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元美容部員のTikTokライブでコスメが売れる理由 「買ってくださいとは言わない」

SNS発でモノが売れるようになり、企業のプロモーション先として重要度が増している。特にTikTokは、短尺動画ならではの分かりやすさとTikTokのアルゴリズムによるコンテンツレコメンド機能により拡散されやすく、TikTokで紹介した商品が売れる“TikTok売れ”といわれる現象もトレンドになっている。こうした“TikTok売れ”は短尺動画だけではなく、TikTokライブでも起こっている。

「あやさん【元美容部員】」(以下、あやさん)は、TikTokライブでコスメを紹介する美容系クリエイターで、TikTokとインスタグラムのSNSの合計フォロワー数は13万を超える。ライブ配信では顔を出さず、商品レビューを中心に視聴者とトークを重ねる。ライブコマースで扱う商品としては高額の5500円のまつげ美容液“ラッシュリッチ”を、2週間で7回のライブ配信で紹介し、配信実施前後14日間の比較で売り上げ240%増という記録をつくった。“ラッシュリッチ”は予想以上の売れ行きを受けて予約受注に切り替えるなど、“TikTok売れ”商品となった。

ライブコマースは“買わせるためのライブ配信”というイメージを持つ人が多いかもしれないが、あやさんは「『買ってください』と言ったことは一度もない」と話す。「まつげ美容液の紹介では、『いろいろなまつげ美容液を試した中でも本当に感動した商品』という自分自身の感動体験を伝えたことが売り上げにつながった。感動の表現として、『買えなくなったら困るから本当は教えたくない』などリアルな思いを話した」という。

ライブ配信中のあやさんの体験談だけでなく、コメント欄に視聴者の購入報告や使用レビューの投稿が相次ぎ、相乗効果を生んだことも売れた理由だ。こうした“TikTok売れ”は一度や二度のライブ配信では作れない。TikTokライブで商品の良さを伝え、視聴者からの信頼を高める方法は何か。

売れる秘訣は“知識”と“商品を好きになること”

あやさんは美容部員として11年間、百貨店カウンターや化粧品専門店で働いた経験を持つ。SNSを始めたきっかけは、コロナ禍による顧客のカウンター離れとSNSの影響力の大きさを実感したことだといい、「以前は『この美容部員さんから買いたい』と選んでいただくことが多かったが、最近はSNSで気になった商品を指名買いする人が多い。美容部員の存在意義を改めて考え、それならばインフルエンサー側になって発信しようとアカウントを開設した」。

TikTokではライブ配信だけでなく短尺動画も投稿するが、美容の専門家として深い美容知識を伝えるには短尺動画は不向きだという。そこで短尺動画では分かりやすさを重視して商品紹介動画を作り、ライブ配信ではより深い美容情報や商品レビューを行う。

目指すのは“TikTokの中の美容部員”のような立ち位置だ。「美容部員時代から売り上げを上げるマインドではなく、ブランドを知ってもらい、好きになってもらうことが、売り上げにつながると考えてきた。その考え方は今のライブコマースでも変わらない」といい、百貨店カウンターに行って情報収集をしたり、新しい商品を使ったりして知識を増やし、その情報を視聴者に伝えている。

企業から依頼を受けて行うライブコマースでも同様だ。“ラッシュリッチ”のライブコマース前には、企業が行う勉強会を受けて商品の理解を深めた。「この商品は定期購入による販売を行っているが、1カ月の使い切りを推奨していることや、継続使用のおすすめする理由を伝えると視聴者も納得していた」。こうした情報も、視聴者の背中を押した。

あやさんは、「自分が商品を好きにならないと良さを伝えられない。美容部員時代には自分の苦手なカラーが新色として販売されることもあったが、苦手な色をどう使ったら好きになれるかを考えてお客さまに伝えていた。ライブコマースでも同じで、自分が好きな部分を伝える」という。

ライブコマースは長い時間をかけて熱量を伝えることが必要なため、ライブ配信者の商品知識量はプレスリリースやパンフレットから得られる情報だけでは不十分だ。特にTikTokライブは視聴者からのコメント量が多く、ライブ配信者が視聴者と矢継ぎ早にやりとりで会話を行うのが特徴で、ライブ配信者が本当にその商品を好きでなければ熱量は伝わらない。ライブコマースを依頼する企業側は、インフルエンサー(ライブ配信者)に商品への思いを伝え、好きになってもらう時間を作ることが必須だ。あやさんは「TikTokは新しいバズを生み出す、SNS動画の中でも新しい伝え方ができる場所。企業が考えた売り出し文句やセールスポイントをライブ配信者に伝えるのではなく、表現方法を委ねることも重要」だと指摘する。

TikTokライブでどのように信頼とファンを獲得するか

あやさんは週の半分以上の日数を目標にライブ配信を行い、多い時には週5日行うこともある。毎回2時間ほど配信しているが、多くの時間をコメント返しに費やす。視聴者層は30〜50代と幅広い。「視聴者からのコメントに返しながら自分の話したいことを話していたら2時間はあっという間に過ぎてしまう。そのため毎回配信テーマを決めて、今日はクレンジングだけ、ベースメイクだけと紹介することで多くの質問に答えられるように工夫している」。

こうした双方向コミュニケーションに力を入れたライブ配信を継続することで、美容に詳しいという認知や信頼度が上がったといい、「『こんなに寄り添って話してくれるなんて』とか『自分が使っている商品がどんな思いで作られたのか初めて知った』といった感想をいただく機会も増えた。短尺動画では伝えられない部分だ」と話す。

TikTokの運用支援やクリエイター支援を行うウルトラソーシャル(URTLA SOCIAL)の調査によると、TikTokライブの視聴者は平均85〜90%がフォロワー外の新規ユーザーだ。これは、アルゴリズムがアカウントや配信内容を学習し、関心を持ちそうなユーザーにもライブ配信を表示するためだ。

そのためライブ配信を継続しても同じ視聴者が見るとは限らないが、「TikTokライブは匿名性が高く、コメントすることへのハードルが低い。気軽に質問をする人が多く、配信に対するコメントが少なくて困ったことはない。また、事前に配信時間を設定したり、同じ時間に配信したりすることで、フォロワーも見にくる習慣がついてくるようだ」とあやさん。

あやさんをよく知るフォロワーと新規フォロワーが集うことで、コメント欄で会話をしたり、あやさんの代わりに質問に回答したりと視聴者のコミュニティーができあがった。中には現役美容部員によるコメントも多い。

このような継続した配信とライブ配信者の深い知識量、視聴者との交流で信頼を得たことが、前述のような感動体験の説得力につながっている。モノを売るだけではなく、ブランドや商品の背景などを伝える手段としても、TikTokのライブコマースは取り入れる価値があるだろう。

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