番目に当たると理解しています。そこに私は「オリジン(Origin=起源)」という言葉を添えました。オリジンとは万物の始まりであると同時に、絶え間ない連続性をも意味します。かつての起源が変化を遂げて「いま」を形づくっているように、それは過去の一点にとどまらず、現在進行形で息づくエネルギーでもあるのです。だからこそ“MP-14 オリジン”には「球体」の造形を取り入れました。すべての始まりであり、すべてを内包する原初のかたち。それはビッグバンのような爆発的エネルギーと膨張のメタファーです。

一方で、「14」は私自身のキャリアにおいても原点となる数字です。当時ニューヨークの14丁目にあったニュー・ミュージアムで、初期の代表作である『ザ・ニュー(THE NEW)』を発表しました。あの個展で探求したのは、時間と「新しさ」の概念、そして無生物と生命がいかに相互作用し得るかというテーマでした。

今回の時計も、まさにその相互作用の延長線上にあります。時計それ自体は精密な無生物ですが、同時に人類が培ってきた時間意識の歴史そのものを宿している。太古の人間が天体を見上げた瞬間にまで遡ることもできれば、いま目の前にある日常へとわれわれを引き戻しもする。過去から現在、そして未来へと意識を接続してくれるのです。

WWD:一方の“クラシック・フュージョン”では何を表現したのか。

クーンズ:「バルーン ドッグ」に代表される私のバルーンアニマルは、個と外界をつなぐ「インターフェース(接触面)」です。人間の皮膚を思い浮かべてみてください。それは内面と外界を隔てる膜であり、「いま、ここ」に存在する境界線です。しかし、その膜の内側へと意識を向ければ、そこには遺伝子やDNA、生物学的な記憶という悠久の過去が眠っている。

この時計も同様です。表面は「いま」を映し出しながら、深層には生命の起源を宿している。そして同時に、知的な意味において未来へと開かれた姿勢をも内包しているのです。

風船の膨らみは、生への賛歌であり「人間性への信頼」

WWD:未来を見通す知性。つまり、時計にスピリチュアリティ(精神性)を吹き込んだということ?

クーンズ:そう受け取ってもらえたら嬉しいですね。美術史のラテン語の名句に「われアルカディアにもあり(Et in Arcadia ego)」という伝統的な主題があります。このバルーンアニマルも、人間存在のメタファーとして捉えることができます。深く息を吸い込んだとき、われわれの身体は生命エネルギーと酸素に満ちたバルーンそのものです。体内で連続する化学反応が、われわれの意識に「瞬間」をもたらしている。

しかし裏を返せば、風船がいつか萎むように、それは死の影を背負った存在でもある。だからこそ、私はあえてピンと張り詰めた「膨らみ」の造形を与えるのです。生の対話を肯定し、未来を信じるための楽観主義として。この膨らみこそが、人間性への信頼であり、より良い未来を拓いていけるという信念の表明なのです。

反射する鏡面が促すのは「汝自身を知れ」という内省

WWD:あなたのこれまでの作品は、鏡面仕上げのステンレススチールに鑑賞者自身が映り込むことによる「相互関係」が核にあった。腕時計の制作は、これとは前提が異なるように思うが。

クーンズ:いえ、その哲学は今作にも息づいています。“MP-14”は非常に高い反射性を備えていますし、“クラシック・フュージョン”のシルバーや鮮烈なブルーも、「ウブロ」の素材科学によって発泡するような輝きを放ち、周囲の光を跳ね返します。そして何より、先ほどお話しした「膨らみ」という生命的なメタファーが存在感を発揮している。

私にとってアートとは哲学的な対話です。私が鏡面を多用するのは、哲学において最も重んじられる行為が「リフレクション(省察・内省)」だからです。古代ギリシャのデルポイのアポロン神殿に刻まれた「汝自身を知れ」という格言ですね。自分自身を見つめ、思慮深くあること。

ギリシャ神話のナルキッソス(自己愛)の物語は、しばしば鏡像への執着を戒める文脈で語られますが、私はむしろ、自分を直視することを恐れさせ、自己肯定感を奪う抑圧として働いてきたのではないかと考えています。人は誰もが、あるがままの自分を受け入れ、自らの存在の完璧さを認めるべきなのです。だからこそ私は、反射する表面を通じて「自分自身と向き合う勇気」を提示し続けています。

好奇心を突き詰めた先に、「普遍的な語彙」がある

WWD:アーティストとして、制作のさなかに「これはアイコニックな作品になる」と確信するものなのか。それとも、評価は人々に委ねるのか。

クーンズ:アーティストにできるのは、ただ純粋に自分の興味・好奇心に従い、そこに全神経を集中させることだけです。妥協なく己の関心を掘り下げていけば、表現は必然的に「普遍的な語彙(Universal vocabulary)」へと到達します。

身の回りのあらゆる事物の豊かさや、物事の根底にある関係性に気づき、「すべては繋がっている」と理解できたとき、個人の探求は時代や文化を超えたナラティブへと昇華される。これはアートに限りません。時計師であれ、歯科医であれ、数学者であれ、自らの興味を極限まで深めた人間は、個を超えた大きな領域と接続するのです。「バルーン ドッグ」も「パピー」も、「マイケル・ジャクソン・アンド・バブルス」も「ザ・ニュー」も、すべてはそのプロセスから生まれました。

AIの時代だからこそ、人の手による「ケア」を信じる

WWD:「ウブロ」のマニュファクチュール(時計工房)を訪れた際、とりわけ驚かされた技術や工程はあったか。

クーンズ:時計の心臓部である複雑な内部機構を間近で見られたこと、そしてジェムセッティング(宝石の石留め)の工程に立ち会えたことです。“MP-14 オリジン”には無数のダイヤモンドがあしらわれていますが、職人たちが極小の石を狂いなく留めていく精度、集中力、そしてクラフツマンシップには息を呑みました。ものづくりの真髄を知ることは、現代においてかつてなく重要な知性だと感じます。

現在、私はAIというテクノロジーにも強い関心を持っています。倫理的に向き合うべき課題は多いものの、人間の経験を拡張し、世界をより良く理解するための情報をもたらしてくれる存在として、その可能性に心を開いています。

一方で、だからこそ、人間の手による「ケア(配慮と愛情)」の価値が際立つのだとも考えています。私は今の時代だからこそ、これまで以上にラグジュアリーの本質を信じています。卓越した技術で丹念に何かを作り上げること、伝統のひと針ひと針を継承していくこと。そうした誠実なケアこそが、人と人とを結びつける架け橋になるからです。「ウブロ」との協業は、われわれが世界へ向けてそのケアを示す、この上ない機会となりました。最高峰のクリエイティビティーを追い求め、互いに敬意を払い合うことで生まれたこの時計を通じ、温かなケアと愛が世界に届くことを願っています。

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