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コンサルティング会社、ローランド・ベルガー福田氏が示す、今企業がとるべきアクション

 新型コロナウィルスによる外出自粛要請がどのくらい続くかによって、アパレル、化粧品への影響は計り知れないのと同時に、なかなか見通しが立たないのが現状だ。短期(新型コロナ拡大の状況下)、中期(外出自粛解禁直後)、長期(収束、ポストコロナ)で、どのようなアクションをとるべきなのか。「2030年アパレルの未来 日本企業が半分になる日」(東洋経済新報社)の著者であり、ドイツを本拠とする経営戦略コンサルティングのローランド・ベルガー日本法人 パートナーでもある福田稔氏に聞いた。

WWD:新型コロナウイスル感染拡大により、アパレルの消費にどのような影響をもたらすのか?

福田稔ローランド・ベルガー パートナー(以下、福田):まず、中長期的にみて、人々の価値観において、次の6つの価値志向が強まると思う。①安全・安定志向、②節約志向、③本質追求志向、④家中充実志向、⑤家族志向、⑥社会協調志向。これでいうとアパレル消費に対してダイレクトにプラスに働く要素がなく、むしろ節約志向でマイナスに転じてしまうことが多くなり、今後の見通しは厳しい。衣服そのものの消費額が減ってくると予想され、一時的にリベンジ消費があったとしても、ポストコロナではもとには戻らないだろう。以前の9割になるのか、8割になるのかも、いつ収束するかによって変わってくる。

当社は今後の見通しを3つのパターンで仮に想定し影響を試算しており、シナリオA=6月に終息し、夏は消費が一時的に活性化、シナリオB=8月に終息し、秋は消費が一時的に活発化、シナリオC=10月に一旦終息するも、消費は年末まで冷え込みそのまま不況となる。インパクトを定量化したのは経営者に意志決定の参考材料を提供したかったからであり、刻々と変わる状況の変化に合わせてスピーディーに意志決定を行うことが求められる。

WWD:海外ではオンラインでアパレルやコスメの売り上げが伸びているところもあるが、日本もそのような動きにはならない?

福田:まずはEC化率とECを含めた全体の売り上げを分けて考えるべきで、EC化率は上がっても全体の売り上げは下がっている。大手セレクトショップなどでは、EC化率は伸びており、自粛生活が長くなればなるほどECによる購買は加速していく。3月のECの売り上げは昨対110~120%で伸びている一方、実店舗は同50~60%になっているため、全体の売り上げはマイナスだ。EC化率は上がっても不要不急のファッションに関しては当然消費意欲も下がるため、全体の消費は減っている。より百貨店チャネルに店舗が多い国内総合アパレルは大手セレクト以上に打撃は大きい。

WWD:デジタルを伸ばすには、それに比例して投資なども必要だと思うが、今何をすべきか?

福田:当然、消費者もオンラインシフトが進むので、それによりデジタルチャネルをめぐる企業間の競争が激しくなるだろう。デジタルマーケティングに投資した費用に対してどのくらいの顧客を獲得できたのか、一人あたりのCPA(Cost Per Acquisition=一顧客あたりを獲得するコスト)は今後デジタル広告にシフトすることにより上がるため、企業はそれを見据えた踏み込んだ投資が必要になる。これまでのネット投資と同じ延長線上でやっていても思った以上の効果が得られない。

D2C型のMDサイクルに変える

WWD:オンラインシフトに比重を置いた場合にやるべきポイントは何か?

福田:商品投入の仕方、つまりD2C型のMDサイクルに変える必要がある。これまでのように年間でシーズンを7~8に分けたサイクルで販売するだけではなく、いかに商品を連続的に出していくのかが大事になってくる。オンライン専門ブランドは毎日1商品投入することもあり、サンフランシスコ発のD2C型アパレルブランド「エバーレーン(EVERLANE)」は、ファストファッションではなくベーシックアパレルだが、週に3~5型の新商品を打ち出すことで、継続的にサイトに来てもらうようにしている。最初のロットはミニマムにする“多品種少量型”のシーズンサイクルで、顧客とインタラクティブなコミュニケーションを図っていくことが重要だ。

サプライチェーンではなく“サプライウェブ”という考え方

WWD:そのようなスピード感を持ったモノ作りには安定したサプライチェーンの構築が不可欠だ。

福田:今後はサプライチェーンのデジタル化が重要になってくる。サプライチェーンを特定の国や地域に寄せているとリスクがある。中国だけに頼らず分散化させ、東南アジアや国内といったシームレスなサプライチェーンを作っていくべきだろう。そもそも“サプライチェーン”という概念を変えていかないといけない。チェーンとはつまり“鎖”でつながっているということ。分断されてしまうとチェーンが機能しなくなる。“サプライウェブ”という考え方でシームレスにウェブでつながることが今後重要になってくる。香港の大手商社リー&フォン(LI & FUNG)は、モノ作りのデジタル化を早くから進めており、付き合いのある工場に投資して必要なものをデジタルで仕入れ、アメリカの企業に対してもサンプルもデジタルで依頼している。

WWD:今後、アパレル、化粧品企業がとるべきアクションとして御社のリポートでは短期(新型コロナ拡大の状況下)では①オンラインチャネルの強化とシフト、②デジタルを通じたブランドエンゲージメントの強化、③コスト削減、キャッシュポジションの見直しを挙げている。中でも②に関して、中国の事例では動画系SNSなどを通じたKOL(キーオピニオンリーダー)の口コミが購入の意志決定につながっている。今後、ライブコマースも進んでいくか?

福田:化粧品の方が、メイクアップのハウツーなどを説明するのにECやライブコマースと相性がよい。ただ国内のファッション分野でも5Gの時代になると、動画を活用したビジネスはこれから伸びていく。ファッションは、ライブコマースなら影響力のあるインフルエンサーを起用するのがよいのではないかと思う。今後さまざまなチャネルが増えていくだろう。

WWD:化粧品は、長期的には市場は回復すると思うか?

福田:日本の場合はインバウンドが大きな売り上げを占めていたため、インバウンドが戻らなければ市場はもとには戻らないだろう。

WWD:中期(外出自粛解禁直後)で取るべきアクションとして「解禁需要の刈り取りとシェア拡大」を挙げているが具体的にはどういうことか?

福田:アパレルではすでに発注した商品はあるが、秋以降は発注していない企業がほとんどだ。“自粛要請が解けた際に売るものがない”という状況になる可能性もある。柔軟に対応できるどうかは、在庫現状に合わせてサプライチェーンがクイックレスポンスできるかどうか、企業がどのくらいキャッシュを持っているのかなどにもよるため一概には言えないが、いかに迅速に対応できるかがカギだ。

日本でも“リベンジ消費”は起こるのか

WWD:新型コロナが収束しつつある中国は、“リベンジ消費”なる現象も起きているが、日本でも一時的にもそのような状況になるのか。

福田:どのシナリオパターンになるかによってリベンジ消費の額とそれが続く期間は変わってくる。シナリオAのように夏頃に人が街に出られるようになれば、それなりの売り上げが期待できるが、自粛解除が長くなればなるほど、当然リベンジ消費の期間は短くなり、シナリオCの場合は、それはほとんど期待できない可能性がある。街に出られれば、その分一時的にオフライン(実店舗)の売り上げは上がるだろう。

WWD:中期、長期的なアクションとしては、「社会的責任に基づく企業活動の見直し」を挙げている。サステナビリティの強化ということか?

福田:冒頭に述べた人々の価値観の変化で「安全・安定志向」と「社会協調志向」を挙げたが、今後間違いなく、消費者のサステナビリティへの意識は高まる。日本の企業はサステナビリティに対する活動のギアをもう一段上げていかないと消費者はどんどん離れていく。サステナブル・アパレル連合(SAC)に世界では200社以上の団体や企業が加盟している中で、日本では現在5社しか入っていない。各社が企業責任でベーシックな活動として、環境負荷の低減に努めるべき。もちろんグリーンウォッシュ(あたかも環境に配慮しているかのように見せかけること)ではいけない。

WWD:サステナビリティに取り組むことは、経済活動の制限になると思うか?コストや時間がかかるとして二の足を踏む企業も多いかもしれない。

福田:無駄な人を多く雇っていたり、無駄な在庫を抱えていたり、すでにある企業活動の中で無駄が多いことも事実だ。それらを見直すことで、サステナビリティに対する経営資源は捻出できるはずだ。それは経営者の意識にもかかっているだろう。欧米では、インフルエンサーを筆頭に消費者もその考え方にシフトしている。日本もそうなるだろう。

WWD:長期的(収束、ポストコロナ)に企業のとるべきアクションとして「組織、資源の本格的なデジタルシフト」を挙げている。これは具体的にはどのようなことか。

福田:DX(デジタル トランスフォーメーション)を推進する人がデジタル化に必要なアクションをきちんと理解していないと、DXはうまく進まない。日本全体の問題として言えるのは、意志決定者や推進者に50、60代のデジタルを苦手としている昭和世代が多いということだ。組織をフラットにしてデジタルネイティブ世代にDXを推進する権限と力を与えるなど、組織の構造改革や世代交代も必要だ。

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